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『廃校の華さん』 ~不登校の僕を救ってくれたのは、スカジャンを着た元・トイレの花子さんでした~  作者: アオギリ ユズル


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 怖い…怖い…怖い…ここは廃校になった中学校。


 100年は経過したと思われる校舎の床は歩く度にミシっと鳴り、僕は情けない声を上げる。

目的である3階の女子トイレに着いた僕は、右手の懐中電灯を握り締め、3番目の個室の前で大きく深呼吸をした。


 まずは3回その場で回る。そして、3回ドアをノックする。


 トントントン「……は、花子さん。あ、あそびま……うわぁー!」


 僕は駆け出す。別に何かが見えたり聞こえたりした訳ではないが、怖くなって逃げだす。廃校に行き、花子さんを呼び出し、怖くなって逃げる。僕はこの一連の流れを3週間、毎日行っている。


 しかし、今日の僕は家に逃げ帰ることが出来なかった。


 女子トイレの入り口に背を預けて腕を組み、入口の反対側に足を延ばして通せんぼをする人がそこにいたからだ。


「おうおう、少年よ。どういう了見で毎日毎日トントンダッシュしてんだぁ。こらぁ!!」

そう言って伸ばした足を勢い良く地面に下ろす。


 よく見ると、キャップを斜めにかぶり、スカジャンを着た、中学二年生の僕より少し年上に見えるお姉さんが口をへの字に曲げて立っている。コンビニの前にいたら僕のような小心者は俯いて目を合わせないように前を通り過ぎるだろうタイプのお姉さんだ。


「今日は金次郎とベートーベンと人体模型で麻雀打ってて、負けそうな所で四暗刻すーあんこうテンパってたんだけど、どうしてくれるんだぁ。こらぁ!!」


 金次郎、ベートーベン、人体模型この組み合わせは……、でもよく言われている風貌ふうぼうとは全然違う。


「おうおう、なんか言ったらどうだ。黙ってちゃ分かんねぇぞ!!」


「……花子さん……ですか?」

僕は恐る恐る尋ねた。


「謝る前に人の名前を尋ねるとはいい度胸だな!」

そう言ってお姉さんはニヤリと口角を上げる。


「花子……その名前はもう捨てた。今ははなって名乗ってる。当然、漢字は一文字のカッコいい方だ!」


 確かに華という漢字はカッコいい。でもその言い方が少しバカっぽい。


「その表情は、おかっぱ頭に白いシャツ、赤いスカートにサスペンダーじゃなきゃ納得いかないって顔だな。でも今時そんな恰好の奴いるか?私は常識にとらわれない最先端のファッションをするぜ!!」

そう言って華さんは後ろを向き、スカジャンの背中に描かれた桜の刺繍を親指で指す。


 確かに似合ってはいるが最先端なのだろうか?ファッションに疎い僕には分からないが何か違う気がする。


「は、はい。毎日トントンダッシュしてすいませんでした」

とりあえず謝って家に帰りたい。


「おいおい、お化けや幽霊に謝って済むならはらい屋なんて職業はいらねぇんだよ」

そう言って華さんは腕組みしながら僕を睨みつける。


「そ、そんな。僕、今、お金は千円しか持ってません」

嘘だ3千円もっている。


「金なんていらねぇよ。私には使えねぇだろ。そうだ、スイーツだな、スイーツを持ってこい。持って来ないと呪っちゃうかもしれないぞー」

華さんはおどろおどろしい声を作って、両手をだらりと下げ幽霊のポーズ?をする。


 ようやく解放された僕は帰路に就く。何だか変なものに絡まれてしまった。家に帰った僕は泥のように眠り、起きたのは夕方だった。部屋の前に置かれたご飯を食べ、適当にアニメを見て時間を潰す。午前0時を回ったのを確認し、両親が寝静まっていることを確認してコソコソと物音を立てないように家を出る。


 こんな生活を数か月続けている。当然、僕は学校に行っていない。不登校児だ。


 最初は、大柄なあっ君がわざとぶつかってきて「小さすぎて見えんかったわ」と笑う程度だった。そのうち子分のいっ君が丸めた紙をぶつけてきて、「低身長に人権はない。黙れホビットが!!」と罵るようになり、周りも同調して笑う。


 1か月もしない内に僕が歩いているのを見るだけで「ホビットが歩いてる」とクラス中が陰口を言うようになって、耐えられなくなった僕は学校に行かず家に引きこもるようになった。

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