↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/11

第8話:魂鑑定

この世界に来て 3日目


王宮へ保護されて 2日目の朝


◇ ◇ ◇


翌日。朝は前日と同じようにミラとガクに手伝ってもらいながら、準備を終わらせる。


朝食は、食堂と自室のどちらにするか選ばせてくれたため、親はあまりマナー等を気にしなくてよさそうな、自室を選択したのだった。

マナーも勉強せねばならないと理解しているが、昨日の今日で頭がパンク寸前の状態でできるはずもない。


朝食を食べながら、悶々と考えている親に、ミラが王からの連絡事項を伝える。


「異邦人様、陛下より言伝を預かってまいりました」


親が食事から顔を上げ、にこやかな表情で報告をしているミラのほうへ顔を向ける。


「朝食後、召喚の間へお越しいただきたいとのことです」


親は目を瞬かせる。


――なぜ召喚の間なのだろうか


そう疑問に思ったが、行けば分かるかと自分の中で納得すると、ミラに感謝を伝える。


「わかりました。ありがとうございます」


しばらくして朝食を食べ終えると、ミラが手際よく食器を片付け始めた。

召喚の間へは、ガクの案内で行くことになった。


「では、参りましょう」


ガクは親の前へ歩み出て、先導していく。そんなガクの後ろを歩きながら、親は少しだけ胸が躍っていた。

これから向かう召喚の間は、親にとって初めて足を踏み入れる場所だ。

しかも過去の異邦人たちが召喚された場所でもある。

何をするのかわからない未知への緊張はあることに加え、子どものこともある。

だが、歴史の始まりとなった場所をこの目で見られるという期待が、胸を弾ませた。



「ここが召喚の間となります」


執務室とは比べ物にならないならないほど、巨大な扉の前でガクが足を止める。

白銀の大理石と思わしき石で造られた大きな扉には、魔法陣のような模様が描かれている。

扉の真ん中には青い石がはめ込られており、とても神秘的な造りになっていた。


親は、驚きと感動で、ぽかんと口が開いたまま扉を見上げる。

一方ガクは、予想通りと言わんばかりに苦笑いを浮かべる。この扉を見ることができた者は、皆同じ反応を見せることを彼は知っていたのだ。


今だ固まっている親に、ガクは優しく声をかける。


「ここで少々お待ちください。もう少しで皆様お見えになるかと思います」


その声で我に返った親は、ガクを見て返事をしようとした瞬間。


「おや、もう来ていたのかい」


後ろからリアムの声が聞こえてきた。親は、反射的に振り返った。その目に映ったのは、リアムが複数人を引き連れてこちらに向かって歩いてきているところだった。


――ルイさんより大きい人がいる


親の身長がちょうど170㎝に対して、ルイの身長はそれよりも高く、だいたい185㎝ほどなのではと感じていた。だがそれよりも幾分か大きく見える。

その大きな人を含めて、親が初めて見る顔が2人いた。


一行が親たちの元まで歩み寄る。

ガクは丁寧に一礼している。

親も日本ならではのお辞儀で挨拶した。


「おはようございます」


リアムは、にこやかに片手を上げる。


「おはよう」


ルイは、軽く頷いて口角を少し上げる。


「ああ、おはよう」


初対面の男性2人は、右手を腹部へ添えて、深く一礼した。


親もその礼を見て、慌てて再びお辞儀をしたのだった。


リアムは皆が挨拶を済ませてことを確認すると、扉の前まで歩みを進める。


親の横を通り過ぎるリアムを目で追いながら、親の脳裏に昨日の一幕が蘇る。


――敬語を外してもらってよかった


実は、あの質疑応答の時間が終わる間際。親は、自分の中でどうしても気がかりだったことを、リアムたちに打ち明けていた。


「自分勝手の申し出だとは重々承知しています。でもお三方には、自分に対して敬語を使わないでいただきたくて! ……敬語を外していただくことは可能でしょうか」


目上の相手に敬語を使われるというのが、どうしても耐えられなかったのだ。

本当は言うべきかどうか直前まで迷っていた。しかし言いづらくなる前にと、意を決して口にしたのである。

親は、リアムたちにとってこの願いは、苦渋の選択をさせてしまうと感じていた。


案の上、申し出に対して、リアムたちはしばらく悩んだ。

リアムたちの立場上、王国にとって大切とされている異邦人に対して、敬語を外すというのは、如何なものかと。


しかし結果的に、リアムたちは親の願いを承諾したのである。

というのも、リアムの元にちょっとした噂が届いていた。1部の臣下たちが、異邦人への王の態度に少し不満があると話していたという内容だった。

親が王宮に来てたったの2日目、されど異物が来て2日も経った。

敬愛する自身の王が、何のために来たのかも分からない、イレギュラーな異世界の人間に、へりくだるような態度をしていた。

1人の人間が何気なくぽろっと零せば、あっという間に広まってしまうのが世の理である。しかも、そこに尾ひれがつけば、もはや最終的に原型はとどめていない。


噂を聞いて、早々に対処せねばと思っていたところに、親から今回の申し出を受けた。リアムは正直、ちょうどいいのではと考えた。

異邦人を軽く見ているわけではない。結局いつかは噂の対処をしなければ、大事になりかねない。ならば、この申し出を利用させてもらい、敬語を外してしまえば収拾がつくと算段したのである。


実際は、王族としても1人の人間としても外したくない。という思いでいっぱいのリアムたちであったが、その胸中を知る者は誰もいない。



「では、入ろうか」


親が昨夜のことを思い返しているうちに、リアムは扉の前まで移動していた。


リアムが扉にはめ込まれている青い石に手を翳す。すると扉に描かれていた模様が輝き始めたのだ。

かと思えば、その輝きはあっという間に収まった。代わりに、普通ならびくともしないだろう扉が、リアムの手であっさりと開いてしまった。


「え……」


すっと開いてしまった扉に、うっかり漏れてしまった親の声が、思いのほか廊下に響く。


皆が平然と扉の中に入っていく中、ルイが親の隣に立つのが気配で分かった。


「この扉は、陛下の魔力に反応して開く仕組みになっている。簡単に入れては、悪用されてしまうからな」


驚いている親に、ルイが小声でそっと教える。


なるほどと親が納得していると、ルイが親の背中に手を添え、部屋へ入るよう促す。


「行こう」


親が頷いて、促されるまま部屋へと足を踏み入れる。

その部屋は、内装まで扉のような神秘的な造りをしており、まるで……


「まるで協会みたいだな」


天井を見上げ、室内を見まわしてから、思ったことがぽつりとそのまま口から出た。

そんな親の独り言に、リアムが反応する。


「はは、やはりわかるかい。ここを召喚の間として神聖な場所にしたくて、教会をイメージして造らせたときいているよ」


独り言が漏れてしまったことと、それを拾われてしまったことに、親は少し照れくさそうにしながらも、会話として返答した。


「なるほど。そうなんですね!」


2人のやりとりを尻目に、エドマンドと今日初めて会ううちの1人が何やら準備をしている。

部屋の中央に、台座に載った綺麗に透き通った水晶玉を置く。


やがて準備が終わり、リアムが全員を水晶の周りに呼ぶ。

親も倣って、水晶の元へ近づいた。

集まったことを確認し、親へ視線を向けたリアムが、口を開く。


「今日はまず魂鑑定をしてほしい」


そう伝えられた親は、理解するのに少し間が空いた。


「…………え!? これからするんですか!?」


水晶に見とれていた親は、ばっとリアムの方を向く。

まさにびっくりしました、という表現がぴったりの声だった。


「事前に伝えてなくてすまない。神官がこの後到着すると急に通達があってね。それに霊廟で祈りを捧げるために、午後から外出するなら名前が分かっていた方がいいかと思って」


リアムは申し訳なさそうに事情を説明する。


「それなら今しかないと君たちを急遽、招集させてもらった」


そう聞いて、それなら仕方ないかと再びあっさり納得した親だった。


その時、親の後方にある先ほどの扉が突如力強く開けられた。そしてそこから背後に光を纏っているかのような神々しい人物が、颯爽と入ってきた。


「やぁ諸君! 待たせたね!」


腰まである綺麗な銀髪のウルフカットに、切れ長の目、陶器のように白い肌、すらりとした長い脚、どこをとっても彫刻のようで、天使の遣いかと錯覚させられるような人間だった。


――声までいいなこの人


しかしあのような登場の仕方で、1番驚きで飛び上がりそうな親が、意外と1番落ち着いていた。扉が突如開いた際も、特に驚いた様子もなく、ワンテンポおいてから振り返ったのだ。


ではなぜ落ち着いているのか。それは、先程のリアムの説明から、ある事を思い出し、親の頭の中は半分その事で埋まっていた。もちろん、もう半分はずっと子どもの事である。


そのある事とは、リアムの説明にでてきた〈霊廟で祈りを捧げる〉という言葉。これは、日本的に言えばお墓参りのことだ。

しかし昨日、王族や英雄に値する活躍をした人物の墓参りのことを、〈霊廟で祈りを捧げる〉というのだと、ルイが親へ密かに教えていたのだ。


そのお陰で、リアムがした説明を理解することができたのだ。


――教えてもらってなかったら分からなかったなぁ


などと他人事のようにふけっていたところに、あの人間が登場という流れだ。


そうして一拍置いてからのあの感想である。若干、あの人間が不憫に感じられなくもない。


その人物へ、リアムが歩み寄る。


「やぁ、久しぶりだね」


「リアムよ! 久しぶりだな」


その掛け合いに、仲は悪くなさそうということが伺える。2人が握手をしたのち、改めて紹介の場が設けられた。


「異邦人殿、こちらは神官長の……『〈テオフィル・エルベネス〉だよ、よろしく異邦人殿!』……だよ」


現国王の言葉を遮って自己紹介をしたこの男は、教会で神官長を務める〈テオフィル・エルベネス〉。この世で最も神に愛されし者と言われている。


「こっちの眼鏡をかけているのが、『国王側近の〈ユスト・ヴェリタス〉と申します』……です」


またもや現国王の言葉を遮って自己紹介をしたこの眼鏡をかけた男は、国王直属の側近で〈ユスト・ヴェリタス〉。この王国で、王に対し最も遠慮なく意見できる人物だと言われている。


そしてついに最後の人物。だがリアムは2度遮られたことで、心が折れたのか、肩を落とし俯いていた。レオンには無言で手だけで紹介を終わらせる。見かねたレオンが、すぐさま自己紹介を始めたのだった。


「初めまして、異邦人殿。私は、騎士団で団長を務めております、〈レオン・ヴァルガール〉と申します。以後お見知りおきを」


しっかりと敬意をもって、右手を左胸に添えて、軽く一礼した。かと思えば、最後にはウィンクで締めくくったこの男は、〈レオン・ヴァルガール〉。あの騎士団団長であり、容姿端麗で、言動が緩いため軽い男に見えがちだが、実際は騎士団の中で1番熱い男である。


全員の自己紹介が終わったところで、神官長のテオフィルが水晶に近寄り、皆を呼び集める。


「こちら側の自己紹介は終わったね! では、さっそく魂鑑定をやってしまおう。異邦人殿、水晶に手を置きたまえ!」


テオフィルは腕を広げ、親を招く。

呼ばれた親は、心の準備の時間すらない状況に、心拍数がどんどん高まる。

それでも、子どものためならなんでもすると決めたのだ。一度短く息を吐いて、水晶にそっと手を置いた。


準備が整い満足気のテオフィルは、にやぁっという効果音が似合いそうな顔をしたまま、口上を口にする。


「神官長テオフィル・エルベネスの名において、魂鑑定の儀を開始する」


そう言って、水晶に自身の手を翳したのち、「魂の鑑定」と唱えた。

すると、水晶から水のようなものが噴き出してきた。それはまるで生き物のように動いたかと思うと、頭上から親の全身を包み込んでいく。親は、それに対して不思議と恐怖を感じることなく、身を委ねた。


やがて水のようなそれが水晶の中に戻っていった。皆が見守る中、少しして水晶の上空に先ほどの水が丸くなって現れた。

テオフィルは親に、「両手をいれて」と言った。

親が言われるがまま、丸くなった水へ手を入れた瞬間、何かを掴んだ感覚があった。

その時、一瞬にして丸くなっていた水が水晶へ再び戻っていったのである。

同時に、親の手は何か書かれている紙を掴んでいた。


「これは?」


言いながら、自分の方へ持ってくる。まじまじと紙の文字を追っている親は、周りに凝視されていることさえ気づかない。

親がいつの間にか持っていたその紙には、親の情報が記載されていた。


――なるほど、これが世界に登録された情報ってことか


――こんな情報まで載っちゃうんだ


魂鑑定の仕組みは既に説明されている。それと今回のこの紙を照らし合わせると、自ずと理解できた。


1人で納得していると、リアムたちから声をかけられる。


「異邦人殿、どうだったかな? 登録書の情報は合っていたかな」


気遣っているように聞こえるが、リアムたちを見ると、紙もとい登録書を見たくてウズウズしているのが見てとれた。


親はくすりと笑って鑑定書をリアムに手渡す。


「お待たせしました。どうぞ」


受け取ったリアムは、感謝を伝えて早々に登録書を見る。

それに便乗して、他の人たちも頭を突き合わせて見る。


過去の異邦人たちの登録書も、文献に大事に保管されている。当然リアムたちは、何度も目を通している。


魂鑑定の登録書には、いくつかの項目とその人物にとって重要とされた情報が備考に記載される。


〈名前、年齢、適正魔法、現魔法ランク、潜在ランク、備考〉


魔法とは、この世界で生きていくには非常に大切な力だ。体内や自然界に存在する魔力を操り、現象を引き起こす技術である。

そして適性魔法とは、その人が生まれ持った才能や資質によって、特に扱いやすい魔法を指す。

ちなみに現在、この世界で確認されている魔法を種類別に分類すると


〈属性魔法、回復魔法、補助魔法、特殊魔法、精神魔法、神聖魔法〉


この6つに分けられる。



現魔法ランク・潜在ランクとは、魔法の威力、魔力量を表すものである。ランクの階級は5段階で、上から


〈GOLD、RED、YELLOW、BLUE、VIOLET〉


つまり、最高ランクGOLD、最低ランクVIOLET となる。

測定時に、潜在ランクが現魔法ランクより上位の場合、努力次第でその潜在ランクへ到達が可能ということ。



そのためリアムたちは、今回の親の魂鑑定にも少しばかり期待していたのだ。

巻き込まれたといえども、異邦人は異邦人。それなりの魔法とランクが付与されるのではと。


だが登録書に書かれていた内容は、良くも悪くもリアムたちの想像を超えるものだった。


◇ ◇ ◇


【登録証】


ムスフィシパ王国 異邦人 登録情報


【名前】〈あみふり けい〉

     (愛降 慧)


【年齢】〈29歳〉


【適性魔法】〈空間魔法(特殊魔法)〉〈闇魔法(属性魔法)〉


【現魔法ランク】〈RED〉


【潜在ランク】〈GOLD〉


【備考】〈20歳の時、両親を失う。24歳の時、姉夫婦を失う。その後、当時3歳だった姉の子を引き取る〉


◇ ◇ ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。