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暗闇が動く。そこにいる、光が届かないギリギリの所で様子を伺ってるのがわかった。フゥーフゥーと呼吸音、物凄い威圧感、ミシリと足音がしてゆっくりと、堂々と明るい場所に姿を表したそれは。
でかい。目を爛々とさせた熊は四つ足で歩いていて俺よりも体高がある。立ち上がったらどれだけだろう。完全に俺を餌さとして見て、負けるなど微塵も考えていないだろう態度で近づき、闘気が迸ると同時に咆哮を上げた。
グガアアァー!
俺が硬直したのがわかったのか一気に距離を詰めて襲いかかってきた。
ドシンッッと結界にぶつかる。空気揺れたよ今!すげーよ熊!すげーよ結界!お願い頑張って結界石!
初めて経験するだろう見えない壁に苛立ち、叫びながら立ち上がって爪を繰り出した。バッシンバッシンと見えない壁を壊そうとしてる。
トラバサミは避けられてるのか気付いてないのか。煙にお願いするとやっと出番だ!とばかりに熊の顔を覆い薬を吸わせる。
鬱陶しいのだろう、頭を振り両手で煙を散らそうとするが煙は問題なく頭にまとわりつく。罠の方に俺が移動すると逃げると思ったのか追ってきたが、バチンッと足を挟まれ絶叫した。
全力で暴れてトラバサミを外そうとしてる。チェーン切れるかもしれない。
自分が傷を負うとは思っていなかったんだろう、目は血走り口から泡を吹いて怒り狂って大暴れだ。めっちゃ怖い。薬が効いてないってどれだけの胆力なんだよこいつ。
煙の量は減ってるから吸い込んでるのは確実なのにまったく弱らない。お願いして毒煙を作る、仕方ないけどチェーンが切れたら毒で攻撃だな。
怖いんだけど、めっちゃ怖いんだけど!緑達の明るい声で、がんばれー、もうすこしだー、いけいけー、って応援が聴こえるんだよ。運動会を思い出して体の強張りが消えたよ。声、可愛いんだよ。
応援が効いたのか煙が全て熊の中に消えた。てか無理やり入っていったような気がする。
だんだんと咆哮に力強さがなくなり動きも鈍くなってきた。やっと効いてきたらしい。毒煙の出番はないな。ごめんよー。
フラフラになっても睨み付けられてたけど、とうとう意識を失って倒れてくれた。
はぁー!怖かったー!
安心したら足が震えてきた。様子見もかねてちょっと休憩。薪で頭を叩き完全に寝込んだことを確認してから気合いを入れる。
トラバサミを外しロープを結んで丈夫そうな枝にお願いしてぶら下げる。それでも重い。前足も胴体に軽く縛って頭の下に穴を掘る。
なるべく無駄にしない、有り難く頂きますと祈ってから頸動脈を切る。じーさんから狩るなら出来るだけ利用しろ、必要のない狩りはするな、狩ったなら獲物に感謝をしろと教わった。獲物の大小関係なく守ってきた約束。唯一感謝しなかったのはあの大蜘蛛だけだ。
穴の中に溜まっていく血液。眠りながら死んでいく熊を見ながら日本にいたら絶対経験しなかったよなーと思った。自分で狩をして肉にして食べて初めて、いただきますとごちそうさまの本当の意味を知ったと思う。それまでも魚を釣り自分で料理はしていたからなんとなくは感じていたけど、釣りは遊びの意味合いが強かった。たくさん釣れれば褒められ美味しく食べる。でも動物を殺すのはまったく別物で罪悪感が凄かった。魚も同じ生き物だけど育った環境によるのかな、肉はスーパーで買うものだったから肉になるまでを知らなかった、知ってはいたけど実感はしてなかったからショックはでかかったんだろう。




