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第4話 憂鬱なOL編-黒光りのトレーナー

「では説明しよう!」


そう言ったガイ山ガイ児は、なぜかそこで一度、大きく胸を張った。

ただ立っているだけなのに、黒い。厚い。うるさい。

情報量が多い。


「つまりだ! ガイジマキシングとは、心だけをどうこうしようとするものではない!!!!!

まず身体を変える!!!!! 身体を起こす!!!!! 胸を開く!!!!!

その結果として、心まで前を向きやすくする実践思想なのである!!!!!」


「実践思想……」


「そうだGUYS!!!!!

きれいごとだけでは人間は変わらん!!!!!

特に君のように、疲れ、縮こまり、考えすぎるタイプには、筋肉と有酸素が必要だ!!!!!」


なぜそこまで言い切れるのだろうか。

でも、言われてみれば反論もしづらかった。


たしかに私は、疲れている。

縮こまっている。

考えすぎてもいる。


「……でも、私、運動ほとんど続いたことないんですけど」


「よろしい!!!!!

それはむしろ、今の君が“未完成”であるという証拠だ!!!!!

完成していないなら、伸びしろしかない!!!!!!」


すごい前向き変換だった。


「それに、続かなかったのは君の意志が弱いからではない!!!!!

仕組みがなかった!!!!! 出力の導線がなかった!!!!! ただそれだけのことだ!!!!!」


導線。

なんだか仕事みたいな言い方だ。


「君は今まで、心が元気になってから動こうとしていたのではないかね?」


「……はい」


「逆だ!!!!!!

動くから、少しだけ元気になるのだ!!!!!!」


言われた瞬間、少しだけ息が詰まった。


そうかもしれない。

私はずっと、元気になったら変わろうとしていた。

もっと前向きになったら。

もっと自信がついたら。

もっとちゃんとした人間になれたら。


でも、そんな日は全然来なかった。


「では!!!!!!」


ガイ山ガイ児が、急に私の正面に立った。

近い。厚い。黒い。


「まずは現在地を測る!!!!!」


「えっ」


「安心したまえGUYS!!!!!

いきなりバーベル百キロなどは持たせん!!!!!

今日は“今の君”を知る日だ!!!!!」


それは少しだけ安心した。

百キロの心配はしていなかったけど。


「立ってみたまえ!!!!!」


私は言われるままに立ち上がった。


「気をつけの姿勢で、楽に立つ!!!!!

ただし、楽とだらしなさを混同してはならん!!!!!」


難しいことを言う。


私はとりあえず、足を揃えて立った。

するとガイ山ガイ児は、私の周りをゆっくり一周した。


怖い。

品定めされているみたいだ。


「ふむ……」


その一声だけで、なぜか通信簿を待つみたいな気分になる。


「やはり巻いている!!!!!」


「ま、巻いてる?」


「肩だ!!!!!!

左右とも前に入っている!!!!!

首も少し前だ!!!!!

骨盤もやや後ろへ逃げている!!!!!」


なんか全部ダメっぽい。


「だが悲観する必要はない!!!!!

これは“終わっている”姿勢ではなく、“始められる”姿勢だ!!!!!」


「そんな言い方あります?」


「ある!!!!!! ここにはある!!!!!!」


この人、本当にずっとこうなんだろうか。


「では次!!!!!

腕を前から上に上げてみたまえ!!!!!!」


私は言われた通り、両腕を前から持ち上げた。

途中で肩のあたりがつまる。


「あ、ちょっと詰まるかもです」


「よし!!!!!! 自覚があるのは良いことだ!!!!!!

ではそのまま耳の横まで持っていけるか!!!!!!」


頑張ればいける。

でも楽ではない。


「い、いけます……けど、なんか変な感じです」


「その“なんか変な感じ”が、今まで無視され続けてきた君の身体の声だ!!!!!!」


急にちょっといいことを言う。


「君は頭の中のノイズばかり聞いてきた!!!!!

不安!!!!!! 比較!!!!!! 将来!!!!!! 他人!!!!!!

だが、身体の声はずっと後回しだったのだ!!!!!!」


……それは、たしかにそうかもしれない。


私は、自分の肩の重さとか、息の浅さとか、脚のだるさとか、そういうものをちゃんと考えたことがほとんどなかった。

いや、考えてはいたけど、全部「仕方ない」で済ませてきた。


「では次に、椅子に座って立つを十回!!!!!」


「えっ、もうやるんですか?」


「当然だ!!!!!!

ここは説明だけで帰す場所ではない!!!!!!

身体は、少し使って初めてわかる!!!!!!」


そう言われて見れば、たしかに私はまだパイプ椅子に座っただけだ。


ガイ山ガイ児はさっき私が座っていたパイプ椅子を指さした。


「深く座る!!!!!!

脚は腰幅!!!!!!

そして反動を使いすぎずに立つ!!!!!!

それを十回!!!!!!」


「……スクワットみたいな感じですか?」


「“みたい”ではない!!!!!!

ほぼその入口だ!!!!!! だが今日は入口でいい!!!!!!」


入口。

それなら、なんとかなるかもしれない。


私は少しだけ息を整えて、椅子に腰を下ろした。


「いきます……」


「ヘイGUYS!!!!!!

顔は前だ!!!!!! 下を見るな!!!!!!

君は今まで下を見すぎた!!!!!!」


そんなことまでわかるのか。

でも確かに、私は気づくといつも少し下を見ている。


「……1」


立つ。

座る。


「2」


立つ。

座る。


「3」


思ったより太ももにくる。

こんな動き、毎日しているはずなのに。


「4」


「呼吸を止めるなGUYS!!!!!!」


「は、はいっ」


「5」


ちょっときつい。

まだ半分なのに。


「6」


「脚が弱いと、心もすぐ座りたがるぞGUYS!!!!!!」


どんな理論なんだ、それは。

でも笑う余裕はない。


「7」


「胸を落とすな!!!!!!」


「8」


「立つたびに、少しだけ前を向け!!!!!!」


「9」


太ももが熱い。

息も上がる。

なのに、不思議と嫌な感じはしなかった。


「10……!」


最後の一回を立ちきったところで、私は思わず「ふーっ」と大きく息を吐いた。


するとガイ山ガイ児は、満足そうにうなずいた。


「よろしい!!!!!!

今の十回で、君はさっきより少しだけ“起きた”!!!!!!」


「そ、そんなすぐに変わるものですか……?」


「大きくは変わらん!!!!!!

だが、ゼロと一は違う!!!!!!

動かなかった身体が動いた!!!!! それだけで十分意味がある!!!!!!」


私は太ももをさすりながら、少しだけ笑ってしまった。


変な人だ。

変な場所だ。

でも、ここに来る前よりは、ほんの少しだけ頭の中が静かだった。


「……見学って、こんなにやるものなんですか」


「もちろんだ!!!!!!

なぜなら君はもう、半分こちら側だからだ!!!!!!」


「それ、勝手に決めないでくださいよ」


「では聞こうGUYS!!!!!!」


ガイ山ガイ児は、黒い胸板をさらに張って言った。


「来週も来るかね?」


私は少しだけ黙った。


正直、まだわからない。

怪しいし、うるさいし、意味のわからない単語も多い。

でも――


「……考えておきます」


そう答えると、ガイ山ガイ児はなぜか大きく笑った。


「よろしい!!!!!!

“考えておく”は、昨日までの君ならゼロだった言葉だ!!!!!!

今日は前進だGUYS!!!!!!」


なんか悔しい。

でも、少しだけその通りかもしれない。

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