表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/15

第3話 憂鬱なOL編-双葉駅前の5階

ドアをくぐった瞬間、まず思ったのは、思っていたよりちゃんとしているだった。


もっとこう、怪しいセミナー会場みたいなものを想像していた。

変な壺とか、よくわからない成功者の写真とか、謎の標語が壁一面に貼ってある感じの。


でも実際は違った。


店内は意外と清潔だった。

黒を基調にした内装に、銀色のマシンが並んでいる。

床はきれいに磨かれていて、変な匂いもしない。

いや、正確には少しだけ汗とゴムの匂いがした。

でも、それはちゃんとジムの匂いだった。


「ようこそGUYS!!!!!」


受付の奥から、あの黒光りした大きな男が現れた。


近くで見ると、やっぱりでかい。

黒い。

厚い。

顔はよく見えない。というか、見えているのに印象が残らない。

なのに胸板と声だけは、やたらと存在感がある。


「見学かねGUYS!!!!! それとも入門かねGUYS!!!!!」


「えっ、あ、あの……見学、です……」


「声が小さい!!!!!!」


やっぱり帰ろうかな、と思った。


「帰らせはせん!!!!!」


エスパーの能力でもあるのだろうか。


「す、すいません・・・」


「謝る必要はなぁい!!!!!

 まずはそこに座るといい!!!」


そういわれて私はパイプ椅子に腰を落とした。


「あ、あの、このチラシを見てきました」


キラキラと光るチラシを手渡す。


「グレイト!!!!!

 君もマックスガイジを目指したくなったということだね!!!」


「えっと、チラシにもあったと思うんですけど

 ガイジマキシングとは何でしょうか・・・?」


「なるほど!ではその質問に答えよう!

 ガイジマキシングとは!!!!!」


「ガイジマキシングとは?」


「私みたいになることだっ!!!!!」


意味が分からない、何を言っているのだろうか。

また私の頭の上にクエッションマークが浮かんでいる。


「どうやら意味が分からないといった顔をしているな!」


やはりエスパーなのだろうか。


「私の名前はガイ山ガイ児!!!

 何を隠そうマックスガイジだ!!!!!」


だめだ、理解が追い付かない。


「つまりだ!私のようになるためのジムである!

 ガイジマキシングとは私の様なマックスガイジになり

 この生きづらい世の中を前向きに!元気に!全力で!

 楽しむことである!!!!!」


「いいかね、まず君は特に姿勢が悪い。

 特に肩が巻いている、それは防御本能から来ているものだ。

 君は社会や人に対して警戒心を抱いてはいないかね?」


当たっている、最近は人との関わりも減って

孤独だと感じる時間が多くある。


「はい、確かに少しその気はあるかもしれません。

 ただそれがガイジマキシング?とどう関係あるのでしょうか」


「では説明しよう!!!!!

 まず、人間は不安を感じると身体が縮こまる!!!!!

 これは気合いの問題ではない!!!!! 生き物として自然な反応だ!!!!!」


「自然な反応……?」


「そうだ!!!!!

 敵がいるかもしれない、怒られるかもしれない、傷つくかもしれない。

 そう感じたとき、人間の身体は無意識に自分を守ろうとする!!!!!」


ガイ山さんはそう言うと、自分の肩を大げさに前へ入れてみせた。


「するとこうなる!!!!!

 肩が内側に入る!!!!! 胸が閉じる!!!!! 首が前に出る!!!!!

 これが巻き肩の入口だ!!!!!」


「あ……」


「君もそうなっている!!!!!

 ずっと警戒している人間の身体だ!!!!!」


たしかに、最近の私はずっと身構えていた気がする。

怒られないように。面倒を増やさないように。

変なふうに見られないように。

そんなことばかり考えていた。


「でも、姿勢って気をつければ治るものじゃないんですか……?」


「半分正しい!!!!! しかし半分甘い!!!!!」


甘いらしい。


「気をつけるだけで一瞬は直る!!!!!

 だが、支える筋肉が弱ければすぐ戻る!!!!!

 意識だけでは人間は変わらん!!!!! 身体の土台が必要だ!!!!!」


「土台……」


「そうだ!!!!!

 まず体幹だ!!!!! 体幹が弱いと身体の軸が定まらん!!!!!

 軸が定まらないと、頭も首も肩も前に逃げる!!!!!」


言われてみれば、私は立っていてもどこか身体が落ち着かない感じがある。

真っ直ぐ立っているつもりでも、気づくと片足に体重をかけていたり、首が前に出ていたりする。


「さらに背中だ!!!!!

 君は胸側ばかり縮み、背中側が働いていない!!!!!

 だから胸が開かん!!!!! 肩甲骨も動かん!!!!!

 結果として、姿勢はどんどん守りの形になる!!!!!」


「守りの形……」


「そうだ!!!!!

 防御本能が強い人間ほど、姿勢まで防御的になる!!!!!

 だから改善するには、腹を固める!!!!! 背中を使う!!!!! 脚で立つ!!!!!

 この三つが重要だ!!!!!」


なるほど。

勢いはすごいけど、言っていることは意外とちゃんとしている。


「じゃあ筋トレって、見た目のためだけじゃないんですか?」


「もちろん見た目も大事だ!!!!!!

 だがそれだけではない!!!!!!

 筋トレとは、自分の身体に“前を向ける形”を覚えさせる行為だ!!!!!!」


ちょっとかっこいいことを言われた気がする。


「そして有酸素運動!!!!!!

 これは君みたいに頭が重い人間に特に効く!!!!!!」


「頭が重い……」


「考えすぎるということだ!!!!!!

 不安が多い人間は、脳の中で同じことをぐるぐる回しやすい!!!!!!

 だが歩く、漕ぐ、走る。そうやって一定のリズムで身体を動かすと、思考は前に流れ始める!!!!!!」


「そんなに変わるものなんですか?」


「変わるとも!!!!!!

 有酸素運動をすると血流が上がる!!!!!! 呼吸も深くなる!!!!!!

 すると脳が“ずっと危険だ”と勘違いしていた状態が少しゆるむ!!!!!!

 人は、縮こまったままでは前向きになれんのだ!!!!!!」


私は思わず、自分の肩を触った。

たしかに今も少し内側へ入っている。


「つまりだ!!!!!!

 ガイジマキシングとは、ただ元気を出すことではない!!!!!!

 防御本能で縮こまった身体を、鍛え、動かし、開いていくことだ!!!!!!

 その結果、心まで前を向きやすくなる!!!!!!」


「……」


「心だけ変えようとしても難しい!!!!!!

 だが身体から入れば、心はあとからついてくることがある!!!!!!

 私はそれを何度も見てきた!!!!!!」


なんだろう。

やっぱり全部理解できたわけではない。

でも、自己啓発動画みたいにふわふわした感じはしなかった。


身体。

筋肉。

呼吸。

血流。

そういう逃げようのない話をされると、逆に少しだけ信じたくなる。


「……じゃあ、私でも少しは変われるんでしょうか」


ガイ山ガイ児は、黒い胸板を張って言った。


「もちろんだGUYS!!!!!!

 ただし、いきなりマックスを目指す必要はない!!!!!!

 まずは“少し胸を張れる自分”から始めればいいのだ!!!!!!」


私も変われるのだろうか。


「では、君の現在地を見ようじゃないかGUYS!!!!!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ