第十四話 風の向こうにいたもの
ミーティングが終わり、メンバーがそれぞれの待機室へ散っていったあと、トレインはひとり風の塔の外縁に設けられた小さなテラスへ出た。
重厚な扉が背後で静かに閉まり、室内に満ちていた人の気配と灯りの密度が一枚隔てられた途端、夜の空気は思った以上に澄んでいることへ気づく。風の塔の高層部へ開かれたその空間には、人工の明るさが最小限しか届いておらず、そのぶん夜そのものの輪郭がくっきりと感じられた。石造りの床は昼間の熱をほとんど残しておらず、靴裏からは高みに特有のひんやりした感触が伝わってくる。欄干は胸の高さほどで、そこへ埋め込まれた細い風晶線が落下防止のための風圧帯を目に見えない形で張っているらしかった。人のために整えられた安全な場所でありながら、ほんの一歩先にはどこまでも深い空が広がっている。その境界の薄さが、かえってこの場所の静けさを際立たせていた。
空は広く、そして深かった。
見上げれば、星々が冷たい水面へ散らされた光の粒のように静かに揺れている。地上から見る星空より、ずっと近く、ずっと鋭い。空に近い都の高みから眺める星は、ただ遠くで瞬くものではなく、それぞれが確かな位置と重さを持って闇へ留まっているように見えた。ひときわ明るい星もあれば、視線を凝らしてようやくそこにあると分かる淡いものもある。そうした無数の光のあいだを、目には見えない風の流れが確かに通っていると想像すると、夜の空そのものが巨大な海みたいに思えた。
視線を少し下げれば、スカイタウンの夜景が遥か下方に広がっている。
昼間の賑わいを知っているはずの街が、夜になると別世界のように穏やかで、美しかった。風灯の明かりは通りごとに細く連なり、塔の窓辺や橋の欄干に沿って橙の粒を灯している。風路に沿って浮かぶ小さな艇の灯も、ときおり流星の欠片のように移動し、交差し、また遠ざかっていく。人々の暮らしが営まれている気配は確かにあるのに、いまここから眺めると、そのすべてがひとつの静かな呼吸にまとめられているように見えた。遠くの鐘の音が風へ乗って届くたび、塔も橋も屋根も、街全体がそれを受け止めて一度だけ深く息をするようだった。
トレインは欄干へ手をかけ、しばらく何も言わず、ただ夜空を見上げていた。
言葉にしようと思えば、いくらでもできたのかもしれない。第一試験を突破したこと。第七班という新しい組み合わせのこと。明日から始まる《漂流島制覇》への緊張。リリムの言葉が胸へ残していった温度。そうしたものが頭の中にはいくつも浮かんでいる。それでもこの夜の高さの前では、無理に何かを考えるより、ただ空を見ていたい気持ちのほうが強かった。
――この空の向こうに、何があるのだろう。
その問いは、初めて思いついた疑問ではない。トレインの中では、もうずっと昔から繰り返されてきた問いだった。答えを持たないまま、何度も胸の奥で形を変えてきた問いでもある。今日こうしてスカイタウンの風の塔に立ち、空域走破試験を越えたあとでさえ、その問いは少しも擦り切れていなかった。むしろ空の一端へ触れたことで、問いのほうがさらに深く、さらに遠くまで続いていると知ってしまった気がする。
まだ幼かったころの記憶が、風にほどけるように胸の中で静かに浮かび上がってくる。
アストリア村の断崖。夕暮れどきの草地。誰もいない崖の縁に腰を下ろし、足を投げ出して風に耳を澄ませていた日々。あのころの自分は、空へ憧れるというより、空の中に何かがいるような気がしていた。風が吹くたび、ただの音ではないものが混じっている気がした。葉擦れや草の揺れる音とは違う、もっと内側へ触れてくるもの。言葉と呼ぶには曖昧で、旋律と呼ぶには形がない。それでも、たしかに胸の奥へ届く“何か”だった。
あの頃のトレインは、それを誰にどう説明すればよいのか分からなかった。
村の子どもたちと走り回っているときも、家で母の手伝いをしているときも、ふとした拍子に断崖の風を思い出した。誰もいない場所で耳を澄ませていると、自分だけに何かが話しかけてきているような、そんな気がした。気のせいだと言われれば、たぶんそうなのだろうとしか返せなかったかもしれない。けれど、その“気のせい”は日に日に濃くなり、やがて彼にとっては気のせいでは済まないほど確かなものになっていった。
「……ねえ、ダリオン。空の向こうから声がするんだ」
まだ背も低く、いまよりずっと幼い顔で、そう口にした日があった。
工房の裏手、風の通りがよく見える場所だったと記憶している。ダリオンは工具を拭く手を止め、しばらく黙ってトレインを見つめていた。呆れたように笑うでもなく、すぐに否定するでもなく、ただ、その言葉の重さを測るような目だった。長い沈黙のあと、老人はゆっくりと頷いた。
「それは、誰にでも聞こえるもんじゃない」
低い声が、風の音へ自然に重なった。
「風と星を、本当に愛する者だけが感じる“呼び声”だ」
そのときのトレインには、その説明で十分だったわけではない。むしろ、ますます分からなくなった部分もある。呼び声とは何か。誰が呼んでいるのか。空の向こうにいる“何か”が自分を呼ぶとは、どういうことなのか。正確には分からない。けれど、だからこそ知りたかった。風の声を。星のまなざしを。そして、自分へ届いていたあの存在の正体を。
その輪郭は、最初から最後まで定かではなかった。
燃えさしのように揺れる紅の灯が、人の形を象っているようにも見えた。見つめれば影のように溶け、視線を外すと、またそこにいるような気配が生まれる。熱を持っているようにも、冷たい空気と同じもののようにも感じられる。不思議な存在だった。
彼が“それ”に出会ったのは、まだ本当に幼い頃だった。
アストリア村の外れ、誰も近づきたがらない断崖の上。
風がよく吹くその場所へ、トレインはほとんど毎日のように足を運んでいた。草が揺れる音。葉が擦れる音。雲が流れる音までも聞こえる気がするほど、高い場所は静かだった。高いといっても、アストリアそのものがすでに地上から遠い空に浮かんでいるのだから、断崖の上はさらにその上を覗き込む場所だった。そこに立つと、世界は広すぎて、少しだけ怖く、そしてどうしようもなく魅力的に見えた。
ある日、風の匂いに混じって、“それ”は現れた。
夕陽が落ちきる少し前、草の先に赤みが残り、雲の縁が燃えているように見える時間だった。いつものように断崖へ座り込んでいたトレインは、ふと視界の端に、ゆらりと揺れる灯りのようなものを見つけた。最初は虫か、遠くの風灯の反射かと思った。けれど、その灯りは草の揺れとは違う速さで呼吸するように揺れ、しかも立っているように見えた。炎のようなのに、燃えてはいない。影みたいに曖昧なのに、確かにそこにいる。
最初は驚いて声も出なかった。
逃げようと思ったかどうかさえ、いまではよく覚えていない。ただ、不思議と恐ろしくはなかった。危害を加える気配がなかったからかもしれないし、もともとトレインの中に「この断崖には何かがいる」という感覚がどこかで根づいていたからかもしれない。“それ”は、ただそこに、ぼんやりと立っていた。
「……ねえ、君は、風の精霊?」
ようやく出たのは、そんな間の抜けた問いだった。
“それ”は少しだけ動いたように見えた。揺れた、と言ったほうが近いかもしれない。そうして、風が答えるように、やわらかい声が届いた。
「うーん。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」
声は男とも女ともつかなかった。年齢も分からない。幼いようにも古いようにも聞こえる、不思議な響きだった。なのに、その声はなぜか最初からずっと知っていたものみたいに耳へ馴染んだ。
「じゃあ、名前はあるの?」
トレインがさらに訊くと、“それ”はほんの少し考えるような間を置いた。
「名前? ……ないよ。どこにでもいるから」
「じゃあ、“どこにでもいるやつ”って呼んでいい?」
幼いトレインにとって、それはごく自然な提案だった。名前がないなら、呼びやすい名前をつければいい。風の精霊かもしれないし、そうでないかもしれない謎の存在へ向かって、そんな気安い呼び方をしようと思えたこと自体、彼がその相手をすでに怖がっていなかった証なのだろう。
“それ”は笑ったような気がした。風が少しだけ丸くなる。
「いいよ。君が呼びたいように呼べば、それがわたしの名前になる」
そうして何となく始まったその会話は、いつの間にか日々のものになっていった。
トレインが断崖へ来ると、風と草のざわめきの中に、“それ”はいた。必ず姿を見せるわけではなかった。見えない日もある。けれど、気配はいつもどこかにあった。風が少し違う匂いを運んできたり、草の先だけが他より長く揺れたり、日陰に赤い灯りの欠片みたいなものが見えたりすると、ああ、いるのだと分かった。
好きな星の話。空へ飛んでいった鳥のこと。昼間に見た変な雲のこと。母に叱られた話。ダリオンに訓練で何度も転ばされたこと。そういう小さな出来事を、トレインは断崖へ座るたび、ぽつぽつと言葉へしていった。相手はいつもたくさん喋るわけではない。トレインが言葉を投げると、ときどきふっと返してくる。その距離感が、ますます“友だち”のように感じられた。
「……君は空に行きたいの?」
ある日、“どこにでもいるやつ”がそう訊いた。
「うん」
トレインは迷わず答えた。
「風の中に入って、星に近づいてみたい。……それができたら、きっと楽しいよね」
そのときの彼にとって、「空に行く」という願いは、まだ職業や試験の話ではなかった。もっと単純で、もっと純粋な憧れだった。いま自分を撫でていくこの風の中へ、自分ごと入ってみたい。見上げるしかない星へ、少しでも近づいてみたい。理由はそれだけで十分だった。
「そっか。それなら、行けるといいね」
“それ”の返事は、拍子抜けするくらい自然だった。無理だとも、大変だとも、夢見がちだとも言わない。行けるといいね、とただそう言っただけなのに、その言葉はひどくあたたかかった。
あまりにも自然な会話だった。
いつしかトレインは、“それ”を友だちみたいに思うようになっていた。人間ではないのかもしれない。精霊ですらないのかもしれない。けれど、自分が断崖へ行けばいてくれて、変な話も真面目な話も受け止めてくれる相手を、友だちと呼ばずに何と呼べばいいのか分からなかった。
あの頃――まだ風の匂いが、世界でいちばん大きな謎のように思えた頃。
断崖の上で、トレインはよく寝転んだ。手足を投げ出し、雲の形を追っては、意味のないような言葉をぽつぽつ呟いた。
「……ねえ、あれ、猫に見えない? しっぽがふにゃってしててさ」
上空をゆっくり流れていく雲のひとつを指差すと、隣で揺れていた灯りは少しだけ傾いた。
「そう? わたしには魚に見えるなあ。食べられそうな」
「えー、猫が魚になったら、魚が怒っちゃうよ」
「じゃあ……猫の夢の中で泳いでる魚ってことで、どう?」
「それ、ちょっといいかも」
そんな、他愛のない会話。
けれど、トレインにはそれがとても大事だった。大人たちは忙しいし、子どもたちは子どもたちで別の遊びに夢中になる。風や空の話を、理由もなくずっと続けていられる相手は周りにはあまりいなかった。“どこにでもいるやつ”は、そのくだらない話を笑わないし、むしろ面白がって乗ってくるところが好きだった。
ある夜、トレインが星を指差して、「あの一番暗いやつが、好きなんだ」と言ったことがある。
空にはもっと明るい星も、目立つ星もたくさんあった。けれど彼が好きだと思ったのは、すぐには見つからないような、ひっそりした星だった。
「なんで?」
“それ”が訊く。
「うーん……きれいとか、目立つとかじゃなくて、ちゃんと、そこにあるのに、誰も見てない気がして。なんか、そういうの、いいなって」
言葉にしてみると、自分でも変な理由だと思った。けれど、幼いトレインにとってはたしかに本音だった。見えにくいのに、消えていない。誰にも気づかれなくても、ちゃんとそこにある。そういうものに、なぜか胸が引かれるのだ。
“それ”は、しばらく黙ってから言った。
「そうだね。そういう星、好きだよ」
その返事が、トレインには妙に嬉しかった。好きなものを同じように好きだと言ってもらえることが、こんなにもあたたかいのだと、そのころ初めて知ったのかもしれない。
たまに、黙って風の音だけが二人のあいだを流れる日もあった。
トレインは草の上に寝転び、“それ”はその隣にふわりと浮いている。何か話さなくては、とは思わない。ただ空を見ているだけの時間が、いつの間にか過ぎていく。風の匂いが変わり、草が湿り、遠くの島影が夕暮れの中へ沈んでいく。その変化を黙って共有できることが、言葉を交わすのと同じくらい自然だった。
「……君はさ、どこから来たの?」
ある日、トレインは不意にそう訊いた。
“それ”がずっとそこにいることは知っていても、どこから来て、どこへ帰るのかは知らない。知りたいと思ったのは、ごく当然のことだった。
「風のあるところから。光があるとこ、闇があるとこ……いろんなところ」
返ってきた答えは、いかにも“それ”らしい曖昧さをしていた。
「うーん、全然わかんない」
トレインが顔をしかめると、風の灯りは少しだけ揺れる。
「わからなくていいよ。君が思う場所で、わたしはいい」
その返事を聞いて、トレインは笑った。
「なんか、そういうのズルいよ。大人みたい」
「大人ってズルいの?」
「ズルいよ。わかんないことを、わかんないままにしとくんだもん」
言いながら、自分でも半分はただの悪口だと思っていた。ダリオンも、村の大人たちも、説明しきれないことがあるとすぐ「いつかわかる」と言う。いま知りたいのに、と思うことが何度あったか分からない。
“それ”は少しの沈黙のあと、風に混じってふっと笑ったようだった。
「……でも、君はまだ子どもだから、きっとわかるよ。いつか、空の中で」
その言葉は、なぜか胸の奥に残った。
理解できたわけではない。何のことを言っているのか、当時のトレインにはほとんど分からなかった。それでも、その一言はただの曖昧な誤魔化しには聞こえなかった。いつか。空の中で。その約束にも似た響きだけが、長く心の底へ沈んだ。
その存在は、たしかに“誰か”だった。
でも、“なにか”でもあった。
言葉で説明できない。触れたことも、抱きしめたこともない。ただそこにいて、話して、笑っていた。そういうものを友だちと呼んでいいのかどうか、子どものトレインは考えなかった。考えなくても、そう感じていたからだ。
大人へ近づくにつれて、少しずつその声からは遠ざかるようになっていった。
断崖へ行く回数が減ったわけではない。むしろ訓練が増え、風を読むために以前より長く外へいることも多くなった。けれど、いつからか“それ”は姿を見せなくなった。風の匂いは変わらず好きだったし、星を見上げることもやめなかった。それでも、あの揺れる紅の灯りは現れず、声も聞こえなくなっていった。
寂しかったかと問われれば、たぶん寂しかったのだと思う。
けれど、消えた、とも違った。見えなくなったあとも、彼の中へ残り続けていたものがあったからだ。声。時間。風の中に感じた不思議な温もり。そして、いつか空の中で分かるよ、と言ったあの響き。
星を見上げるたび、風へ耳を澄ますたび――トレインはふと思う。
いまでもあの存在は、どこかで笑っているんじゃないかと。
こうして空の入り口に立つ自分の姿を、風の中からそっと見守っているのではないかと。
確かめようもないことだった。
もう一度断崖へ行けば会える保証もない。名前も、本当の姿も、精霊なのか幻なのかさえ分からない。けれど、分からないことがそのまま不在を意味するわけではないと、彼は知っていた。風のように。星のように。見えなくても、そこにあるものはある。
そして、あの“どこにでもいるやつ”の言葉のように。
――「君が思う場所で、わたしはいい」
その記憶が、静かに夜空へ溶けていく。
トレインは欄干へ手を置いたまま、ゆっくり目を閉じた。夜風が額を撫で、髪を揺らし、服の端を軽く鳴らす。呼吸を深くすると、空の匂いが肺の奥まで満ちていく。乾いた高空の冷たさ、遠くの風灯の熱、塔の石の匂い、その全部が重なり合って、いまここにしかない夜の気配を作っていた。
(……俺は、あの日、空と約束をしたんだ)
幼い自分が、断崖の上で手を伸ばしていた姿が浮かぶ。小さな手。まだ何も持たず、何者でもなく、それでもひどく真剣に空へ届こうとしていた手。そのとき彼は、小さな声で呟いたのだ。
――いつか、空に行く。
――この声の意味を、ちゃんと見つける。
子どもじみた夢想だったのかもしれない。
大人が聞けば笑ってしまうほど曖昧で、何の保証もない誓いだったのかもしれない。
けれど彼にとってそれは、生きる道そのものだった。
スカイランナーになりたいと願った理由は、誰かに褒められたいからでも、強くなって名を上げたいからでもない。ただ、この空と風をもっと深く知りたかった。風のささやきを聞き取るこの耳で、星の記憶をなぞりたかった。そして、幼い日、自分へたしかに届いていた“あの声”の正体に、いつか辿り着きたかった。
それが答えなのだと、いまならはっきり分かる。
今日の第一試験で空の牙を越えたときに感じた、あの一瞬の同調。空がたしかに語り、こちらがそれを聞き取れた感覚。あれはただ技術が噛み合っただけではない。もっとずっと昔、断崖の上で耳を澄ませていた子どもの頃から、彼の中に育ち続けてきたものが、ほんの一瞬だけ形になったのだ。
「……待っててくれ。必ず、あの声の答えに辿り着くから」
小さな呟きは、夜風へ溶け、星のほうへ運ばれていった。
返事はない。あるいは、風のやわらかい揺れがその代わりだったのかもしれない。
トレインは目を閉じたまま、ゆっくりと深呼吸する。
胸の奥で、たしかに何かが静かに揺れていた。
それは新しい火ではない。ずっと昔から燃え残っていた灯が、いま再び風を受け、明るさを取り戻し始めたような揺れ方だった。幼い頃の誓いが、風の記憶とともに、もう一度彼の中で灯り始める。
夜の空は何も答えなかった。
それでも、答えがないことは沈黙ではなく、もっと先へ行けという促しのように思えた。空の向こうには、まだ見ぬ何かがある。風の奥には、まだ聞き取れていない言葉がある。星の光のあいだには、まだ辿り着いていない記憶が眠っている。
トレインはゆっくりと瞼を開けた。
目の前には、変わらぬ夜の空が広がっている。けれど、その見え方はもう少し前より違っていた。遠いだけの空ではない。手が届くとも言い切れない。それでも、自分が進めば必ず何かを返してくれる空だと、今夜の彼には思えた。
欄干から手を離し、背筋を伸ばす。
明日から始まる第二試練は、ひとりではない。ミリアたちと共に別の風を読み、別の島へ降り、別の空を越えることになるだろう。そこにもまた、新しい答えの欠片があるかもしれない。
風がもう一度だけ、頬を撫でた。
今度の風は問いではなく、静かな励ましのようだった。




