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最後のイベント

「ここは……」


 ドアを抜けた俺たちの前には、見覚えのある光景が広がっていた。

 俺たちは庭の中にいた。

 庭の向こうには城が見える。

 俺たちが玉座を守った、あの城だった。

 気付けば、俺たちの服装も変わっていた。

 麦穂は中世の騎士風の鎧に青いマントを身にまとい、手には大きな剣。

 小町さんは胸当てにスカート、赤いマントを身にまとい、手には槍。

 ことりんはナースっぽい白衣。

 結渚ちゃんは着物。

 俺はというと、青い帽子に青いポロシャツ、黒のジーンズ。


「皆様には、玉座までたどり着いていただきます」


 困惑する俺たちにシフォンさんが告げた。

 今度は前回と逆になるらしい。

 玉座を守ってるのがゲームに参加した別の人間で、人間同士殺しあえってことじゃないだろうな。

 でも、他の人たちは全員棄権したって言ってたから、さすがにそれはないか。


「シフォンさーん、あたしって人形遣いじゃなくて別のにできないですかー?」

「ジョブを変更されますか?」

「変えたいですー」


 俺は結渚ちゃんに聞く。


「何にするの? っていうか、別に変えなくてもよくない?」

「変えますよー。未来のあたしがむざむざと殺されるのは見てられないですー」


 別に未来の結渚ちゃんじゃなくて、他の誰かを人形として召喚して戦えばいいだけのような気がするが。


「でもさ、あんまり結渚ちゃんに合ってるジョブってなさそうだけど」

「むー。あたしにだって向いてるのが一個くらいあるはずですー」


 シフォンさんは、ジョブ一覧を空中に表示した。

 剣使い、槍使い、弓使い、肉体派、火使い、氷使い、癒し系、魔法少女、人形使い、料理人、ピザ屋、芸人。

 向いてるのなんてあるんだろうか。


「結渚はぁ芸人が向いてるんじゃなぁい?」

「肉体派でいいんじゃないか」

「接近戦は危ないから、ね?」

「じゃー、離れて攻撃できて活躍できそうなのがいいですー」

「結渚に熱い言葉なんてぇ言えないと思うけどぉ」

「寒い言葉だったら言えるんじゃないか」

「あたしは心優しいから無理ですー」

「でも結渚ちゃん、弓とか使ったことないよね?」

「それだと料理人くらいしか残らないじゃないですかー」


 結渚ちゃんは不満そうな声を上げる。

 テキトーに丸め込んだ方がよさそうだ。

 俺は結渚ちゃんに声をかける。


「結渚ちゃんさ、料理人けっこう強いと思うよ?」

「包丁投げるとか危なすぎですー」

「料理人ってさ、別に包丁投げなくてもいいから」

「? どういうことですかー?」

「俺のピザ屋のジョブってさ、ピザを出す能力ななんじゃなくて、丸いものを出す能力みたい。だからさ、多分料理人って尖ったものを出して武器にして戦う能力だと思う」

「尖ったものですかー?」

「そう。包丁でも十分強いと思うけど、包丁以外で尖ったものが思いつくなら、それ出して戦えばいいし、遠距離攻撃もできるし」

「じゃー、今回は料理人でいいですー。くノ一みたいにくない投げてやりますー」


 上手く丸め込めたようだ。

 

「料理人でよろしいですか?」


 シフォンさんに念を押され、


「はいー」


 結渚ちゃんが返事をする。

 シフォンさんが腕を動かすと、結渚ちゃんの身体が一瞬光に包まれる。

 そして、その光の中に現れたのは。


「え? 何ですかー!? この恥ずかしい格好はー!?」


 結渚ちゃんの服装がメイド服に変わっていた。

 確かにメイドさんって料理もするんだろうけれど、料理人っていったら普通はシェフとかコックとか板前とか、そっち系のイメージなのに。

 まさかふりふりのメイド服になるとは。


「魔法少女とあんまり変わらないでしょぉ?」

「全然違いますー!」

「どっちの服装だって十分恥ずかしいだろう」

「魔法少女はかわいいからいいんですー!」

「まぁでも、似合ってるから、ね?」

「うれしくないですー!」


 どっちも同じような恥ずかしい格好だと思うんだけど。

 結渚ちゃんの基準がさっぱり分からん。


「結渚ちゃんさ、けっこう強いかもしれないからひとまずそれで戦ってみてさ、どうしても嫌なら次変えればよくない?」

「嫌ですよー! メイドなんて下っ端じゃないですかー!」


 下っ端なのが嫌ってのが本音か。


「でもね、結渚ちゃん、下っ端のメイドが雇い主を倒して一家を乗っ取る方がかっこいいから、ね?」

「下克上ですかー?」

「そう。歴史上の人物でも、初めから権力持ってた人よりも成り上がった人のが人気あるでしょ?」

「それもそうですねー。じゃー、今回はこれでいいですー」


 何て単純な。

 無事丸め込めてよかったけど。

 これでこっちの準備は整った。

 俺はシフォンさんに聞いた。


「シフォンさん、もう始めていいんですか?」

「はい、どうぞ」


 どうぞと言われても。

 見回しても敵の姿はどこにも見えない。


「敵いないぞ?」


 麦穂がつぶやく。


「玉座に行く途中で敵が出てくるんじゃないですかー?」

「扉開けたらぁ中にいっぱいいるんじゃなぁい?」

「お城の中は何か怪しいよね」


 みんな思い思いの言葉を口にしながら周りの様子を警戒するが、何の動きもなさそうだった。

 これが最後だったら、どうせ玉座にラスボスがいるだろうし、ラスボスにたどり着く前に扉の前とか階段の下とか、そういう分かりやすいところに中ボスがいそうな気がする。


「とりあえずさ、城の中入ってみる? ここで待ってても何も起きなさそうだし」

「そうだな」


 俺の提案に麦穂が同意し、俺たちは庭を突っ切って城の扉へと向かった。


「扉開けるけど、準備いい?」

「響平君、待って」

「はい?」

「いきなり敵が出てくるかもしれないから、戦闘態勢とっておきたいんだけど」

「そうですね。結渚ちゃん、くない出せる?」

「ちょっと待ってくださーい」


 答えながら、結渚ちゃんが右の手の平を上に向けて意識を集中させる。

 すぐに、結渚ちゃんの手の上に包丁が現れた。


「結渚ちゃんさ、くない出すんじゃなかったの?」

「よく考えたらくないって見たことなかったですー」


 じゃあ、何でくないって言ったんだよ。


「この包丁、何か強そうですー」

「結渚ちゃんさ、それ一応構えといて」


 俺も右手に鋼のピザを出すと、結渚ちゃんと同じように構える。


「ことりんちゃん、扉開けてもらっていい?」

「ことりんが開けるんですかぁ?」

「わたしたち武器構えておくから、ね?」

「分かりましたぁ」


 答えるとことりんは扉に手をかける。


「開けるよぉ」


 ことりんの手に力が入り、ゆっくりと扉が開いていく。

 俺たちの間に緊張が走る。

 前回このゲームはクリアしているとはいえ、今までより強い敵が現れる可能性だってある。

 油断していると、やられるかもしれない。


 ギギギ……。


 扉は鈍い音をたてながら、着実に開いていく。

 中の様子がだんだんと見えてくる。

 静まりかえった城内。

 その城の中にいるのは。


「あれ……?」


 おかしい。

 俺の口から疑問が漏れる。


「中に誰もいませんよ?」

「何でだろうね?」

「物音一つしないな」

「敵がビビッて逃げちゃったんじゃないですかー?」

「せっかくことりんが重い扉開けてあげたのにぃ」


 本当に誰もいないのか、何かの罠なのか。

 判断がつかない。

 俺は小町さんに聞いた。


「どうします? 入ります?」

「入らないわけにも、ねぇ……」

「罠があるかもしれないですし、響平あたりに様子見に行かせた方がいいんじゃないですか?」

「お兄ちゃん、出番ですよー」

「響平、がんばってぇ」

「待て。俺に行けと?」

「他に誰が行くんですかー?」

「一歩踏み出すだけでしょぉ?」

「簡単に言うな」


 とはいえ、誰かが中に入ってみないと何も分からないのも事実だった。


「ちょっと待ってて」


 俺はみんなに声をかけると、城の中に向かって鋼のピザを軽く飛ばした。


 カラーン。

 コロコロコロ……。


 鋼のピザは床に落ち、城内を転がる。


「大丈夫……かも」

「よし。響平、行け」

「がんばってくださーい」

「ダメージ受けたらぁ回復してあげるからぁ」

「響平君、お願い、ね?」


 断っても無駄のようなので、俺は足を一歩前に出し、城内に踏み入れる。

 俺が床に足を置いても、何の変化もなかった。

 もしかして、本当に何もないんじゃないか。

 そう思った俺は、そのまま普通に中に入る。

 城内に入って内部を見回してみるが、誰もいないし何も起きない。

 俺はみんなの方を振り返ると声をかけた。


「大丈夫みたい」

「入ろっか?」


 小町さんにうながされて、全員が城の中に入ったが、やはり何も起きなかった。

 突然扉が閉まったり、どこからともなく敵が現れて奇襲をかけてきたりといったこともなかった。


「おかしいね」


 小町さんがつぶやく。


「こういうのって、何もない方が怪しい感じなんですけど」


 俺も小町さんに同意する。


「何にもないんならぁ別にいいんじゃなぁい?」

「拍子抜けですー」


 本当に何もないんだろうか。

 俺たちは、周りを警戒しながら二階へと続く階段へと向かい、歩を進める。

 その時だった。


「待て! 上にいるっ!」


 突然、麦穂が叫んだ。

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