熊のぬいぐるみ
問題点を整理しよう。
一億円は欲しい。
誰だって欲しい。
俺だって欲しい。
けど、ゲームはやりたくない。
何故なら、キモいおっさんたちとキモいゲームをやらなければいけないから。
ならば、キモいおっさんでなければ?
俺はシフォンさんに問いかける。
「シフォンさん、あのおっさんたちって変更できないですか?」
「できますよ」
「え!? できるんですか!?」
試しに聞いてみたけれど、まさか本当に変更できるとは思ってもみなかった。
俺の周りからも驚きの声があがる。
「何に変更できるんですか?」
「何にでも変更できます」
「何でそれを先に言ってくれなかったんですか!?」
「聞かれませんでしたので」
「…………」
でも、おっさんから変更できるなら。
さっきゲームをやっているときに思った。
異世界でハーレムを作るはずだったのに、何でおっさんの尻が俺の顔の上に降ってくるんだ、と。
だから、ここでおっさんから何に変更するかは決まりきっている。
「じゃ、かわいい女の子でお願いします」
「却下ぁ。ことりんはぁモンブランがいいなぁ」
「馬鹿か、琴奈は。そんなのにしたらべたべたになるだろう。無難にバレーボールにしよう」
「全然無難じゃないですよー。ここはみんな大好きなお金にするべきですー」
「どうせなら猫とかうさぎとかかわいいのものに、ね?」
変更できると分かった途端、みんなのテンションが上がり、思い思いのことを口走る。
「みんなさ、さっきまで棄権するって言ってなかった?」
「何言ってるんだ、お前は。やると言っただろう」
「ことりんはぁ、初めからゲームやる気でしたぁ」
「一億円もらえるんだから当たり前じゃないですかー」
「嫌がってたの響平君だけだから、ね?」
あっれえええぇぇぇぇぇぇ?
何この手の平返し。
「モンブラぁン!」
「バレーボールだ!」
「お金ですよー!」
「猫! ね?」
俺を無視して話が進む。
決まるまでに時間かかるだろうな、これ。
「じゃ、多数決にするぅ? ことりんはぁ、モンブラぁン!」
「お前の一票だけだな。バレーボール!」
「そっちも一票ですよー。お金ー!」
「お金も一票だね。猫!」
そんなの全員一票に決まってるじゃないですか……。
「響平、モンブランだよねぇ?」
「え!?」
「バレーボールだろう?」
「えっと……」
「お兄ちゃん! お金ですよね!?」
「あの……」
「響平君、猫だよね!?」
「その……」
全員の視線が俺に集まる。
もちろん、多数決ということは俺の一票で決まる。
どれを答えても絶対恨まれる。
「か、かわいい女のk」
「「「「却下」」」」
何で俺の意見は一票にすら入れてもらえないんだろう。
何とか恨まれない方法を考えなくては。
思い出せ。
高校に入る前に読んだやれやれ系主人公の漫画を。
思い出せ。
寝る前に読んだ異世界転生俺Tueeeeラノベを。
登場人物の女の子たちが共通して好きだったものがあるはずだ。
それは。
「く、熊のぬいぐるみとか……」
しばしの沈黙が流れる。
「ことりんはぁ、悪くないかもって思うけどぉ」
「かわいいですし、お金じゃなくてもそれならいいですねー」
「まぁ、それならバレーボールじゃなくても……」
「猫と同じくらいかわいいし、それなら、ね?」
こうして、誰にも恨まれることなく、おっさんは熊のぬいぐるみへと変更された。