オノマトペの鳴る工房
「タケシさん、今度は何作るんですか?」
馬車工房の隅の机に、タケシが図面を広げている。
職人達が取り囲んで覗き込んでいた。
パラっと1枚めくると
「え?これって貴族馬車?でもちょっとちゃうか」
「荷馬車やないな。屋根付きや」
貴族向けキャンピングカーの絵。
「うん。ええ線。俺の黒馬車の内装をこれにつけるんや」
「あー。走る寝台馬車ですね」
「そうそう、それのお貴族様バージョン」
「注文あったんですか?」
「いや、これから。これ作ってカイルにやるねん」
「え。国王様の馬車ですか」ギョッとする面々。
「うん。城においてもろて、見せびらかして、貴族の注文待つ」
「えっぐー」
「ほんでー、オプションで、家紋飾りとか装飾とかつけられるようにして、追加料金取ってー」
「うっわ」
「ガッポガッポや」タケシがニヤッと笑う。
「ガッポガッポ........」
顔を見合わす面々。
「どうや、やる気出たやろ」
「ガッポガッポ......したい.....」
「内装もやり放題でガッポガッポ.....」
みんな顔が緩んできた。
「やりましょ。面白い」
「なんか気合入る」
「よっしゃーガッポガッポやー」
「ガッポガッポ」「ガッポガッポ」
工房内にガッポガッポのシュプレヒコールが巻き起こった。
「ガッポガッポや」 「ガッポガッポ……」
一人が図面を指でなぞる。
「……これ、窓開くんか?」
「開くで。風入るようにしてる」
「重いと足回りに負担やなぁ」
「いや、補強金物入れたら軽くできる」
別の職人が、屋根の線を見る。 「雨の日でも中で飯食えるな……」
「ベッド、揺れんようにせなあかんな」
「床、カメスラコートでやったら汚れにくいんちゃうか」
さっきまで笑ってた顔が、だんだん真面目になる。
「……これ、ちゃんと作ったら」
「ええもんになるな」
タケシがニヤッとする。
「せやろ?」
みんなを見回す。
「コンドウクォリティーで作るんや」
一瞬静かになって.......
――「ガッポガッポや!!」
「……ほんで、いくら取るんです?」
タケシは図面をくるっと巻きながら、肩をすくめる。
「取れるだけ」
一瞬、しん……と静まる工房。
「えぐ……」
「でも、それが一番正しいな……」
「相手、貴族やもんな」
「しかも王様経由やで……?」
タケシがニヤッと笑う。
「せや。値段やのうて、“欲しさ”で払わせるんや」
誰かがぽつり。 「……ほんまにガッポガッポやな」
次の瞬間――
「ガッポガッポや!!」
翌日タケシが工房に顔を出すと、すでに担当が割り当てられ、日常作業に影響のないように、スケジュールが組まれていた。
そして工房の一角ーー、ガッポガッポとつぶやきながら作業が始まっていた。
「なんか俺、いらんみたいや」
「工房?」振り返るカツミ。
「めっちゃ盛り上がっとるわ」
「あの......タケシさん」
「ん?どないした、ヒューイ」
「僕、図面描きたい。すっごくかっこいいです」
「え。そう?よっしゃ教えたろ」ニマニマするタケシ。
「よかったな、仕事できたやん」
「ほんまな。そや、一個考えてるんあるから、一緒にやろか、ヒューイ」
「何すんの?」
「ベビーカーがな。いや、サラディアでな、赤ん坊おんぶして作業しとるん見てたらな、なんかこう......幌付きで柔らかいシートで......」
「ずっとおぶってたら背中痛くなるんですよ.....」村で子守をよくしていたヒューイが、ウンウンと頷く。
「籠でクーハン作ったらええかも」
「クーハン?」
「うん」
カツミが簡単な絵を描いた。
「んで、この籠を、台車に固定できるようにしたら?」
「そやな......」
「んで、大きい子用に箱タイプのも作ってさ」
と、また絵を描く。
「うん」
「貸し出しにしてやって」
「え?」
「子供の物って、長いこと使えんから、レンタルがええよ」
「そっか。レンタルな。それええな」
「僕作りたい」
「そやな。やろな。これは.....安うして、回したろ。チャリンチャリンやな」
「チャリンチャリン?」
「そや。ひと月単位でチャリンチャリン。儲けやない。ちょっと便利を売るだけや」
「チャリンチャリンやー」ヒューイが跳びはねた。
「タケシ、これ向こうで売って」
「何や?」
カツミが持ってきたのはノマドの保管箱。湿気を防ぐ工夫がしてある。
「スパイス塩。サラディアの森で取れるスパイスでブレンドしてあるんよ。レシピもあるから」
「へー。よう調べたな」
「向こうのクレスの子が調べててな、頼まれとってん。これな、行商行った時に、量り売りで屋台に売ったらええ。タレもレシピは作ってあるから、向こうで作って出したらええし」
「キッチンカーで試食させるか?」
「いやー。そこまで無理ちゃう?屋台で使ってもらってから、店売りしたらええんちゃう?ちょい安くして、クレス製って表示してもろたら」
「宣伝費か」
「そうそう。それに屋台相手なら小分けの手間いらんしな」
「そやな。瓶詰めとか出来んし、パッケージもまだ無理やもんな」
「そやろ。塩なら紙袋でもいけるけど、タレは空き瓶出してもらってアルコール消毒して入れるんよ。慣れたらそれで行けると思う」
「さすがやなぁ、カツミ」
「へへっ。チャリンやけどな」
「いやいや。積み重ねたらええ。チャリンも合わさったらズッシリするで」
「ズッシリ......ズシズシ?」
「イマイチやな」
「あー。残念」
フッとタケシが笑う。
「ズッシリは結果やからな。ええ音やけど。けどサラディアは大きいことは出来ん。コツコツやるしかないんや」
「コツコツやな」
「うん。コツコツ」
「サラディアって、森が豊かやね」
「ああ、結構木の実やらキノコやらあってな。その分農地は少ないんや」
実際、農地は領内自給が精一杯だったようだ。その分森を大事にして、手入れもしていたから、子供でも食べ切れないほど取ってくる。と、ローデリックから聞いていた。
「じゃあキノコと木の実のカレーやな」
「あぁ、時々クレスが試作しとるで。結構旨い」
「グレイスが豆カレーやし。なんか御当地カレーみたくてええなぁ」
「御当地カレーか。ええな。レトルトできんで残念やけど」
「しゃあないやん」
「ん?缶詰やったら出来るかも」
「出来たらええなぁ。缶詰やったら加熱殺菌できるし」
「ちょいサーシャにやってもらうか......」
「でもタケシ、それできたら又......国王案件.....」
「あー。極秘やな。コッソリやってもらお」
「そやな。コッソリな」
「うん。コソコソ」「コソコソ」
2人は口元に人さし指を立てて見合った。




