編み込む街
翌朝。アキラが帰郷の準備をしている。
「タケシさん、この馬車使っていいんですね」
タケシがミナセから持ってきた2頭立て馬車だ。
「あぁ。先頭はそれで、後ろは空やからどれでもええで」
「空で走らすのもったいないなぁ」
「ええねん。次からは必ず2頭立て2台以上で動かしてくれな。俺、冒険者連れてくる。飯多めに積んどけよ」
「そうっすね。アイツらめっちゃ食うし」
「タケシさん、あの人たち」
レオンが刺す方向には女達が集まっている。
「何してるんや」足を向ける。
「籠編んでるんです。森で蔓が取れるって」
「へー。ええなぁそれ」
女達の手元を覗き込むと、器用に編み上げられていく籠。
「あ、タケシさん」
「それ、いっぱい作ったら商会に持っていき。買い上げて他所で売ってきたろ」
うれしそうに、女達が騒ぎ出した。
「はい。頑張ります」
「籠か。なんか使えるかもなぁ」
「元々森に蔓が多くて、良く作ってたらしいです」
「一つ特産が出来るな」
「はい」
「カメスラコートしたら......うん。またテストしよ」
「で、今日は1班が護衛に行ってくれ」
タケシは、冒険者たちを3〜4人1班に分けることにした。
レオンが、装備と実力のバランスを取って班分けして行く。
街の見回りに1班。残りは狩りに出る。
「んで、ピアーナは城址に行ってて。後で話ししよ」
アキラが出発すると、タケシはピアーナを呼んだ。
「魔法について教えてくれ」
「タケシさん、こないだやられてましたね」
「そうや。俺らは、見える敵はあんまり怖ない。ここはレオンもおるしな。けど魔道士は隠れて撃ってきよる」
「そうですね、見えれば胡椒玉とカメスラボールで制圧できますしね」
「うん。あれ結局最強やろ」
「最近はミナセのダンジョンでも使ってますよ」
「マジ。魔物にも効くんや」
「ただ洞窟みたいなもんですし、自分達もちょっと被っちゃうんで、マスクしたり、私が結界張って防いだりね」
「なるほどなぁ」
タケシは、ピアーナに防御系魔法の事を詳しく説明させる。
「結局、結界じゃ広くは守れんのやな」
「私は魔力強い方ですが、パーティー程度の範囲でも長時間の維持は無理です。ましてや広範囲となると、魔石配置してても人数も必要だし、弱いところから破れます。おすすめできません」
「シールドは相手見えんと意味ないな」
「そうです。それより......サーチが使えると思いますよ」
「ん?」
「赤い魔石あったでしょ。あれに魔力探知の術付与して。探知したら発光するんです」
「持ってきてるけど、なんか術掛けてあるで」
「ルークさんの術でしょ」
「えっ知ってた?」
「フフ。たまに漏れてますもの。すっごく強いのが」
「そうなんや」
「まあ必死に隠してらっしゃるし。ルークさんのは.....私と同じ系流だと思います。だから重ねがけできますよ」
「ほなそれやってもらお」
「わかりました」
「ほんで、それ」ピアーナの短い杖。色とりどりの魔石が入っている。
「あー。この杖ですか。私、生活魔法が弱いので、石入れてるんです。火、水、風、土」
「生活魔法?」
「はい。ちょっと火を出したり、水出したりする時に。あ、攻撃魔法には使えません。ほんの生活レベル」
「へー。生活魔法か.....なんか使えるかも」
「え?」
ーースライム掃除機出来るかな。
タケシがニンマリする。
「やっだー。タケシさんってー。笑うと悪どそう♪」
「褒め言葉やな」
タケシは、ピアーナの杖をもう一度ちらりと見る。 色とりどりの魔石。小さな力の寄せ集め。
ーー生活魔法……か
遠くで、女達の笑い声が弾ける。籠を編む手は止まらない。 アキラの馬車はもう小さくなって、森の向こうへ溶けていく。
「ピアーナ、城址の近くにおって。レオンがおらん時はリシェルの周辺にな」
「了解♪」可愛くぶりっ子するピアーナ。
「それ、リシェルの前は辞めて。真似したら困る」
「えー」
「リシェルはそんな事せんでも十分可愛いわ」
がっくりうなだれながら、ピアーナはリシェルのところに向かった。
ここに“生活魔法”が混ざれば――
籠を編む女達。昼飯用の屋台も出てきた。工房の槌の音が聞こえる。
寄せ集めやけど......組んだら強なる。
「おもろなってきた」
役場にしている小屋に行くと、ローデリックが書き物をしていた。
「ちょっとええか。住民台帳出来てる?」
「はい。アキラさんがお持ちになった書類でまとめてあります」
小屋には机や椅子が並べられていた。
机に書類を広げて、パラパラとめくる。
「やっぱり働き手少ないなぁ」
「そうですな、年寄りと子供を抱えた者ばかりが残っておりましたので」
「まあそれはしゃあないけど、戻ってきてるのは?」
「まだ10名程、みんな単身です」
「仕事は?」
「はい、元の職に近い所に」
「そっか。これから増えると思うから、家なぁ......長屋にしよ」
「長屋というのは?」
「今の小屋、家族で住めるようにしてあるやん。半分位の部屋にしてつなげるねん。2人用、10軒位横にくっつけてな。建てるのも早いやん。何棟か建てて、戻って来た奴ら入れるんや。家、先に用意して待と。きっと来るから」
「そうですな。家さえあれば帰りやすいです」
「商会動いてるから、家あるでー。仕事もあるでーって宣伝させる」
「わかりました。手配します」
「材木はミナセの材木屋に頼んで紹介してもろた。おいおい直接届くで」
「大工も増えましたので、早急き建てさせましょう」
「大工余裕ある?」
「はい。みんな小屋建てで、素人だった者も腕上げてますから」
「あー。短期間に数こなしたもんな。ほな工房も大きいの欲しいな」
「工業地区の方ですな」
「うん。いよいよですな」
「やるでー」
「タケシさん。城の処理ですが」ケインに呼び止められた。
「うん」
「あと3日もあれば終了です。残務処理して、5日後には、国軍は引き揚げますので」
「あー。ホンマ世話になったな」
「いえ。仕事ですからね。でね、タケシさん。さっき黒馬車の中見たんですが」
「え」
「作って売るって?」
「うん。おいおいな」
「父に進呈するといいですよ」
「貴族向けのジャラっとしたんにするつもりやけど。カイル嫌いやん、そういうの」
「いいですねー。城の駐車場に置いて貴族に見せびらかしたら一発ですよ」
「マジか」
「はい。結構参内してきますから、欲しがります」
「ええなー」腹黒タケシがニヤリと笑う。
「いい情報でしょ。なのでー」
「ん?」
「あのライト。軍に卸せません?」
「あー。ここで作るつもりやから、いっぺんには無理やけど」
「ちょっとお安くして」ケインがニコッと笑う。
「はは。そう来るか。ええよ。貴族で儲けさせて貰うしな。数もいるやろし」
2人は見合って握手した。
子供達が、森に向かって駆けて行く。手に持つ籠を振り回しながら。




