復興の地図
「お父さま、おかえりなさい」
リシェルがタケシの胸に飛び込んでくる。後ろには、いつもレオンが付いている。
ここはコンドウ領サラディア。タケシが統治する街だ。
土の匂い。人の声。まだ未完成の街のざわめきが、タケシを迎えた。
「はい、ただいま」
ゾロゾロと冒険者が続く。
「あっ勇者レオン!」「ここにおったんや」「やだぁ、やっぱ素敵♪」
「レオン、こいつらとりあえずギルドへ」
「はい。師匠」
「リシェル、ええ子しとったか?」
「はい。お父さま」
リシェルは、この領の元領主の娘だが、ドラゴン災害で両親を亡くしている。タケシが爵位を得て、養女として引き取った。
領地の復興を誰よりも願う、8才の少女である。
「おぉ、タケシ様。お帰りですか」執事のローデリックだ。
「遅なって悪いな」
「いえ、アキラ様と色々と相談しておりましたので。で、お怪我の方は?」
「何や聞いたんか。全然大したことないから」
「それはようございました」
「アキラは?」
「今実地調査に。もうすぐ帰られるでしょう」
ぐるりと見回す。城の解体もほぼ終ろうとしている。
庭園にはリシェルと従者の暮らす小屋も、完成したようだ。
タケシはその横に黒馬車を停めめた。
「タケシ様の城は、どうなさいますか」
「そんなもんいらんで。俺は当分これでええ」と、黒馬車を指差す。
「いえ、領主様が馬車荷台などと。せめて家を」
「ローデリック、中、見てみ」
「はぁ......」リシェルとローデリックが馬車の荷台を覗く。
「おぉ。なんと」
「お父さま、凄いですね」
ソファーベッドにテーブル、収納棚に水樽.......コンパクトに整えてある。
「そやろ。そやからこれでええ」
「もしや、これ、お作りになられた?」
「うん」
「タケシ様。これは絶対売れますぞ」
「そうかな」
「はい。これは.......移動の概念がかわりますぞ。貴族馬車は長距離移動がキツイのです。これなら横になれます。」
「そっかー。貴族やったら金もあるし......サンプル作って売り込みするか。ローデリック、何かいっぱしの商人になってきた?」
「いえいえ滅相も」と言いつつニヤリとするローデリックだった。
「水路はここから取って、こう.......で、防火水槽と、この印がスライム槽。農業用水が.....」
アキラが戻ったので、地図を広げて、説明を受ける。
「ほんなら、この辺一帯が農業エリアで、こっちが工業で.......」
「クレスは、農業エリアに置いたほうが楽っすね」
「そやな。食品はまとめよか」
「住宅はこことここで......」
「あの.......城は?」
「まだ言うとる。城趾は公園。俺は馬車」
「タケシ様。当面はよろしいですが、近隣からご挨拶をと使者が何人も来ておりまして」
「いやー。人迎える余裕ないんは見てわかるやろ」
「はい。ですから、街ができるまでお待ちいただくようには申し上げましたが」
「ほなええやん」
「いえ、でしたらせめて、お礼のお手紙など送られては」
「お礼?」
「はい。この領からの難民が流れておりますので」
「そやなー。確かに迷惑かけてるなぁ」
「はい。ですので......」
「ローデリック、書いて」
「いえ、そういうのは直筆で」
「ほな文考えて。俺写すから」
「え?それでようございますか」
「そういうの無理。俺、馬車屋のオヤジやで、貴族相手の手紙なんか書けるかいや」
「わかりました。私がお作りしますので、ちゃんとご自分で書き写してくださいね」
「はーい。お願いしまーす」
「タケシさん。相変わらずっすね」とアキラが笑う。
「ローデリックさん、タケシさんって、工具持ったらすっごいんだけど、ペンはさっぱりだから。よろしくお願いするっす」
「なるほど。承知いたしました」
城趾の前。タケシの横で、リシェルが小さな手を引かれている。
国軍が、瓦礫を運び出していた。
「リシェル、ここにはようけ花植えよ。みんなが散歩できる公園にしよ」
「公園?」
「そうや。みんながずーっと忘れんようにな」
サワサワと木の葉が擦れる音がする。
「はい」
「ほんでな、これ付けとき」
「これは?」
小さなペンダントには、サラディア家の紋章と、淡く光る赤い魔石。
「お守りや。きっとお父さんとお母さんが守ってくれる」
タケシが首に掛けてやると、リシェルはペンダントを両手で包んだ。
「リシェルはうちの子になったけど、サラディアの姫やからな」
「はい。ありがとうございます。大切にいたします」
小さな声が風に乗って、城がなくなった空に届く。
瓦礫がゴロリと音を立てた。
「レオン、アイツらどないしとる?」
「ギルドに任せました。宿舎に連れて行くそうです」
「まあ明日にでも話ししに行くけど、宿舎って雑魚寝ちゃうんか」
「はい。そうですが」
「姉ちゃんおったやろ、部屋どないすんねん」
「結界張るので平気だと」
「マジか」
「女魔道士はたいがいそうですよ」
「結界かぁ。便利やな」
「いや迷惑ですよ」
「なんでよ」
「うっかり触れたらビリビリってなって」
「はっはーん。朝になったらぶっ倒れてる奴とか」
「そうですね、あの人数なら2〜3人は」
「早う別部屋作ったれ」
「わかりました。とりあえず衝立でも」
タケシはアキラと街をぶらつく。
小さな小屋が立ち並び、数個の屋台で色を添えた、まだ街とも言えないところだけれど、わずかに、生活の匂いと人の生きるざわめきが、そこにはある。
商会と工房に割り当てられた小屋では、ミナセから連れてきていた職人達が作業に励んでいた。
「ペータ、ボイル。おるか?」
「はーい」
「どうや」
「タケシさん。ボチボチやってますよ」とボイル。
「どうです?これ」ペータが持ってきたのはキックボードの板。
「お。ええやん」裏返して裏もチェックするタケシ。
「元の住人の中にも職人が少しいたので、教えてるとこです」
「そっか。クレスの方は?」
「あっちも調理の人増えてます。屋台もやってくれてるから、俺ら助かってます」
タケシは工房の中を覗く。制服組の中に、数人の男が混ざっていた。
「ここではまず小物作る。ミナセの街工房に卸してたやつな。まずそれをようけ作ってくれ。王都に売りに行くぞ」
「王都ですか」
「そや。キックボードは絶対売れる。それとこれな」
タケシの手にあるのは馬車につけていたライトだ。
「これ、改良済みや」
ボイ手渡された。
「細かい部品が多いですね」
「ポンプの職人に細かいとこはつくってもらい」
「そうですね、これ分解していいですね」
「あぁ。頼むわ」
「あと手押しカートとかも作ろな、ペータ」
「わかりました」
「工房、大きい建屋作ったら、職人連れてきて馬車製作するから、それまで頑張ってくれな」
「任せてください。僕らキックボードの開発者ですよ」
とペータが笑う。
「ほんまそれ。バッチリやわ」
ーー
「お前らが、これからサラディアの工房の指揮を執るんや。出来るな」
「はい!師匠」
2人の声が揃った。
「もう弟子とちがうやん」
アキラが笑う。
「そういうと、アキラこいつらのカートでずっこけたよな」
「そうっすよ。マジ怖かったっす。あの時」
「みんなデカなったな。ペータなんかめっちゃチビやったのに」
ペータがアキラに並んで見せる。
「ウソ.....負けた.....」
「アキラが一番チビや」
「えぇー」
カンカンカン。槌の音に笑い声が混ざった。




