海から来た馬車
「タケシさん、こんな感じです」
納屋で作っているのは、ポルトス用の輸送馬車だ。
まず、御者台の後ろが、寝台を付けた小さな小屋のようになっている。荷台は独立させたトレーラー方式だ。牽引具で引く。
保冷箱を設置した荷台、上には物干し。さらに幌。
「何?この棒」カイルが首をひねる。
「あぁ、干物作りながら走らそと思てな。クルクルとおんなじや」
「クルクル.....風で乾かすやつか。なるほどなー」
「輸送に時間かかるから、丁度ええやろ。乾いたら幌しときゃええし」
「作りながら動くんだ。すごいな」
「カイル、当分は、王都には月1やで」
タケシの構想はーー
まずは元アルカディウス国エリアへの流通。それからアルネアへ。
「保冷箱で、普通に流通出来るエリアが広がるからな。アルネアへは、缶詰が先に来る」
「うん」
「ポンプの改善試しながら距離伸ばすけど、実際のとこ、生はコストキツイから一般には手が出んやろ。干物と缶詰。加工品で回す」
「うん」
「ポルトスは大きい港やけど、沿岸部には小さい漁村が点在しとってな、今商会に回らせてるけど、魚買い上げて加工に回すんや。そんで野菜やら肉を運んでやる。消費量増えるから、周りも巻き込まんとアルネアにまで持ってこれんよ」
「そっか」
「いつかは、ちゃんと王都に生が届くようになると思うけど、急がんとってな」
「わかった」
「あ。道の整備してな。最短ルートの」
「わかったよ。タケシ」
1ヶ月後、ポルトスから元アルカディウス国内への魚行商が始まる。毎日水揚げされる魚は、保冷箱に詰められて翌日には何処かの街で売られている。
それまで手にはいらなかった生物に、街のものは歓喜した。馬車に干された干物も飛ぶように売れる。
帰りには、野菜や肉を仕入れて、沿岸の漁村を回ってポルトスに戻ってくる。
アルベルクは、自分の担当する商業領の復興状況の確認に来ていた。
そこに、ポルトスの行商馬車が入ってきて、店開きを始めた。
「ほぉー。魚の行商を始めたか。さすがコンドウ殿。......ん?なんだ?あの馬車......」
慌てて馬車を見に走る。
荷台の幌を上げると、ぶらぶらぶら下がる干物。下には保冷箱に入った魚や貝。んー。食べたい。
だが見るべきは......御者台。
これは.......荷台と別に?寝台?
御者に声をかける。
「この馬車は、どうなっているのだ?」
「あー。荷台と前が離せるようになってるんでさぁ」
あー。コンドウ殿に会いに行かねばー。
「コンドウ殿ー」
馬車を降りてアルベルクが走ってくる。
ミナセのコンドウ家。タケシは黒馬車に潜って整備中。
「コンドウ殿。はぁはぁ」
「もー。お前この状況わかる?俺ご機嫌やのに」
馬車の下から這い出すタケシ。
「あ、ポルトスの行商馬車見たんですよ、向こうの商業領で」
「お。行ったか。魚美味かったやろ」
「はい。いいえそれより」
「どっちやねん」
「あの馬車です。あれは」
「あー。魚積んだら匂いがつくんよ。ほんで荷台離してん。積むのも便利やし」
「あれ、荷だけ先に積み込み出来ますな」
「うん」
「切離して別の荷台に連結」
「うん。そうよ」
「そうよじゃないんですよ!それ、積み込み時間とか荷降ろしの手間が短縮出来るじゃないですか」
「そうやな」
「欲しいです」
「寝台馬車、改造出来るで」
「えー!」
「そや。缶詰の試作きててん。食うか」
「もちろんいただきます」
「で、コンドウ殿、さっきの馬車の件」
「先食お。お、これシーチキンみたいやなぁ、カツミ」
「そやろ。ハーブ使ってサラダっぽくしたやつ」
「.......」
「食えって。後でちゃんと話聞くから」
「はい.......うまっ」
「これ貝やな」
「オイルとハーブで煮たやつな」
「カツミ。ええなー。かば焼きないん?」
「あ、味噌煮あるで」
「ミソニ?」
「アルベルク食ってみ」
「おぉー......なんと......」
「な。缶詰はアルネアで売るからな。一応うちの商会で扱うけど」
「ディオラムにも卸して頂けますな」
「もちろん。缶詰工房出来上がったら流すで」
ホッとした顔のアルベルク。
「馬車の改造な。うちの工房に図面流すから。どこでもできるようにしとくわ。1月程待っとって」
「タケシ殿、荷台だけ増やして下さい」
「ん?」
「積み込んで待たせられます」
「うん。そやな」
「簡単に仰られてますが、これ、また流通が進化します。すぐにハーケンフェルトへも連絡して整備しましょう」
「んー。任せた」
「は?」
「ヒューイおるやろ。できると思うで」
「......そうですな。先にディオラムの整備を手伝って貰いましたし。わかりました。ヒューイにさせましょう」
「うん。うちは馬車改造な。手配しとくわ。うまいな味噌煮。飯欲しなった」
タケシは久しぶりにサラディアに来ていた。
工房へ図面を持っていくと、ペータとボイルが出てきた。
「あ、タケシさん。来られてたんですか」
「ああ、悪いな。ちょい忙しかってん。これ缶詰の試作品や、食べてみ。海の魚やで」
「うわー。そんなん作ってるんですか」
「で、これな。馬車の改造が、また来ると思うんよ」
「なあ、レオンどないや。ちゃんとやっとるか」
「カエルさんはちゃんとやってますよ。ただ」
「ただ?」
「いや、リシェル様と婚約したって言うから。ね」
「?」
「しばらく籠工房の生産量落ちました。ロスですって」
プッとタケシが吹き出した。
「あのルックスで勇者でしょ。そらもう......」
「ハハ。しゃあないか」
「まあ相手がリシェル様やからね。みんな納得してますわ」
「そっかー。そうよな。モテるわな」
「カエルさんは無視でしたよ。ずーっと」
「ハハハ......」
黒馬車に呼ばれたレオン。何故か正座でタケシと向かい合っている。
「レオン、リシェルが文句言うとったで」
「は?」
首をかしげるレオン。
「私、もう様はつけていませんが」
「いつまでたっても、子供扱いやって」
「いやでも........リシェルは、まだまだ幼いですし.....」
「お前の婚約者やん。もう子供ちゃうやろ」
うつむくレオン。
「......」
「ちょっとだけな、昔の自分思い出してみ。イケイケ勇者のレオン君」
「え!」
びっくりして正座のまんま飛び上がった。
「知ってるで」
「.......」
「別にイケイケになれって言うてるんちゃうで。けどリシェルも女やからな。ちいと分かってやれよな」
「......はい」
と頷くレオン。
「あ。結婚までは手ぇ出したら承知せんぞ」タケシの低い声。
「わ、わかってます!!」
レオンが顔を真っ赤にして首を振った。




