桟橋の誓い
タケシはご機嫌である。
黒馬車を改造して、トレーラー型にしたのだ。
納屋で満足気に眺めていると、ルークがやって来た。
「あ。タケシ、黒馬車新しくなってる!」
「おう。ちょっとな。魚乗せて走ったから、匂い付いててな。こないだサラディア行った時、参ったんや。魚臭うて。しゃあなしでレオンのとこに泊まってん」
御者部屋を撫でている。
「でも改造しただけやで。足回りそのままでいけたから」
「伯爵なんだから、幌じゃなくてもいいのに」
ルークが幌をポンポン叩く。
「もったいないやん。まだまだいける。マメに整備してるんやから」
「じゃぁさ、今度のポルトス行き、乗っけてってよ」
「えー」
タケシがルークを斜めに睨む。
「視察だよ。王命だよ」
「お前、目的がちゃうやろ」
「タケシ、ちゃんと報告上げないしさ。僕が調査結果上げとくよ」
「んー。それなら......」
「やったー」
ルークがスキップで帰って行った。
ーー絶対貝やろ......
まあええか。戦の功労者やしな。
幌を半分巻き上げて、黒馬車が走っている。
流れる景色を見ながら、ルークがつぶやく。
「きれいなところだったんだね。僕、何も見えてなかったんだ、あの時は」
ルーク達の極秘作戦。
タケシは胸がきゅっとなる。
「もうすぐ道の駅や。春巻きあるで、食うて行こか」
「うん♪」
道の駅で、馬を変え、御者も交代する。タケシは生春巻きを買って、みんなに配る。
「昨日エビが入ったんやて。ラッキーやな」
「タケシ、おいしー。なんかここならではって感じするー」
「そやろ。揚げたんは、シーフードカレーって言うとった」
「あー。そっちも食べるー」
「はいはい、待っとって」
子どものようにはしゃぐルークを見て、何故かホッとしている自分に驚く。
ポルトスに着き、城でマルセルの報告を聞いて、港へ出た。
ルークが第2王子と聞いたマルセル。
「あの......もしや、建国祭の時に、魔法を国王にかけられたと言うのは......」
「ん?知らない」
「は?」
「僕じゃないよ」
「そう......ですか。失礼しました」
サラッと否定したルークに、逆にマルセルは確信した。
横のタケシを見ると、小さく首を横に振っている。
ーーこの人達は、偉ぶる事もなく、大きな事をするのだ.......
港の端は海軍だ。漁船の中に、アルネア国旗を掲げた帆船が、すぅと水面を滑っている。
「海軍が、パトロールしております」マルセルの説明が入る。
「ルーク、あの船、見えるか」
タケシが指を差した帆船。
「うん。海軍だね。あれー?」
「つけとるよな」
船首に大きなY字型の......
「うん。パチンコ大砲だね」
「やっぱ使うんや」
「そりゃ、一発当たれば乗組員は海に飛び込むしかないもんね。めっちゃ有効」
「激辛玉かな」
「だろうね、またアキラ君作ってるねー」
「なんかほんまに原始的」
「作った本人がそれ言う?」ルークがケラケラ笑った。
後で聞いているマルセルが、ギョッとしてタケシを見る。
「でも。カメスラボールなら魔王軍も倒せるかも」
「魔王っておるんや!」
タケシがルークをガン見する。
「あぁ、この海のずっと向こうに、魔王が住む大陸があるんだ」
ルークは海の彼方を指差した。
「マジか......知らんかった」
「200年ほど前にね、不可侵条約締結してるから。来ないけどね、たぶん」
「良かったー」
心底ホッとするタケシ。
ルークがクルッと振り返り、マルセルに微笑みかける。
「ねぇ、なんか食べに行こうよ。マルセル、案内して」
「はい」
ついていけん......その声をマルセルは心の奥にしまった。
その日、ルークは思う存分貝を堪能し、よく呑み、よく喋った。
翌日は、タケシと真面目に視察に励んだ。
2人は、桟橋の端っこに座って、海を眺めている。
「タケシ、マルセルはいいね」
「マルセルおらんかったら、こんなにスムーズに行ってないで」
「だろうね。帰ったら父に進言しとく」
「ああ、言うといて」
魚がぴょんと飛ぶ。
「向こうに魔王国ねぇ.....」
「昔、大きな戦になってね」
ルークが大きく伸びをした。
その昔、人族は連合して、魔王国と長く敵対した時代があった。し烈な戦いが続いたと言う。
「攻撃魔法はその頃に進化したんだ。魔王軍に対抗するには、それしかなかったから」
そしてそれは、結局両方の国土の荒廃を招いた。
「名前忘れちゃったけど、戦を辞めた魔王がいたんだって。両方とも何の得もないからって」
そして大陸間は静かになり、今も、陸から見える範囲より向こうには、行かないのだという。
「今度もし魔王が攻めてきても、僕達はもう魔法は使わないと思う」
ルークはずっと沖を見つめている。
「何で?勝てんやん」
「あの頃の魔法は、もう誰も使えないし、新しく作り出したくもないんだ」
「.......」
「タケシが変えたんだよ。剣を持たずに戦うなんて、僕らは考えたこともなかったのにさ」
ルークがポンと石ころをほおる。
「ズルいよね、死なない兵器なのに抵抗できないんだもの。胡椒玉とパチンコだよ。きっと魔王だってびっくりだよ」
「盗賊避けに作っただけやのにな」
「殺傷目的の魔法は、もう誰にも使わせない」
ルークの声は、強く水面を駆けていく。
夕日が、赤く海を染めて沈んでいく。
「カレー入りの玉作っとこ。口にほりこんだら、おっうまっ!みたいな」
「それいい!やろやろー」
2人の笑い声が、潮風に乗る。
遠くに鳥が飛んでいた。




