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卒業と海の道

「キャハハハハー♪」セリーヌの笑い声が響いている。

コンドウ家の前の道、3輪自転車の荷台の箱に、ヘルメットを被せられ乗っかっているのだ。キコキコキコ。ヒューイが楽しげに漕いでいるのを、タケシとバルザが眺めていた。

「ほんまにできてもたな。俺がおらんうちに」

「でも殆どヒューイがやってますよ。ワシ細かい部分だけで」

「そっかー。卒業.....やな」

「そうですな」

「チャリ持っていかすわ」

「修理は出来るでしょう。ヒューイは木工も鍛冶も2級持ってます。普通に独り立ち出来ると思います。それより.......」

「ん?」

「ソロバン教室ですな。先生1人減る」

「あー。まぁアキラが何とかするやろ」

「そうですな」

「よっしゃ。アルベルクに手紙書いて、迎えにこさせる」

「はい......」

「なんや。寂しいか」

「そらね。みんなそうですよ。でもヒューイの為にはね」

「あぁ。アイツはもっとでこなるで」

「キャハハハハー♪」こっちに向かって手を振っていた。



カツミはクレスの手配を進めている。既に構想が膨らんでいるようだ。

当面は、商品開発。クレスの研究員も派遣して、保存や輸送に耐える商品を探るそうだ。

アキラは輸送用の保冷箱と循環装置。ポンプ隊も1編隊作った。

商会は主に周辺領との交流を目的に動く。

「やっぱ早くって考えると、馬やな......」

前回の帰路は、カースケナビで最短を通ったが、アルカディウス内に馬車基地が無いために、途中馬がへばった。アルネア国境を越えてすぐの基地で馬を変えたのだ。

地図を広げる。どの道かな.......

「この道やと思います」

御者の2人が指差した。

「ほんなら、ここと、ここ」

「そうですね、そこで馬変えたら半日は違うと思います」

「よっしゃ。すぐに手配するわ」

「特急馬車ですね」

「うん。鮮度命やし。あ、ついでに、クレスに道の駅にしてもらお」

「それ、助かります」

「うん。領の事務官に繋いで協力頼むわ。ハーケンフェルトにも......馬回してもらお」




「コンドウ殿。今日からこの子はヒューイ=ディオラム。よろしいですな」

アルベルクがヒューイを迎えに来ていた。

アルベルクはヒューイを養子に迎え入れ、自分の脇において育てるつもりだ。

ヒューイは時間をもらって、世話になった人達一人一人に挨拶をして回る。工房内でみんなに頭を撫でられて、涙ぐむヒューイを見ながら、タケシは言う。

「ええ子や。お前にはもったいない位、できるぞ」

「いい時間を過ごしたようですな。しばらくは領内を回らせましょう。私とは違う視点があるでしょう」

「ああ。それがええ。そや、あっちの流通網、どないなっとる?」

「あー、アルカディウスは、今のところ........」


「タケシさん、チャリチャリもらっていいんですか」

「ええで。お前が作ったんやし」

「僕、また来ますから」

「ああ。いつでも来い、みんな待ってる」

御者台で手を振るヒューイは、もう5年前のオドオドした貧しい農民の子ではない。夢と自信が、伸びた背よりも彼を大きく見せていた。




黒馬車を先頭に続く、カラフルな馬車隊が、港街ポルトスに入ってきた。

その様子に驚く住民達。出迎えるマルセルも、口をあんぐり開けて呆然としている。

降り立ったタケシ達一行の色違いの制服と、テキパキした動き。

工房にする建屋に案内されると、すぐに荷降ろしが始まる。

見たこともない機械や商品に、また目を丸くしながら、マルセルは、タケシの様子を伺う。

一段落するのを待って、声を掛けた。

「コンドウ殿、少し休まれてはいかがでしょう.....」

「そやな、まぁ大体片付いたし」

「では皆様をご案内して.......」

「あ、ピュアフロー持ってきたからみんなで食べましょか」カツミが声を掛けた。

「ピュアフロー?」

「食用スライムや。ここでも養殖するで」

「??」


「ほー。驚きました。スライムがこんな風に食べられるとは」

「専用の井戸を一つ。あとハーブを栽培しますから」

「わかりました」

「カツミ、後で街に出よ」

「そやね。うち楽しみでしゃあないわ」


市場や工房を覗きながら、カツミはメモをとる。

時に店主と話し込む。

漁師に声を掛け、民家に入り込んでは名物料理を聞き出す。

3日程すると、今度はクレスのスタッフと動き始めた。

タケシはほったらかされているが、呑気に釣りをしていた。

「あの......コンドウ様、奥方様お忙しそうですが.......よろしいのですか?」と気にするマルセル。

「ん?あー。もうちょいで落ち着くやろ。方針さえ決まれば、後はスタッフがやりよる。俺ら道つけるだけやねん」

「そうなんですか」

「うん。ここにずっとおれるわけやないから。段取りしたら後は定期便で指示出すからな」

「.......」

「心配いらん。いつもそうやってるんや。うちのスタッフは考えて動ける。そういうのを連れてきてるから」

「そうですか」

「マルセルもな、全部やろうとしたらあかんで。任せると育つんよ。まあコッソリ見とくのがしんどいけど、後で楽になるからな」

「コンドウ殿は面白い方です

な。何というか.....貴族らしくない」

「そら俺元々平民やから」

「えぇー!!」



「どうやー。詰め込みすんだかー?」

「うん。貝とエビな。あと干物もあるし塩漬けもあるしー」

昨夜は、カツミのシーフードカレーが振る舞われた。初めてのスパイシーな香りに驚き、クレスの食堂で、今後提供されると聞いて、また喜んだ。

商会は、クレスと共に、新工房の缶詰工場を作ることになった。

月2回のミナセ定期便運行と道の駅の手配を済ませ、タケシとカツミは帰路につく。

「また来る」

「はい。ありがとうございます」



国境越えした馬車基地。

「どうやろ......」

「あ。生きとる」

「ほんまや。ひげ動いた」

「どないする?カイル拗ねるかな」

「呼んだら来るかも」

「カースケ。ホーホーやで」

「カー」

「ご褒美エビフライにしたろ」

「カカッ」パサパサー

カリカリ膝を掻くマシロ。

「あんたにもあげるからな」

「きゅる」



タケシが家に帰って来ると、すでにカイルとリゥトスが待ち構えていた。

「タケシー。待ってたよー」

「はや!」

「馬飛ばしてきたんだー」

「無駄に元気やな」

「ねー。早く見せてー」

「はいはい」


「すごーい」ツンツン

「生きてるー」ツンツン

「へー。これがエビ」ツンツン

「リゥトス初めて?」ツンツン

「ああ。こっちの、貝?これも。図録でしか知らん」

「僕も子どもの頃に食べたっきりだ」

「コラ!いじくるな!!」

「あ。すみません」



「なぁカツミ、活やし、生で食ってみたいなー」

「やめとき。この世界、どんな虫おるかもわからんよ。死ぬ気で食べるなら止めへんけど」

「うっ。........やめとく。エビフライにしよ。貝はバター焼かなー」

そしてまた、いつものメンバーに国王まで加わった宴会が始まった。

「だいたいさ、僕を差し置いてズルいんだよ」ガブリっ

「ちゃんと呼んだやん」ホジホジ

「う....うまい」モグモグ

「早く王都便作って」ホジホジ

「あ、バルザ、輸送馬車どない?」ガブリ

「試作中です」モグモグ

「アキラは?」ホジホジ

「やってますよー」ごっくん

「あれ?ルーク静かだね」ガブっ

「.........」ホジホジホジホジホジホジ

「ねえルーク」

「父上うるさい」

「.......」ホジホジ

そして貝殻とエビの尻尾の山が残った。


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