潮騒の街より
ポルトスの街は、その前に広がる海の恵みで暮らす街だ。
タケシは一件の工房に入って行く。
「干物、ある?」
「へい。干し魚ですね、こちらです」
何かデカい切り身が、カッチカチに干からびている。
「一夜干しとか......もうちょい小さい魚は?」
「干し魚と言えばこれですよ、いい味出ますよ」
「あのー。ちょっと頼みたいんやけど......」
塩工房。
「ニガリある?」
「??」
「ちょっと作って欲しいんやけど......」
海産物屋。
「ワカメある?んっとー。海藻。ある?」
「海藻ですか?こんなの?」
「うんうん。まぁとりあえず買うとこか」
料理屋。
「刺身食べたい」
「サシミ?」
「生の魚」
「えっ。生はダメです。腹壊しますよ」
「マジで......」
タケシは1週間程街を歩いた。少し足を延ばして小さな漁村も見て歩く。
砂浜や、磯に降りてみる。
そんなタケシを、マルセルは不思議そうに見つめる。
王都に帰る日の朝。タケシは保冷箱を下ろして、海水をバケツで汲んだ。
市場で買った貝と、海水を入れ、馬車に積み込む。
「タケシさん、それは?」
「これスライム保冷箱。ちょっと冷たいねん」
構造を説明すると、マルセルが目を丸くした。
「スライムで冷やすなど、考えたこともありませんでした」
「貝で試してみるわ、持って帰れるか。干物も作ってもろたし。うまいこと行ったら、外に出せるようになるで」
「はい」
「王都にも、魚運びたいな」
「え?腐ってしまいますよ」
「そこを考えるんや。な」
「はい」
「次来るときは、商会とクレス持ってくる。うちの嫁はんも連れてくるわ。アイツが来たらもっといろんなこと考えよるで。楽しみに待っとって」
「コンドウ殿。ありがとうございます」
「その代わり、頼んだことはちゃんと進めてや」
「はい!」
マルセルは、変わる予感に身震いする。
ーーだが、この御仁なら......
そしてタケシは旅立った。
脇目も振らず、ミナセへ向けて、猛ダッシュである。
4日後。ミナセのコンドウ家に、黒馬車が止まった。
荷台から箱を抱えて降りてくるタケシ。御者達も箱を抱えて続く。
縁側に、箱を下ろす。
「カツミー。飯炊いてー」
「もー、ただいま位言いなさいな」
がらりと障子を開けた足元に、箱とタケシの笑顔。
「な、見てみて」箱を開ける。
「ウソ!貝やん」
「必死のパッチでダッシュしてきてん。味噌汁と飯な。あ、こっちも見て」
御者が下ろした箱には.....
「うわー。干物やん。えっこれ海藻やね」
「ニガリも向こうで作ってもろた」
「キャハー。うれしー。うん、早速支度するから。御者さんたちも一緒に食べよ。疲れたやろ、ゆっくりしとってね」
カツミが台所へ戻っていく。
「あの....いいんですか」
「うん。ホンマすまんな、急がせて。でもほれ、多分生きとるで、これ」
御者達が、ホッとしたように笑顔を見せた。
こういう話があっという間に広がるコンドウ家。座敷にはいつもの会議メンバーや、ルークまで集まって、今か今かと待っている。
台所で鍋を見つめるタケシ。
「おっ。開いてきたー」
「良かったね。干物も焼けたし、お味噌溶いて仕上げて」
「はーい」鼻歌交じりに味噌を溶くタケシ。
「海藻ね、ちょっとぶ厚いワカメみたいなんやったから、酢の物にしたよ」
「ええなー」椀に注いでいく。
「ナターシャおるー?ご飯いついでー。ヒューイ運んでー」
「はーい」
テーブルにいっぱいの海の幸。「ほー。これが貝ですか」
「ワシ、海のもん初めてじゃ」
「俺も」
「匂いが、なんかやっぱり川と違うなぁ」
「あー、御者君、ここ入り。功労者やしな」
タケシが座った。
「ほな、いただきます」
一斉にガツガツ。
「タケシさん。僕、この味噌汁マジで涙出そうに旨いっす」ズズッ
「ねえタケシ、すっごくおいしいんだけどさ」モグモグ
「なんよルーク」ホジホジ
「もしかして、ミナセ直帰?」
「そうやで」モグ
「だよね。うん。」ズズッ
「ま、いいか」ルークが笑う。
「みんな無口やねぇ」
「しゃべるの忘れてました」
貝殻の山が出来ていた。
「タケシさん。ブクブク作ったら魚いけるかも」
「ブクブク.....」
「うん。酸素のブクブク。まぁここやったら空気やけど」
「あ。ポンプか」
「ちょっとサーシャと考えましょか」
「うん。頼むわ。とりあえず保冷箱サイズでテストしよか」
「そうっすね」
「タケシ、干物なぁ。もうちょい塩キツメがええよ」
「そうなん。あ、来月一緒に行こ。ほんで教えたって」
「うちも行くん?」
「ええで。海」
「うん。行く」
「あ、タケシさん、チャリ出来てますよ」
「マジかー!」
数日後、王都では......
「リゥトス、おかえり。あれ?タケシは?」
「え?先に出たけど......アイツ.....報告もせずにミナセへ帰ったのか」
「あらら」
「色々馬車に積んでたけどなぁ......」
「マジ?ずるい!僕が後回しなんて!」
「カイル、怒るとこ間違っとる」
その頃、サラディア領では......
「リシェル様、タケシ師匠からお手紙が.....」
「レオン。違うでしょ」
「あ......リシェル.....手紙、来てるよ」
「一緒に読もうよ、レオン」
「う、うん」
ベンチで並ぶ2人を見ながら、ため息をつくローデリックだった。




