潮風の宴
国王カイルの私室。
ソファーで思い切りダレるタケシの横で、固まっているアルベルク。
「どーぞー。これ王都クッキー。新発売なんだー」
クッキーの箱とティーポットをテーブルに出し、カイルが向かい側に座ると、横のリゥトスがお茶を注いだ。
「それ、ルークに貰って食った」
「えー。じゃあ何か他のを.....」
「もうええわ」
「そう?あ、アルベルク、食べてね」
「は、はい」
目を泳がしながら、クッキーに手を伸ばすアルベルク。
「た、大変美味しゅうございます」
「ほんで?」とタケシが問うと、カイルはニッコリ微笑んだ。
「今回は悪いね、物資まで出させて」
「うちはええよ。準国営やししゃあない。けどアルベルクはちゃうからな。手当したれよ」
アルベルクがタケシの顔を、ギョッとした目で見る。
「あぁ、わかってる。貴族達から復興基金の名目で金を集めるから。君達は免除するよ」
「そっか」
「まあ戦は、あっという間に片が付いちゃったし、国軍も死傷者ゼロでさ。これでうちが、この大陸最大勢力になった」
「マジか」驚くタケシと、大きく頷くアルベルク。
「なんでー、まずはアルカディウス全体を、元の状態に戻すけど、そこからが君達の出番だ」
アルベルクがクッキーを口に押し込んだ。
「アルベルクには、商業領の整備ね。馬車基地作って、君の領に繋いで欲しいんだ。で、経済と流通を安定させて。もちろん商業誘致もオッケー」
「はっ。承知いたしました」
「タケシには、ここだよ」
地図を指差す。
「いいでしょ」
「ん?」
「海だよ」
「俺、船は無理やで」
「それはアルカディウスにあるからいいんだー。でもさ、お魚あるよ。お塩も採れる、ワカメもあるかも」
「.......うっ。朝定食や......」
「アサテイショク?」
「.......鯵の開き......」
「ここにクレスと商会置くとさ、楽しいよねー」
頷くタケシ。ニヤッとしている。
「でさ、他の街も繋いで、ぐるっとこっちまで繋げるルート作って、道の駅やってさ」
「うんうん」
「ポンプ隊も行って欲しいし、リシュアのとこにも商会欲しいって」
「うんうん」
「やる気出た?」
「デヘヘ」頭の中は、朝定食に染まっていた。
部屋を出ると、アルベルクはふぅーっと長い息をついた。
「大丈夫か?」
「コンドウ殿は......陛下とは......」
「あー。あの部屋は無礼講」
「いや、それにしても.......」
「ええねんええねん。気にせんで」
「気になりますって!」
「声大きいで」
「........」
アルカディウスの元王都、リシュアの領までの道で、なんとなく現状が見える。一見整備されている王都周辺も、離れるほどに機能不全が起きている。魔道士が管理していたインフラ
は、王都以外では殆ど意味を成さない。
「これ.....施設だけ使って、元に戻すしかないわな」
「そうですな。と言っても地方は殆ど手つかずですし、かわりません」
タケシの黒馬車で、何故かアルベルクも横になっている。
「ダンジョン枯れてるらしいな」
「明らかにやり過ぎです。自国で賄える分を越えて使えばそうなります。数年放置すれば、また復活するでしょう」
「アホやな」
「カイル陛下が、早い時期に輸出を止められて良かったです」
「ほんで、なんでお前ここで寝とるんや。自分の馬車あるやんけ」
「いいじゃないですか、無礼講で」
「意味ちゃうわ!」
リシュアに挨拶して、元王都の現状を確認した後、タケシとアルベルクはそれぞれ担当の領に向かった。
「ん?これって.......」
懐かしい匂いだ。
タケシは幌をめくる。
「海やーー」潮の香りが、タケシを歓迎していた。
小高い丘に小さな城があり、アルネアの国旗がかかげられている。横にはカイエンタイの旗。
ここは、大きな港のある街だった。
城に着くと、リゥトスが待ち構えていた。
「早いな」
「あぁ、まっすぐ来たからな」
リゥトスの後ろに初老の男。
「こちら、タケシ=コンドウ伯爵。この度、ここポルトスに、ご自身の商会を置いてくださる」
「それはそれは。わたくし、マルセル=ポルトスと申します」
「タケシ、元領主だ。彼は、早い時期に城を明け渡して、この領を守っている。街も港もほぼ無傷だ」
タケシは男の顔を見る。少し潮焼けしたその顔に、いくつもの皺が刻まれていた。
「そっかー。コンドウです、よろしく。で、海。見たいんやけど。案内してくれるかな」
「それは.....配下の者に案内させましょう」
「俺、あんたと行きたい」
「いえ、私は.....領民に恨まれておりますので......」
「はぁ?何言うてんねん。あんたが降伏したから、こんな綺麗な街が残ったんやろ」
タケシは街を見下ろした。
「堂々とすりゃええやん。なぁリゥトス」
「うむ。そうだな」
「.......」
「な。行こ行こ。俺、市場とかも見たいんや」
港には大小様々な船。奥に海軍基地も見える。
潮風を吸い込むと、タケシは旅の疲れがすぅーっと何処かに行ってしまう。
「あー。ええなー。懐かしいなー」
沖に、ゆっくりと動く帆船。
港に入ってくる漁船団。
「こちらに来られた事がお有りですか?」と、マルセル。
「いや。こことちゃうよ。俺が知ってる海は」
ーーカツミも連れてきたいな.....
「漁業組合とかあるん?」
「漁業ギルドがございます。漁師、船主、船大工などが登録されています」
「あ。塩田とかある?塩作るとこ」
「ございます。ご覧になりますか」
「んー。後にしよ。先、市場やな」
「おー。あるやん」
様々な魚が並ぶ市場を、ぶらぶらと見て回る。
「これでも、以前と比べると相当減りました」
少し寂しげなマルセルの声。
「デカ!これ何?」タケシが一瞬飛び退いた。
なんだかグロテスクな.....イカのような.....
「それは海の魔獣です。海専門の冒険者がおりまして、狩って来るのです。珍しい上、味も良いので、高値で取り引きされます」
「ほな買っていこ」財布を出すタケシ。
「!」
「あ、この貝も」
「こっちの....えび?これもー」
買いまくるタケシ。
両手に抱えると、クルリと振り返った。
「ほなバーベキューパーティーな」
呆れ顔のマルセルに、タケシは言う。
「せっかくうまいもんあるんや。楽しまな。そや、港でやろ。みんなで食お。な、リゥトス」
「フフッお前らしいな。準備させるよ」
「へっへー。よっしゃー買い足そー」
その日、港にバーベキュー特設会場が出来、街は突然のパーティーに大騒ぎだった。
自分が獲ってきた魚を持ち込む者、家から酒を持ってくる者。いつの間にかマルセルも、その中に飲み込まれていた。
「コンドウ様、これほど民が楽しげにしているのを、私は目にしたことはございません」
「漁師町は勢いなくしたら終わりやで」
「はい」
「マルセル、命がけで獲ってくるもん、大事にせなあかん」
「はい」
「ようけ働いてもらう。ほんでそれをちゃんと流したる。ここには、ええもんがようけある。でも足らんもんもようけある。それを回すんが俺の役目や」
「はい」
「手伝う。でも指揮官はあんたや」
「わかりました」
「頑張って、また爵位もらおーぜ」




