未来の持ち主
「レオン、ちょっと」タケシが黒馬車に呼んだ。
「はい、師匠」
タケシは小さな箱を渡す。
「開けてみ」
レオンがパカっと箱を開くと、中には宝石が散りばめられた、ブローチと、小さなピン。
「これは......」
「お前の家紋な」ハリセンにけん玉だ。
白く光る扇の中央に赤い玉と青いけん。
「ピンはお前の襟につけとけ」
「はい」
小さなピンを手に取ったレオンは、不器用な手付きで襟につけた。
「よし。ほんならこっちのブローチは、リシェルの胸に着けてやり」
「え?」
タケシの顔とブローチを、オドオドと見比べているレオン。
「ほれ、いってこい」
腰をポンと叩かれたレオンが、ハッと顔を上げる。ペコリとお辞儀すると、リシェルの元へ走っていった。
公園の花壇の脇で、何やらリシェルに話しているレオン。
リシェルが小さく頷く。
膝を落とすと、リシェルの胸にブローチを着けている。だがなかなか上手くつけられないようだ。
じっと黙ってその手を見つめるリシェル。
やっときれいに付けられたようだ。リシェルの顔がパッと明るく開くと、そのままレオンに抱きついた。
レオンがリシェルの背にそっと腕を回す。そして壊れ物を扱うかのように、不器用に抱き寄せた。
噂では、国境付近で軍が展開したと言う。
もう、ルークは潜入したのだろうか。
タケシはゼルハイムの方を見る。
ーーうん。わからん。今考えてもしゃあない。
サラディアは、今日も明るく賑やかだ。新しい街は、何もかもが輝くように白い。
周辺からの移住希望者も増えて、人口は災害前より増えていた。
んー。診療所は拡張やな。保育所も別棟にして......
そろそろ商業ギルドも商会から分けるか.....。近隣まとめて連合作るんもええな。
冒険者も増えとるけど......あそこはレオンおったら大丈夫やろ。
ーーもうちょっとしたら......リシェルが成人したら。2人に任せよ。それまでには......
乗合馬車が通りを過ぎる。
あ、レンタサイクル。ええかもー。
気づいたことをメモに書く。
それをレオンに渡す。
「ローデリックと相談して。お前が進めるんやで」
「はい」
役所に向かうレオンの、背中のハリセンを見ながら、タケシは呟いた。
「もういらんやろ、お守り」
まあええか。せいぜいローデリックに絞られてこい。
ミナセに戻ったタケシは、ヒューイと納屋に籠っている。奥ではバルザの槌音がしている。
「タケシさん。これでどうですか?」
「お。出来たか。よしよし」
「この持ち手のところ、ロープ巻いて滑り止めにするのはどうでしょう」
「そやな。細めのやつ、探してきて」
「はーい」
「どうや、バルザー。行けるかー」声を張り上げる。
音が止まった。
「ちょっと細かいんでね、もうちょっと掛かりますよー」
カーンカーンカーン。
アイツら、俺がおらん間に進めやがって。楽しみに帰ってきたのにー。
と、ゴムを手に取った。
国境で、戦闘が始まった。
本来なら圧倒的にアルネア軍が強い。詠唱封じの胡椒玉を使って魔道士さえ止めてしまえば、難なく突破出来るのだが、敢えて国境付近で停滞させていた。
全ては極秘作戦の為だ。
数日後のゼルハイム建国祭は、開かせる。と同時になだれ込む手はずだ。
ルークは商人のふりをして、リシュアとカイエンタイ特殊部隊と共に潜入していた。
ゼルハイムに送り込んでいた密偵の手引きで、地方の反対勢力も密かに決起しており、建国祭と同時に一斉に動くことになっている。
「リシュア、これ終わったら立て直すのキツイね」
と、ルークが囁いた。
「はい。これほど地方が荒れているとは.......」
「タケシに手伝ってもらいな」
「はい。そのつもりです。僕、納豆大好きなんです」
「違うでしょ......」
「あ、あれ」
魔道士の1団。
道を避け、丁寧に頭を下げてやり過ごす。
「ふぅ......」
「でもこの国はうちが取るよ」
「はい。分かっています」
「ここ、海あるんだもん」
「は?」
「海のお塩で作るんだ。おトーフ」
「おトーフ?」
「うん。納豆の親戚」
数日後の建国祭。
紙吹雪の舞う王城前の広場。
ごった返す民衆に紛れるルーク達。
大きなベランダに、カルディ=ゼルハイムが姿を現した。ゴテゴテと着飾ったカルディが民衆に向け言葉を長々と述べ、一身に注目を浴びている中。
ーールークの口元が音もなく動いた。
一斉にスライムボールが投げ込まれると、慌てて魔道士が術で迎撃し、辺りは、えも言われぬ刺激臭と粉に包まれ、転げ回る人々。
国王カルディは、必死に詠唱を絞り出そうとするが、くしゃみで途切れ、どうにもならない。
その中でルークは、王にこぶしを向け立っていた。防塵マスクをつけて。
人さし指を突き出すと、パッとまばゆい光が走り、カルディの喉元に輪を作った。
他の魔道士達も、次々とマスクの男達に捕らえられ、猿ぐつわと手錠で拘束されている。
ベランダの後ろから、リシュアがカルディに近寄り縄をかける。
口をパクパクさせるカルディ。だがもはや、声すら出なかった。
リシュアがマスクを取り、ベランダから叫ぶ。
「アルカディウス王国第3王子、リシュア=アルカディウスである。ゼルハイム魔導国は、ここに滅び去った!」
民衆の歓喜。だが咳とくしゃみでボロボロだ。
ルークがマスクを取って、リシュアに手を振る。
「なんかイマイチカッコ悪いねー」
「何でもいいです」
リシュアが、悔しげに見上げるカルディを、ポコンと蹴飛ばした。
その後、城下は反対派によって完全に制圧された。
国境付近のアルネア軍も一気に攻め込んで、そのまま行軍を進め、数日後には城下に到着。
ゼルハイム魔導国はその幕を閉じた。
「いいんだね、リシュア。こいつ、君の好きにしていいんだよ」
「恨みがないと言えば嘘になりますが......。でもルーク様、この国随分変わってしまって」
「そうだね、少なくとも王都は、魔法なしでは厳しいね」
「なのでー、労働力として、一生働かせますよ。やっちゃいましょう」
「そっか。じゃあこれ」
ルークが手渡したのは首輪。
「君がつけなきゃ意味ないよ」
「そうですね。では」
ガチャリ。
首輪が薄く光った。
オタオタするカルディ。
「カルディ、お手」
リシュアが手を出すと、カルディがその上に手を乗せた。
「アハハ。完璧だぁ」
「まさかこんな古い魔法が今さら生きるなんてね」
「すごいですね、隷属の首輪」
「じゃー、他の奴らにもつけよっか」
「そうですね。カルディ、待て」
カルディが固まった。




