不穏の缶詰
整備の進んだ街道沿いには、以前は夜の宿泊用になっていた馬車だまりがある。
カツミが、道の駅を作ろう♪と言い出して、クレスがミナセサラディア間に小さな春巻き屋を出すと、近隣の村からも露天や屋台が来るようになり、馬車旅の休憩や食事に重宝するようになった。少しづつ他の街道にも駅を作っているところだ。
クレス工房の缶詰生産が始まった。
まずはお試しに、クレス道の駅店で販売をはじめると、その便利さでじわじわと広がった。工房への問い合わせが来るようになったところで、カツミはクレス全工房での本格生産を指示した。
「ルーク、どう思う?」
「どうって言われてもね、貴族の結婚ってそういうものだから」
「11やで。早すぎやろ」
「直ぐ結婚するわけじゃないんだ。まずは婚約。たいがいは成人待って結婚ていうのが普通だけど」
「15か......」
「でも女の子は、成人を待たずに輿入れする子も多いね」
「なんか続々と来るんや」
「まあ、誰かと婚約しちゃえばなくなるよ」
「誰かって言うても.......」
「公爵家とかから来ちゃうと、断りにくいよー」
「あぁー.......それそれ......こないだのは公爵家の4男。家継がないからサラディアに入ってもいいって.......」
「悪くないんじゃない?」
「リシェルが拒否した」
「ふーん」
「めっちゃ機嫌悪なって......参った。レオンに当たり散らして」
「カエル君も大変だね」
「よく付いてるよ。うん......俺も別に勧めてるわけやないんやけど......難しいな、女の子」
「あ、それからね、父の耳に入ったみたい。缶詰」
「お前バラシたんか」
「まさか。タケシ、自分が早くしたんじゃない。情報だって流れるのはうんと早くなってるよ」
「んー」
「呼ばれる前に行っといで」
「めんどくさ」
「多分他にもなんかあるかもー」
「他?」
「行ってからのお楽しみ♪」
国王カイルの私室。タケシは1人待たされていた。
「やー。タケシ、待たせたね。ちょっと外せない会議があったんだ」
「珍しいな」
「僕だって会議くらいするよ。で、またいいもの作ってるそうで」
と、カイルはタケシを覗き込む。
「はいはい。出来ました。缶詰です」
タケシは箱に入った缶詰を、トンとテーブルに置いた。
缶を手に取り眺めるカイル。カレーと書かれたシールにパッと顔を上げた。
「ねぇ、これすぐ食べれるの?食べたい」
「はいはい。ちょっと待ってな」
キコキコと缶を開け、スプーンを差して渡すと、カイルは嬉しそうに口に入れた。
「すごーい。普通にカレーだ。これってさ、日持ちするわけ?」モグモグ
「うん。1年は大丈夫やったで」
「へー。あ、パン貰ってこよう。ちょっと待っててね」
戻って来ると、リゥトスもついてきた。
「タケシ、私にも食わせろよ」
「はいはい」キコキコ
「うわっ。うま。え、こっちのは?」
「はいはい」キコキコ
「えぇー。果物だぁ。密で煮てあるの」
「うん。サラディアのやつや」
「噂には聞いていたが......これはすごいな」
「何で早く教えてくれないんだよ」
「いや......だって、な」
タケシ、ちょっとしらばっくれる。
「どうせまた欲しいって言うんやろ」
「ん?まあ確かに欲しいけど」
「これ開発に3年近くかかってん。やれん」
「そうだよね。うん」
カイルがリゥトスの顔を見る。
「タケシ、軍には入れてくれ。これ、必要だ」
「ノマドあるやん」
「いや.......ノマドだけではな......」
リゥトスがカイルの顔を見る。
カイルが持っていたスプーンを置いて、タケシの顔を見る。
いつにない厳しい顔ーー
「タケシ。ここだけの話だ」
タケシは、テーブルに乗せた肘をスッと下ろした。
「君と初めて会った頃......隣国がクーデターで政権が変わって攻めてくるって話、したよね」
「あぁ、それでノマドが欲しいって」
隣国アルカディウス王国は、魔道士の反乱によってゼルハイム魔導国となり、今はカルディ=ゼルハイムが統治する国になった。
魔法に振り切った政策で、一見とても整備されているが、内実は.......
「少数の魔道士が、魔法の力で人々を従わせてる」
カイルは当初から密偵を送り込んで調査を続けていた。
「最初の頃はうちにも攻めて来た。他にも2国接してるんだけど、どこも同じようにちょろちょろしてたみたいだ」
特使を送っても、全く改める気もなく、相手の戦力を確かめるかの如く、ちょっかいかけてくる。
「で、僕は兵糧攻めに出た」
ゼルハイムへの食料や魔石の取り引きを停止し、国境の警備を増やし、2つの隣国にも同様の措置を求めた。
「元々魔法があれば何でもできるって思ってる奴らだ。国内の食料自給や経済活動はド素人でね」
国内はどんどん荒れた。食べるもののない国は弱い。魔法で水は出せても、作物は作れない。
次第に国民の不満が高まっていく。
「まぁちょっと煽ってはいるんだけどね」
暴動が起きそうになると魔法で制圧する。
「でも食べ物ないとどうにもなんないでしょ。となると、どこかの国にってことになる。どうやらうちを狙ってる」
他の2国は海沿いで、優れた海軍を持っていて、とても太刀打ち出来ないと判断したようだ。アルネアに向けて兵を集めようとしている、という情報も入ってきた。
「8年かかった。動く前にこっちから潰す」
「潰すって言うても」
タケシは内心、俺関係ないやん、と思いながら聞いている。
リゥトスが席を立って出ていった。
「タケシのおかげでね、うちの軍は強くなってる。街道整備も進んで動きが速くなって、機動力は段違いなんだ。向こうは分かってないけどね」
「こないだ小さな暴動が起こってね。丁度再来月、建国祭をするらしくて、その時に派手に武力を見せつけるつもりみたい」
タイミングを合わせて国境付近で戦闘を仕掛け、その隙に王都に潜り込み、奇襲をかける。
「奇襲?」
「うん。だって建国祭に国王が出ないわけないじゃん」
「でも民衆が」
「うん。だからここでタケシの出番」
「なんでやねん、俺そんなとこ行かへんぞ」
「行くのはルークだ。タケシには作って欲しいものがある」
「なんでルークやねん」
「タケシ、彼は魔道士だ。それもこの国1,2を争うレベルのね」
「いや、魔道士とは聞いてたけど......」
「子どもの頃、その能力が開いた時には本当に驚いた」
普通の魔道士が数年かかる術もすぐに覚えた。だがカイルは喜べなかった。間違いなく跡取りで揉める火種になる。そう思っているうちに、ルークは魔法を見せなくなった。15才の成人の儀の後、カイルに国内を巡りたいと申し出たのは、やはりそれを危惧したのだろう。1人で行きたいと言うルークに、カイルは1年間防御系魔法を学ばせた。自分の身を守るために。
「あー。そいでか。でもルークやのうても」
「タケシ、ルークは王族だ。王族はね、国民を守る義務がある」
そう言われると、タケシは何も言えない。
「でさ、タケシには......カメスラボールとマスクを作って欲しいんだー」
「カメスラボール使うんか!」
「だってあれが一番いいんだもん。民衆を傷つけることもないし」
「そらそうやけど」
「あれがピューンと飛んできたらさ、魔道士なら確実に撃つよね。そしたらパーンってなってさ、撒き散る。だから特別製でチョー絶辛いの作ってね」
「作ってねって、俺兵器なんか」
「兵器じゃないじゃん。誰も殺さないよ。後はルークがちゃんとやる」
リゥトスが戻って来た。
後ろに1人の青年。
「タケシ、紹介するよ。彼はリシュア=アルカディウス。アルカディウス王国第3王子。ーー唯一の生き残りだ」




