祈りとその先
コンドウ伯爵領サラディア。
焼け野原だった土地には、家が立ち並び、人が戻って来た。崩れた城趾は公園になり、以前庭園だったところに、リシェルのための、小さな城が建てられている。
災害から3年。サラディアの街は見事に復興を遂げ、ところどころに残る更地と、焼け残った教会に、その跡を残すのみ。
城址公園前の大通り。今日は復興慰霊祭だ。
賑やかな笑い声と焼き物の匂い、そして遠くに祈りの鐘の音が聞こえる。
当初タケシは、街外れの墓地に行く馬車便を増やして、ひっそりと慰霊を行うつもりだったのだが、あれよあれよと言う間に話が大きくなった。
近隣の街からも屋台や露天が来て、大通りがいっぱいになり、やむなく大通りは馬車禁にした。
街道から2台の馬車が入ってきた。ミナセからの定期便。後ろは王都経由便。
降り立った人達が、賑やかな街をそぞろ歩く。
教会で祈りを捧げてきたリシェルが、レオンを伴って戻って来た。
「お父さま、お客様がお見えですよ」
黒馬車の幌を上げると、タケシがムックリと起き上がった。
「またかよ。めんどくさー」
ーーそやから静かにやりたかったのに......
伯爵になっても、タケシは相変わらず作業服にハンチング。ローデリックがうるさいので、襟に国王から賜ったピンだけを差している。もちろん寝起きは黒馬車だ。
周辺の領主達が、代わる代わる挨拶に来る。寝台貴族馬車でやって来る貴族もいる。
「お父さま、伯爵になられたのですから、もう少ししっかりなさってください。皆が見ていますよ」
「あー。リシェルはほんましっかりしてる.......たまらん......」
「タケシ、さっさと起きて」カツミの声。
「はいはい。女には勝てん.....」
夜になると城址公園にはろうそくが灯った。リシェルの作った花壇に沿って置かれた灯火。中央には祭壇が置かれ、リシェルがひざまずいて、長い祈りを捧げている。
ーーまだ11やで。ほんま貴族って、何考えとんねん。
「タケシ様、こちらを」
ローデリックが差し出したのは、リシェルの縁談話だった。貴族達が慰霊祭に来るついでに置いていったらしい。
「まだ11やんか。早いやろ」
「いえ、貴族はもうこの位のお年で、皆さんお相手を探されます」
「完全に政略結婚やん」
「貴族にとって、結婚とはそういうものなのです」
「なんで直接俺んとこにけえへんねん。文句つけたったのに」
「まずはこうやって、繋ぎをつけるものなのです」
ローデリックは呆れ顔だ。
「カツミどう思うよ」
「んー。リシェル次第やけど......」
肖像絵と家柄などの書かれた紙を眺めていると、リシェルがやってきた。
「お父さまー。それ、何ですの?」
「.......」
「縁談......ですわね」
「うん」
「私、嫁には参りません」
「え?」
「ずっとサラディアにいたいのです。他家に嫁ぐことはありません。それに....」
パラパラと紙をめくるリシェル。
「みんなお父さま目当てではありませんこと?見え見えですわよ」
「......そうやろな」
リシェルが肖像絵を見てプッと笑った。
「肖像絵でこれでは......大体3割増しで良く描くものですのに」
「うっわ、きっつ」
「私、カエルより綺麗な方じゃないと嫌です」
ギョッとするレオン。
「ローデリック、お断りして下さい。くれぐれも、丁寧にね」
そう言うとリシェルはくるりと出ていった。後を追うレオン。
「リシェル様、よろしいのですか。ちゃんと見られた方が.......」
「いいんです!」リシェルは頬を膨らませて、レオンを睨んだ。
ーーそんな目で.....
「なあカツミ、あれ、誰に似たんや」
「あんたちゃうん」
「うっ」
「けど.....ちょっと気になるなぁ」
「何がよ」
「オンナゴコロ」
「??」
翌朝、城址公園には元気な子供達の声が響いている。
「ハッ」「エイッ」「ハッ」「エイッ」
ハリセンを素振りする子供達の中を、レオンがゆっくりと歩いている。
列の端にヒューイがいる。腰を落とし、ハリセンを振り切ると、ブンッと大きな風切り音がした。
「久しぶりに打ち込みやるか、ヒューイ」
「はい!」
パンパーン、パンパーン、パン、パパーン。
ヒューイの打ち込むハリセンを、レオンが軽々とハリセンで受ける。周りを取り囲んだ子供達から歓声が上がる。
「だいぶ力が付いてきたな」
と、レオンがヒューイの頭をガシガシする。
「師匠、ありがとうございます!」
後ろでその様子を見ていたリシェルが、小さく呟いた。
「カエルのバカ。わたくしだって......」
ヒューイは、もうすぐディオラムに帰ることになっていた。
ディオラムの定期便馬車を整備するにあたり、ヒューイは、忙しいタケシの代わりに、何度もディオラムに行った。
最初は子ども扱いされて、話に入ることさえ出来なかったが、ヒューイの故郷を思う気持ちと、その知識の広さに、領主アルベルクは目を見張った。
アルベルクは、ヒューイが成人するのを待って、ディオラムに戻して自分の養子にすると、タケシにも伝えていた。
「ヒューイやったら......年頃も合うけどな」
「でもサラディアには来れんやろね」
「そうやなぁ......アルベルク、絶対手放さんよな」
「まあそういう問題じゃなさそうだけど.......」
「??」
ミナセに帰ってきたタケシ達に、朗報。
「タケシさん、もう完璧です」と目を潤ませているのはサーシャ。
「ほんまに大丈夫か?」
「はい。1年寝かせました。開けてみましょうか」
「うっ。外でやろか.......」
以前、開けた途端に中身が吹き出して、部屋中に飛び散り大騒ぎになったーー缶詰。
流石にそれからは、開封時は外でがお決まりになっていた。
「もう大丈夫ですって。ねぇアキラ」
「うん。タケシさん、大丈夫っすよ」
「いや、外で......」
「ほんまビビリっすね」
「うるさい!」
外に出て紙を広げ、缶詰を置く。
「アキラ、開けて」
「はいはい」キコキコキコ......
パカン。
「おー。大丈夫やったー」
サーシャがタケシにスプーンを渡す。
「え?俺?」
頷く2人。
恐る恐る缶にスプーンを突っ込み、口へ。
「お。すご。いつものカツミスペシャルや」
ニヤつく2人。
「よっしゃー。量産するぞー。御当地カレーやー」
「機械仕上げてるっす」親指を立てるアキラ。
「ミナセはカツミスペシャルカレー甘口と辛口。サラディアは森の恵みカレー。グレイスのグレイスビーンズカレー。ええなー。8缶セットで缶切りつけて......あ、サラディアのフルーツ缶もええなぁ」
ニンマリするタケシ。
「カイル陛下に持っていかないと、うるさいんじゃないっすか?」
「あー。そやなー。リゥトスも......」
「軍用でしょ」
「そこな。あるあるやな」
ふうとため息をつく3人。
「先にこっちで広めちゃいましょう。この機械、大変やったんです。取られたら嫌っす」
「簡単に真似出来ませんよ」と頷くサーシャ。
「私、2年以上かかってるんですから」
「そやな。さらっと作って出してまおか。バレたらその時で」
「既成事実ってやつで」
へへへとタケシの口元が緩んだ。




