優しさの仕組み
城趾周辺の道沿いに、住民達が並んで手を振っている。
街道からゆっくりと馬車が入ってくる。
「国王陛下ー!」「カイル国王ー!」
城址公園前に止まると、歓声が一段と大きくなった。
後部ドアが開けられ、カイルがゆっくりと降りたつ。
手を振ると、子供達は跳びはね、老人達は目元を押さえた。
「ようこそ、サラディアへ」
タケシが歩み寄る。
正装したタケシの後にドレス姿のカツミ。その横のリシェルも今日はドレスだ。
「ゆっくり見せて貰うよ、タケシ」
そう言うと、カイルはリシェルの前へ立つ。
「よ、ようこそいらっしゃいました、国王陛下」
リシェルが裾をつまんで丁寧にお辞儀する。
「リシェル、よく頑張ったね。タケシから聞いているよ」
優しく頭を撫でられ、リシェルが少し顔を上げた。
「カツミさん、久しぶりだね」
「はい、陛下もご健勝で何よりです」
と言いつつ、カツミも一応ドレスをつまんでお辞儀する。
カイルがくるりと住民たちに向き直る。
一瞬にして静まるざわめき。
カイルが声を張った。
「みんな、よく頑張った。サラディアの街は、君たちの努力の成果だ。......今日は私に、その働きを見せてくれ」
住民の歓声が、波のように広がっていった。
城址公園にしつらえたテントの中。堅い緊張感の中に、カイルの軽い笑い声が響く。
「だってタケシ、正装だもん」
「うるさいわ」小さな声で返すタケシ。
「まさかカツミさんまでドレスとは」とリゥトスも笑う。
「うるさい奴がおるんや」
タケシが横目でローデリックを刺すと、2人は顔を見合わせて、また笑った。
「いいじゃない。有能な執事がいて」
「はいはい」
タケシが地図を広げる。
「おほん。本日のルートでございます」
「やめて、普通にして」
「......ほんで今日の順路やけどな」
「うんうん」
「まあとりあえず街中見るか」
「先にのど乾いた」
「もー。ちょっと待ってて。カツミー。飲み物」
後ろで、ローデリックがポカンと立ち尽くしていた。
「まずは......ここ役場」
カイルの横にタケシ。後ろにリゥトス。ローデリックとレオンが続く。
「住民係と街づくり係と子供係かな、今のとこ」
「子供係?」
「あー。おいおいわかるわ」
メインロード沿いには、ずらりと小屋が並んでいる。
コンドウ商会をはじめ、店舗や工房、空き地には露天や屋台が店を開いていた。
キックボードの後ろに籠をつけた子供が、干しキノコを持ってくる。
カートを押して来た親子が、野菜を並べる。
肉屋の前には、干し肉がクルクル回る。
その隣、子供が店番している露天には、干し果物のクルクル。
カイルが足を止めると、店のものたちがヒョイと試食を差し出した。
「タケシー。面白ーい」
「なんや夜店みたいやな.....」
籠工房からは、賑やかな声が外に漏れている。
「あ、あれは?」
作業中の女の横、時々手を止めて何か揺らす。
「あれはベビーカー。赤ん坊寝かすやつ。役所で申請したらレンタルできるんや」
「レンタル?」
「サイズによって月いくらって決めてる」
「へー......」
「隣は食堂や。給食もやってる」
「キュウショク......」
中から子供が袋を抱えて出てきた。キックボードの籠に乗せてピューっと走り出す。
「工事現場とか工房とかに配達してるねん。子供らの小遣い稼ぎやわ」
中に入ると、老人達が静かに食事していた。
「みんな仕事してるやろ。そやからこういうのあったら助かるんや」
カイルが老人に近づいて声をかける。
「おじいちゃん、おいしい?」
「は、はい.......あ、ありがとうございます」
カイルがニッコリと笑うと、老人は何度も頭を下げた。
住宅エリア。小屋と長屋が立ち並ぶ。
「ちゃんとした家は...まだやけどな」
「タケシ、あれ何してるの?」
井戸の横で、女が足踏みしている。
「あれはセンタクキ。足で踏んで回すんや」
カイルが近づいてしげしげと見つめる。
クルッと振り向いた。「タケシ、すごーい」
「あの杭は何?」
「あれは防火水槽作るとこ」
「ボーカスイソー......」
「川から水路作っててな。ところどころで貯めるんや、排水もスライムで浄化してな。火事怖いやろ」
「......そんな事まで考えてるのか」
「更地やん、今なら掘り放題やからな」
「......」カイルはしばらく杭を見つめていた。
一旦メインロードに戻ると、子供が数人役所に入っていく。
「あれな、ローデリックの寺子屋」
「テラコヤ?」
「子供らに、読み書き計算教えてる。ちょこっとやけどな。保育所もあるで。まだやりだしたとこやけど」
「ホイクショ........」
「タケシ、君の街は優しいね」
「そうか?めっちゃ働かしてるで」
「いや、そういうことじゃなくて.......」
タケシは前を向いたまま言う。
「安心して働いてもらうためや。ここはまだ、今からの街やからな」
カイルが小さく頷いた。
「僕ね、今日は知らない言葉ばかりだった。なぁリゥトス」
「そうだな。ちょっと.....すまんな、理解が追いつかん」
「君のいた世界が、進んでいたことはわかってたけれど、仕組みが......驚くことばかりだ」
「そう.....かなぁ」
「あぁ。.......なんて言えばいいんだろう......」
カイルが街の方を見た。
「でも.......今、タケシがここでやっていることは、僕達にもできることばかりだ」
ふっと息をつく。
「もう一日、ゆっくり見せてくれ」
「うん。ええよ。そう言うと、ルークもベビーカーレンタルやりたい言うとったな」
「だろ。僕も詳しく聞きたい」
翌日も、カイルは街を歩き、住民達に声をかける。
タケシには、散々質問攻めをする。後ろでリゥトスが、必死でメモを取っていた。
馬車に乗り込む直前になって、カイルはタケシに告げた。
「タケシ。サラディアを、災害復興モデルとして、全ての領主に通達する。視察見学の対応、お願いするよ」
「えぇー」
「逃げられないよ。国王命令だ」
「うぐぐ.......」
「儲かるよ」
「......ほんま?」
「うん、ほんと」
「承知いたしました」
「ローデリック、さっきの話、頼むわな」
「タケシ殿。貴族対応は領主の務めでしょう」
「苦手や」
「国王陛下と、あれで?」
「だって......」
「紹介冊子位は作っておきましょう。宿泊施設も必要ですな。まぁここまでは私の仕事ですから」
「レオンに.....」
「タケシ殿。儲かるんですよ」
「......わかったわ!」
「よろしい」
一方馬車の中では.......
「リゥトス、どう思う?」
「そうだな......タケシにここまで自治の力があったとはな」
「僕らは上から下。力で全てを動かしてきた。タケシは逆だ。弱いところに手を差し伸べて、結果みんなが強くなる。弱さを弱みにしないんだ」
「あぁ、金があるだけではああはならん。回す仕組み...だな」
「うん。使い所が全く違うんだよ。反省したよ.......タケシが王様やれば、もっと良くなるかも」
「おいおい」
「ジョークだよ。でも......僕はそれくらいショックだったー!」




