血流の始動
「なあルーク、昨日のおっちゃんどんな人や」
「オル爺かい?そうだねー、あそこは.......」
ハーケンフェルト公爵領。
西のディオラム商業領に対し、東の物流拠点。
商いで肥えたディオラムとは逆に、ハーケンフェルトは“運ぶ力”で都市を育ててきた。
「あそこはね、馬が良かったんだ」
広大な牧場。選び抜かれた血統。
強く、速く、そして長く走る馬。
それを生かした運送業で成り立っている。
「つまりは馬車やな」
「そういう事。たぶんオル爺は商品よりもそっちじゃないかな」
ーー馬。
エンジンやんけ。これ押さえなあかん。
サラディアに戻ると、また人が増えていた。
馬車工房の中、ミナセから来ている職人に声を掛けた。
「どうや?」
「あ、タケシさん」
手にあるのは.......ベビーカー。
あー。こいつら腕が勿体ない。ミナセの奴らは、貴族馬車作るのめっちゃ楽しそうやったのに。
棚を見ると新造馬車セットが埃を被っていた。横には小さな焼印。
「なぁ。馬車作ろか」
「え?注文あったんですか?」
嬉しそうな声や。やっぱり。
「いや。注文取ってくる。コンドウクォリティーの馬車や」
技術は繋げなあかん。
工房には出来上がった商品が積まれている。
作れる。売れる。けどーー
配送には馬車がいる。車はある。なければ作れる。
でも馬がない........足りてへん。
商品棚を見ながら腕を組む。
ーーこれは.......餅は餅屋やな。こっちから動くか。
「ローデリック、公爵に手紙書きたいんや。書き方教えてくれ」
返事が来た。迷う時間はない。ミナセでも貴族の面会予定が入っているのだ。
ほんまに不便や。電話あったらなー。カースケ3羽位欲しい。
あ。
「カースケ。すまんナビや」
俺、それ以前の問題やった。
ハーケンフェルトに近づくと、街道が明らかに綺麗になり、広く舗装された道が続いている。牧草地帯を抜けると市街地に入る。行き交う馬車にはハーケンフェルトの紋、店名の表示が木札で下げられている。
一件の店に寄って道を聞く。間口は広くはない、どうやら奥が倉庫になっているようだ......
「コンドウ殿、お待ちしておりましたよ」
オルディス=ハーケンフェルトは、にこやかに握手を求めた。
「ハーケンフェルト公爵。よいお話に参りました」
タケシはガッチリと握り返す。
「はい。ここは商売の場です。敬称は省いていただいて結構ですよ。どうやら私の思惑も、お気づきになられたようですので」
オルディスは1枚の紙を出した。
「早速ですが、これが私共の提案です」
引き寄せて.......読む。
街道沿いへ、商会の出店。
ミナセ往復便の専属契約と、その他の定期運航便について。
コンドウ馬車工房での馬車整備契約。
「いかがでしょう」
運送を任せるメリットは大いにある。御者も護衛の手配も要らん。事故対応もある。人を伴わない移動は全部任せられるな。金を払ってもええとこや。
「大変よいご提案です。こちらからは.......」
ハーケンフェルト領に、コンドウ馬車工房の整備部を置き、旧馬車の補強整備。
寝台幌馬車の新造。
「寝台幌馬車はシンプルに荷台奥に簡易折り畳みベッドをつけます。旧馬車にも取り付けは可能ですが、作業はミナセとサラディアで行います」
「ほぉ。サラディアでも出来るのですか」
「もちろんです。コンドウ馬車工房の技術員が常駐しておりますから」
「寝台幌馬車があれば、更に輸送スピードが上がりますな」
「はい。御者の負担も減ります。それから......」
ゴム紐とスポンジを出す。
「これは固定具や緩衝材に使っています。あと、保冷箱もございます」
「ほう。私も商会で見た保冷箱は使いたいと思っておりましたが、固定具と緩衝材ですか。なるほど、商品によってカタチを変えていただけるのですね」
ゴム紐とスポンジを弄くるオルディス。
「コンドウ製馬車は足回りが違います。振動は比較にならないでしょう。それでも地方の悪路は跳ねます。商品にあった緩衝材と固定具を使えば、商品の損傷も少なくなります」
「今はロープとボロ布を使っておりますが、どうしても緩むことがあって。この弾力.....なるほど、いいものをお持ちだ」
オルディスがニッコリと笑う。
「コンドウ殿。この国の輸送を変えましょう。ご一緒に」
「はい」
その後、馬車置き場に移動した。整然と並ぶ馬車。大きな馬房が何棟も並んでいる。
ーーすごいなぁ。この馬車全部整備かぁ......
「コンドウ殿、この一角に整備場を作りましょう」
職人は十分におる。ずっと研修所で増やしてきたから大丈夫や。
「はい。一度に3台程度入る建屋が必要ですね」
「わかりました」
「あ、それから.......うち、遠征パックってのがあって」
「遠征パック?」
「長距離配送の時に使う食品パックで、簡単に作れる食いもんを保冷箱に入れて持っていくんです」
「ほう。それはよろしいですな」
「クレスの食堂も作りませんか?カレーやラーメン出せますよ」
「ハッハ。コンドウ殿は面白い。豪華な馬車を作るかと思えば、御者の食事までお考えになる」
「いや。飯大事でしょ。腹減ったら事故の元やん」
「ごもっともです。では戻って契約書を作りましょう」
サラディアに戻ってきた。
馬車工房を見に行くと、ペータ達が新造馬車の準備を始めていた。
「お。やっとるな」
「タケシさん。どうでした?」
「ああ。やるで。寝台幌馬車」
やったー。と小躍りする職人達。
「小物作りも見てやれよ。あれかてコンドウ製やで」
「わかってますって。僕ら間違いないもんにしかこれ押しませんよ」
焼印を見せるペータ。
「お前らクルクル乾燥機にまで押してるよな」
「当然でしょ。あれかて、きれいに回すの難しいんです」
「そやな。ほんまお前らええもん作ってる。そや.....誰か訓練所入れられる奴おったら、連れて帰るぞ」
「ほんまですか、それなら......」
ペータが1人の青年を連れてきた。
「彼、もうちょいで2級位です。いけると思います」
この顔.....残ってたやつや......
「家族、おるよな」
「はい。嫁と子供が」
「そっか......ミナセで技能訓練受けるか。級取ったら給料上がるぞ」
「えっ。行きたいです。.....でも.....子供まだ小さくて......」
「留守中の給料は保証する。向こうは、泊まるとこも飯もついとる。どうする?」
「それなら、行かせてください」
「よっしゃ。嫁はんと子供はレオンに言うとく。ちゃんと周りで見させるから。明日発つから家帰って話ししてこい」
ぴょこんと頭を下げると、走っていった。
「ペータ、ボイルにも聞いてって。基礎出来てる奴な」
「わかりました!」




