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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第98話 喰われた男

 ダーレンとエクレールの激戦が終わり、闘技場には興奮と熱気が渦巻いていた。


 誰もが、今見た戦いの余韻に浸っている。


 だが、その空気を打ち砕くように──


 ゴン。


 鈍い音が響いた。


 歓声が止まる。


 観客たちの視線が、一斉に南側の通路へ向いた。


 暗がりの奥。


 そこに、一人の男が立っていた。


「……」


 ざわめきが広がる。


「あいつ……」


「失格になった奴だ」


「ザンギュラ……」


 最初の選定で、キラーに拒絶された男。


 だが、その顔は試験を受けていた時とはまるで別人だった。


 目は血走り、


 首筋には黒い筋が浮かび、


 肩で荒く息をしている。


 まるで何日も眠っていない獣のようだった。


「納得……できねぇ……」


 掠れた声。


 一歩。


 また一歩。


 ザンギュラが中央へ向かって歩き始める。


「俺は触れたんだぞ……」


 ドクン。


 ロゼリアの胸が脈打つ。


「っ……!」


 隣ではルシアも顔を歪めていた。


 腰のスレイヤーが、小刻みに震えている。


「まずいですな」


 エルドが立ち上がる。


「ええ」


 リールーも険しい表情を浮かべた。


「完全に当てられているわ」


 ザンギュラが叫ぶ。


「俺の方が強い!」


「俺の方が戦える!」


「俺の方が相応しい!」


 その叫びに呼応するように、空気が重く沈んでいく。


 黒い靄。


 殺意。


 欲望。


 嫉妬。


 憎悪。


 あらゆる負の感情が、男の身体から滲み出していた。


 そして。


 ザンギュラの視線が止まる。


 中央。


 台座の上に置かれたキラー。


 その瞬間だった。


「返せぇぇぇぇぇぇッ!!」


 轟ッ!!


 石畳を砕きながら突進する。


「止まれ!!」


 ジークレッドが前へ出る。


 だが、止まらない。


 まるで理性そのものを置き去りにしたように。


 エクレールが雷を纏い、飛び込んだ。


「邪魔よ!!」


 轟雷。


 青白い閃光がザンギュラを直撃する。


 普通の人間なら、一撃で消し飛ぶ威力。


 しかし。


 吹き飛ばされたザンギュラは──


 笑っていた。


「へへ……」


 焦げた肉から煙が立ち上る。


 それでも立ち上がる。


 観客席から悲鳴が上がった。


「なんなんだ、あいつ……!」


 今度はエレノアが飛び出す。


「通しません!」


 鋭い斬撃。


 足を払う。


 肩を裂く。


 関節を崩す。


 それでも。


 止まらない。


 血を撒き散らしながら、一歩ずつ前へ進む。


「なっ……!?」


 エレノアが息を呑んだ。


 その時だった。


 黒い影が走る。


 仮面の女。


 その刃が、一瞬だけザンギュラの首筋を掠めた。


 動きがわずかに鈍る。


 だが、それだけだった。


「喰われている」


 誰にも届かないほど小さな声。


「もう遅いわね」


 そして。


 ついにザンギュラは台座へ辿り着く。


「やめろ!!」


 ジークレッドの怒号が響く。


 間に合わない。


 ガシィッ!!


 ザンギュラがキラーを掴んだ。


 その瞬間。


 闘技場全体が脈打つ。


 ドクン。


 空気が震える。


 ドクン。


 誰もが息を呑む。


 ドクン。


 恐怖が全身を駆け抜ける。


 ロゼリアの脳裏に、あの日の感覚が蘇った。


「っ……!」


 ルシアも胸を押さえる。


 スレイヤーが激しく脈打っていた。


「うあぁぁぁぁぁッ!!」


 ザンギュラが咆哮する。


「力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 黒い瘴気が爆発した。


 堰を切った濁流のように。


 殺意が。


 怨念が。


 狂気が。


 闘技場全体へと溢れ出していく。


 観客席が凍りつく。


 兵士たちでさえ足が竦んだ。


 その時だった。


「全員避難だ!!」


 ヴァルガスの怒号が響く。


 その一声だけで空気が変わる。


「兵士は観客を守れ!」


「走れ!!」


 兵たちは我に返り、一斉に動き出した。


 観客の誘導が始まる。


 ロゼリアも立ち上がる。


「エルド!」


「分かっております!」


 ストーリアは弓を構えた。


(麻痺矢……それしかないかしら)


 リフルは子供たちを避難させる。


 誰もが動き出す。


 だが。


 ルシアだけは動けなかった。


 腰のスレイヤーが震えている。


 まるで。


 キラーの声に応えるように。


「やめろ……」


 額から汗が流れ落ちる。


 その隣で、ロゼリアも唇を噛み締めた。


 聞こえる。


 あの剣の声が。


 確かに。


 「殺せ」


 ザンギュラが嗤う。


 キラーを握り締めながら。


 その姿は、もはや人ではない。


 災厄だった。


 ジークレッドが大剣を構える。


 エクレールの雷が迸る。


 エレノアが剣を握り直す。


 仮面の女は静かに距離を取る。


 そして最後尾。


 ダーレンだけは動かなかった。


 アイスブルーの瞳で、静かにザンギュラを見つめている。


 まるで。


 何かを見極めるように。


「……なるほど」


 小さな呟き。


 誰にも聞こえない。


 だが、その瞳はすでに答えへ辿り着いていた。


 そして彼は、静かに一歩前へ出る。


 これから始まる戦いの結末を。


 ただ一人だけ理解したまま。

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