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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第92話 剣を握る者、竜を討つ者

「……次は誰?」


 エクレールが肩をすくめる。


 だが今度は、誰も動かなかった。


 ガルドの敗北を見た直後だ。


 キラーは力を与える。


 しかし同時に、人を蝕む。


 その事実を全員が理解していた。


 重い沈黙。


 その空気を破ったのは、一人の女剣士だった。


「はい」


 澄んだ声。


 観客席がざわめく。


 長い栗色の髪を束ねた女が静かに歩み出る。


「エレノアと申します」


 深く一礼した。


「よろしくお願いいたします」


 どよめきが広がる。


「流浪の剣姫だ」


「Aランク冒険者の……!」


「単独行動で有名な」


 ルシアも目を細める。


「知ってるのか?」


「有名人よ」


 ストーリアが答えた。


「依頼達成率が異常に高いの」


 エルドも頷く。


「ここに残っている中でも上位でしょうな」


 エクレールが楽しそうに笑った。


「で?」


 細剣を肩へ担ぐ。


「私か、ジークか」


 エレノアは迷わなかった。


「ジークレッド様で」


 観客席がどよめく。


 ジークレッドはただ一言。


「来い」



 エレノアはキラーの前へ立った。


 近づくだけで呼吸が浅くなる。


 憎悪。


 殺意。


 怨念。


 触れてもいないのに精神が削られていく。


(このままでは駄目)


 エレノアは静かに目を閉じた。


 呼吸を整える。


 雑念を捨てる。


 己を保つ。


 そして目を開く。


 迷いはなかった。


 その手がキラーを握る。


 ドクン。


 空気が脈打った。


 黒い瘴気が揺れる。


 だが。


 エレノアは倒れない。


 汗を流しながらも立ち続ける。


 エクレールが感心したように笑った。


「へぇ」


「耐えるんだ」


 ルシアも息を呑む。


 ガルドとは違う。


 酔っていない。


 飲まれていない。


 剣を握ったまま、自分を保っている。



 ゴォン。


 ジークレッドが大剣を抜いた。


「始めるぞ」


 次の瞬間。


 その姿が消える。


 轟音。


 爆ぜる石畳。


 だが。


 キィィィン!!


 エレノアは受け止めた。


 観客席がどよめく。


 ジークレッドの斬撃を受け止めた者は、ここまで一人もいない。


「見事」


 ジークレッドが初めて言葉を漏らした。


 だが。


 そこから先は違った。


 二撃。


 三撃。


 四撃。


 防ぐ。


 捌く。


 耐える。


 しかし押し返せない。


 エレノアは必死に食らいつく。


 対してジークレッドは微動だにしない。


 まるで山。


 まるで城壁。


 埋められない差がそこにあった。



「互角じゃない!」


 リフルが叫ぶ。


「違うわ」


 ロゼリアが静かに言った。


「押されてる」


 その通りだった。


 エレノアは強い。


 間違いなく強い。


 だが。


 ジークレッドはさらに上にいる。



 それでも。


 エレノアは退かなかった。


「はぁッ!!」


 初めて自ら踏み込む。


 黒い斬撃が一直線に走る。


 その瞬間。


 ジークレッドの目が細まった。


「――良い」


 大剣が振り下ろされる。


 ズドォォォン!!


 衝撃波。


 吹き上がる砂煙。


 そして。


 膝をついていたのはエレノアだった。


 肩で息をしている。


 両腕は震えている。


 それでも。


 キラーはまだ手の中にあった。



「……まだ立てるか」


 ジークレッドが問う。


 エレノアは笑った。


 苦しそうに。


 それでも誇らしげに。


 ゆっくり立ち上がる。


 その姿に観客席から歓声が上がった。


 勝っていない。


 だが。


 戦えている。


 それだけで奇跡だった。



「なるほど」


 ストーリアが呟く。


「どうしたの?」


 リフルが首を傾げた。


 ストーリアは試験場を見つめたまま答える。


「これ、キラーの継承者選びじゃない」


「え?」


 リールーも静かに続ける。


「王国は竜討伐隊を作るつもりです」


 ルシアが視線を向ける。


「竜討伐隊?」


「ええ」


 リールーは頷いた。


「精神耐性」


「極限状況での判断力」


「高位戦力との連携」


「すべてが竜との戦いを想定しています」


 ストーリアが小さく息を吐く。


「キラーを継ぐ者は一人」


「でもドラゴンと戦うのは、一人じゃない」


 その言葉で。


 ルシアは初めて理解した。


 この試験の本当の意味を。


 王国は最強の剣士を探しているのではない。


 来るべき竜との戦争に備え、


 戦える者たちを選別しているのだ。


 ドクン。


 腰のスレイヤーが脈打つ。


 まるで。


 その未来を知っているかのように。

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