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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第90話 最初の挑戦者、“剣に呑まれる者”

 メルディナ中央闘技場。


 中央に置かれた漆黒の剣。


 ――《DRAGON KILLER》。


 その存在だけで、空気が重かった。


 観客席のざわめきすら、どこか押し潰されているように感じられる。


 エクレールが肩を回しながら笑った。


「じゃあ始めるわよ」


 指先で青白い雷光が弾ける。


「一人目は誰かしら?」


 沈黙。


 十三人の参加者たちは、誰もすぐには動かなかった。


 視線だけが交差する。


 当然だ。


 目の前にあるのは普通の武器ではない。


 フェリオスの一件は、すでに噂となって広まっている。


 触れるだけで危険。


 その事実を、誰もが理解していた。


 やがて、一人の男が舌打ちを鳴らす。


「……チッ」


 前へ出たのは、大剣を背負った巨漢だった。


 第一試技でも暴れていた筋骨隆々の戦士。


「誰も行かねぇのか?」


 鼻で笑う。


「なら、オレがやってやるよ」


 観客席がざわめいた。


「あいつか!」


「鉄砕きのガルドだ!」


 男は肩を鳴らしながら歩き出す。


「こんなもん剣なんだろ?」


「だったら握って振りゃいいだけだ」


 エクレールが面白そうに目を細めた。


「へぇ。嫌いじゃないわよ、そういうバカ」


 ジークレッドが静かに口を開く。


「名を名乗れ」


 その声だけで空気が沈む。


 一瞬だけ気圧されながらも、ガルドは笑った。


「ガルドだ。Bランク傭兵団《赤牙》団長」


 胸を張る。


「ドラゴン殺しをいただきに来た」


「……よかろう」


 ジークレッドの視線がキラーへ落ちる。


「その剣に触れるが良い」


 空気が張り詰めた。


「掴んだら、そのまま待て。そして選べ」


 大剣が静かに持ち上がる。


「私か」


 バチィッ!


 雷光が走る。


 エクレールが細剣を抜いた。


「それとも、エクレールか」


 ガルドはニヤリと笑う。


「決まってんだろ」


 重い足音を響かせながらキラーへ近づく。


 近づくほどに表情が歪む。


 だが無理やり笑みを作った。


「……なんだよ」


「大したこと――」


 触れた。


 その瞬間。


 ドクン。


 会場全体の空気が脈打った。


「――ッ!?」


 ガルドの身体が硬直する。


 観客席がざわついた。


「おい……?」


「なんだ今の……」


 右腕が震える。


 黒い刀身から何かが流れ込んでいた。


 熱。


 殺意。


 暴力衝動。


 頭の奥へ直接流し込まれるような濁流。


「ぐ……ッ」


 歯を食いしばる。


 額から汗が滴る。


 だが次第に、その表情は苦痛から歓喜へ変わっていった。


「……は」


 肩が震える。


「はは……!」


 目が大きく見開かれる。


「なんだよこれ……!」


「力が湧いてきやがる……!」


 黒い瘴気が剣の周囲で揺らめいた。


 観客席から不安げな声が漏れる。


 ルシアも無意識に立ち上がっていた。


 ドクン。


 腰のスレイヤーが脈打つ。


 まるでキラーへ呼応するように。


(……なんだよ、それ)


 ロゼリアの目も鋭くなる。


(フェリオスの時と似てる……)


 その時、ガルドがキラーを持ち上げた。


 ぎらついた瞳がエクレールを捉える。


「アンタだ」


 口元が歪む。


「女相手ならちょうどいい」


 観客席がざわつく。


 エクレールは数秒黙っていた。


 やがて小さく笑う。


「そう」


 細剣を肩へ乗せた。


「来なさい」


 鐘が鳴る。


 ゴォォォン――――!!


「オォォォォラァァ!!」


 ガルドが地面を砕く勢いで踏み込んだ。


 重く、速い。


 大剣使いとは思えない速度だった。


 キラーが身体能力そのものを引き上げている。


 黒い刃が唸りを上げる。


「潰れろォ!!」


 ズガァァァン!!


 石畳が砕け散る。


 しかし。


「……遅いわね」


 背後から声。


「なっ――」


 振り返る。


 そこには、すでにエクレールが立っていた。


 誰一人、その移動を見切れなかった。


「速っ……!」


 リフルが目を見開く。


 エクレールはため息混じりに言った。


「力は増してる」


「でも――」


 バチィッ!!


 雷光。


 白い閃光。


「がッ!?」


 たった一撃。


 剣を軽く当てただけ。


 それだけで巨体が吹き飛ぶ。


 ドォォン!!


 壁へ激突。


 観客席が静まり返った。


 誰も状況を理解できない。


 だがガルドは立ち上がる。


 血を吐きながら。


 それでも笑っていた。


「は、はは……!」


 目は完全に正気を失い始めている。


「もっとだ!!」


 再び突撃。


 さらに速く。


 さらに重く。


 キラーが力を引き出している。


 横薙ぎ。


 縦斬り。


 連撃。


 空気が裂ける。


 普通の相手なら近づくことすらできない猛攻。


 しかしエクレールは違った。


 紙一重。


 最小限の動き。


 まるで踊るようにすべてを躱していく。


「なんで当たらねぇ!!」


「当てる気しかないからよ」


 軽い声。


 次の瞬間。


 エクレールの姿が消えた。


「――え?」


 雷鳴。


 バチィィィィン!!


 閃光。


 そして。


 ズドン。


 ガルドが膝をついた。


 胸に細い斬撃痕。


 そこから青白い電流が走っている。


「が……ぁ……」


 手からキラーが滑り落ちた。


 重い音を立てて砂地へ転がる。


 エクレールはその前に立ち、静かに見下ろした。


「遅い」


 冷たい声。


「剣に振られてる」


「う……るせぇ……!」


 ガルドは立ち上がろうとする。


 だが身体は動かない。


 キラーを離した瞬間、先ほどまでの力が嘘のように消えていた。


 エクレールは興味を失ったように背を向ける。


「失格」


 静かな宣告。


 その一言で、会場の空気は完全に変わった。


 誰も笑わない。


 誰も軽口を叩かない。


 全員が理解した。


 キラーを握った程度では、あの二人には届かない。


 それどころか――


 剣に呑まれる。


 観客席で、ルシアは無意識に拳を握っていた。


 ドクン。


 スレイヤーが脈打つ。


(……違う)


 キラーとは違う。


 なのに胸の奥が熱い。


 その時だった。


 エクレールがふと観客席を見上げる。


 真っ直ぐに、ある一点を。


 そして楽しそうに笑った。


「……あら?」


 会場がざわめく。


「Sランクパーティまで来てるじゃない」


 その視線の先には、先ほどから静かに試験を見守っていた四人の姿があった。

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