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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第88話 第三試技、“本物”

 第一試技、第二試技を経て。


 残った者は、わずか十三名。


 だが、その十三人が纏う空気は、もはや最初とは別物だった。


 誰も喋らない。


 無駄に威圧し合う者もいない。


 互いに距離を取りながら、静かに観察し合っている。


 そこにいるのは、ただ戦える者たちだけ。


 観客席の熱気も、先ほどまでとは違っていた。


 ざわめきはある。


 だがそれは祭りの興奮ではない。


 固唾を呑み、行く末を見守る緊張感だった。


 第二試技で脱落した者の多くは、傷ではなく――心から崩れていた。


 ルシアは黙って試験場を見つめる。


(……あそこか)


 まだ自分は立っていない場所。


 まだ呼ばれていない場所。


 その時だった。


 ゴォン――――。


 重い鐘の音が闘技場全体へ響き渡る。


 中央ゲート上部。


 王国紋章の旗が、一斉に翻った。


「……来る」


 エルドが低く呟く。


 次の瞬間。


 闘技場北側の巨大扉が、ゆっくりと開いた。


 ギギギギギ――――。


 石と鉄が擦れる重い音。


 そこから現れたのは、これまで進行役を務めていた一人の男だった。


 黒銀の甲冑。


 長身。


 無駄のない歩み。


 背には、人ひとりほどもある大剣。


 だが。


 誰もその剣へ意識を向けられなかった。


 先に来る。


 圧が。


「……っ」


 ルシアの呼吸が止まる。


 ただ歩いているだけ。


 それだけなのに、闘技場全体の空気が一段沈んだ。


「王国直属護衛剣士団団長――!」


 高台の兵士が声を張り上げる。


「“剛刃”ジークレッド!!」


 瞬間。


 観客席が揺れた。


 歓声。


 どよめき。


 熱狂。


 だが試験場に残る十三名は、誰ひとり声を上げない。


 全員が見ていた。


 目の前の男が、どれほどの存在なのかを。


 ジークレッドは中央まで進むと、静かに参加者たちを見渡した。


 その視線だけで。


 一人、呼吸を乱す。


「……化け物ね」


 リフルが小さく呟く。


 ロゼリアも無言だった。


(強い……)


 剣を背負っているだけで、この迫力。


 単純な話ではない。


 積み重ねてきた死線。


 修羅場。


 数え切れない経験。


 そういうものが、全身から滲み出ていた。


 先ほどまでの参加者たちとは、まるで次元が違う。


 その時だった。


 バチィッ!!


 突如、闘技場上空に青白い雷光が走った。


「!?」


 観客たちが空を見上げる。


 次の瞬間。


 轟音。


 ――ドォン!!


 稲妻が闘技場中央へ落ちた。


 砂煙が舞い上がる。


 熱風。


 焦げる匂い。


 そして。


 その中心に、一人の女が立っていた。


 白を基調とした軽装鎧。


 肩まで流れる金髪。


 腰には細身の剣。


 その全身から、雷そのもののような鋭さが迸っている。


「うわ……」


 リフルが思わず声を漏らした。


「派手ねぇ……」


 女は肩を軽く回しながら笑う。


「相変わらず堅っ苦しい登場ねぇ、団長サマ」


 声音は軽い。


 だが、その気配は明らかに異常だった。


「別働遊撃隊隊長――!」


「“稲妻”エクレール!!」


 再び歓声が爆発する。


 今度は試験場の参加者たちもざわめいた。


 動揺。


 緊張。


 そして、数名が明らかに気圧されている。


 エクレールはそれを見て楽しそうに笑った。


「へぇ?」


「ちょっとはマシなのがいるじゃない」


 視線が残存者たちを舐めるように走る。


 黒装束の仮面の女。


 大剣使い。


 双剣の男。


 そして。


 ふと、その視線が止まった。


「……あら?」


 エクレールは観客席へ顔を向ける。


 真っ直ぐに。


 ロゼリアへ。


「……?」


 突然向けられた視線に、ロゼリアがわずかに眉を動かした。


 エクレールは楽しそうに笑う。


「ねぇ、ジークレッド」


「……なんだ」


「一人、忘れてない?」


 観客席がざわつく。


 エクレールは指を伸ばした。


「あそこ」


 視線が一斉に流れる。


 その先。


 ロゼリア・ウォーハート。


「――ッ」


 周囲がどよめいた。


「あれが……」


「ドラゴン戦の……」


「キラーを握ったっていう……?」


 エクレールは口角を上げる。


「ロゼリアさん」


「そんなところで見てないで、降りてきてくれるかしら?」


 空気が変わった。


 完全に。


 ロゼリアは一瞬だけ黙る。


 だが、エクレールは続けた。


「あなたが噂に聞く、“あのドラゴンを退けた”ロゼリアさんね」


「噂以上に見目麗しいわ」


「……話が飛躍してるわね」


 ロゼリアが小さく息を吐く。


「私は生還しただけ」


「まともに戦えてすらいない」


「ただ、キラーに触っただけよ」


「それだけで充分じゃない?」


 エクレールが笑う。


「そうでしょ? ジークレッド」


 ジークレッドは静かに頷いた。


「ああ」


「こいつに触れること自体、並大抵ではない」


 その言葉で。


 観客席の空気が変わる。


 認められた。


 王国最強格の二人に。


 ロゼリアは小さく目を閉じる。


 そして。


 静かに立ち上がった。


「……分かったわ」


 短く答える。


「ただし、まだ試験の最中よ」


 視線を闘技場へ向ける。


「最後まで見届けさせてもらうわ」


「ふふっ」


 エクレールが楽しそうに笑った。


「そういうところ、嫌いじゃないわ」


 そう言うと、彼女は肩をすくめる。


「じゃあ後のお楽しみってことにしましょう」


 その一言で、張り詰めていた空気がわずかに緩んだ。


 そして。


 再び全員の視線が試験場へ戻る。

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