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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第87話 観測者たちと静かなる視線

「……思ったよりも残ってるわね」


 ロゼリアが、わずかに感心したように呟いた。


「ねぇ、ヴァルガス。あなたから見て、あの仮面の女、どう映る?」


 問われたヴァルガスは、腕を組みながら目を細める。


「そうだな……あの衣装には見覚えがある気がする」


「見覚え?」


「ああ。昔、東の僻地へ遠征した時に、あれに似た格好の連中を見たことがある」


 ロゼリアの眉がわずかに動く。


「それ、本当?」


「間違いねぇ。ただ、剣を交えたわけじゃねぇからな。強さまでは分からん。それに、仮面なんて付けちゃいなかった」


「そう……」


 ロゼリアは再び試験場へ視線を向ける。


「だとしたら、何かしら関係はあるのかもしれないわね」


「ああ」


 ヴァルガスも頷く。


「あの女から漂ってくる空気は尋常じゃねぇ。肌がひりつく」


「それは私も感じるわ」


 するとヴァルガスは豪快に笑った。


「まぁ、オレ様には及ばんだろうがな! ハッハッハ!」


「はいはい」


 ロゼリアが呆れたように肩をすくめる。


 軽口が終わると、ヴァルガスは再び真剣な表情で闘技場を見下ろした。


 第二試技は、すでに終盤へ差しかかっている。


 先ほどまで百を超えていた参加者たちは、ほとんどが脱落していた。


 だが、それでもなお――十数名。


 未だ立ち続けている者たちがいる。


 額に汗を浮かべながら歯を食いしばる者。


 荒い呼吸のまま、剣を支えに耐える者。


 そして。


 まるで何事もないかのように、静かに立つ者。


 その差は、誰の目にも明らかだった。


「そうですわね」


 リフルも腕を組みながら頷く。


「みんな意外と精神的にタフなのかしら」


 先ほどまでの、ごろつき同然の連中とは違う。


 今残っている者たちは、少なくともこの異様な空気の中で、自分を保っている。


「キラーの前で、あれだけ平然としていられるのは大したものですな」


 エルドが低く唸った。


「あの剣は、近くにあるだけで精神へ干渉してくる」


「並の者なら、立っていることすら難しいでしょう」


 視線の先。


 闘技場中央では、魔力障壁に囲まれた黒布の台座が静かに佇んでいる。


 封印されているはずなのに。


 それでも分かる。


 あれこそが、この場の空気そのものを歪めている元凶なのだと。


「余程の鍛錬を積んできた者たち、ってことね」


 ストーリアも感心したように息を吐く。


 すると、ロゼリアが静かに口を開いた。


「剣の鍛錬。技の鍛錬。魔法の鍛錬――」


 視線は試験場へ向けられたまま。


「あれ、結局は全部“精神”なのよ」


 自然と皆が耳を傾ける。


「もちろん身体は大事。でも、それだけじゃ意味がないわ」


 穏やかな声だった。


 だが、その言葉には確かな実感が宿っている。


「恐怖の中で踏み込めるか」


「痛みに耐えられるか」


「死を前にして、それでも剣を振れるか」


 一拍。


「心と身体。その両方が強くなければ――あそこには立っていられない」


 下では、また一人が膝をついた。


 限界はとうに超えている。


 それでも立ち続けているのは、誇りか。


 執念か。


 あるいは、それ以上の何かか。


「……なるほどですわ」


 リフルが感心したように頷く。


「だから、お姉様ってあんなに強いのね」


「ちょっと、リフル」


 ロゼリアが苦笑する。


「でも実際そうだと思うわ」


 ストーリアも真面目な顔で続けた。


「最後に残る人って、“一番強い人”とは限らないもの」


「最後まで折れない人、よね」


「故に、この試験は理にかなっております」


 エルドも静かに頷いた。


「力だけを見るなら、単純に試合をさせればよい」


「ですが、“キラー”を持たせるのであれば、それだけでは足りない」


 その言葉に、ルシアは黙ったまま試験場を見下ろしていた。


(折れない、か……)


 脳裏をよぎるのは、フェリオスの姿。


 あれは折れたのか。


 それとも――最初から飲み込まれていたのか。


 無意識に腰のスレイヤーへ触れる。


 ドクン。


 微かに脈打った気がした。


 その時だった。


「……あれ」


 リフルが小さく呟く。


 ルシアたちから少し離れた観客席の上段。


 そこにもまた、静かに試験場を見つめる一団がいた。


 四人。


 装備に統一感はない。


 だが、一目で分かる。


 ――強い。


 纏う空気そのものが違った。


 無駄な会話がない。


 立ち方。


 視線。


 呼吸。


 その全てが洗練されている。


「どう見ても“Sクラス”ね」


 リフルの言葉に、ロゼリアも静かに目を細めた。


 中央に立つ長身の男。


 黒い外套を纏い、背には巨大な槍。


 その隣には、白銀の髪を揺らす女性剣士。


 さらに奥には、杖を抱えた魔導士風の男。


 全員が異様なほど落ち着いていた。


 まるで、この程度の試験など見慣れているかのように。


「メルディナ所属ではなさそうですな」


 エルドが小声で言う。


「ええ」


 ロゼリアも頷いた。


「地方ギルドの空気じゃないわ」


 その時。


 ふと、中央の槍使いの男がこちらへ視線を向けた。


 ごく自然な動作。


 だが、その目は鋭い。


 ロゼリアも無意識に目を合わせる。


 一瞬。


 互いに互いを測るような静寂が流れた。


 そして男は、何事もなかったように再び試験場へ視線を戻す。


「……今の」


 ストーリアが小さく呟く。


「完全に見られてたわね」


 リフルも眉を上げた。


 ロゼリアは答えない。


 ただ静かに試験場を見つめている。


(あの反応……)


 ただ観客を見た目ではない。


 こちらを認識した目。


 剣士特有の感覚だった。


 そして――。


 あのパーティの視線は、観客席ではなく、試験場の一点へ集まっている。


「……もしかして」


 ロゼリアが小さく呟く。


「今、参戦している中に……あの人たちの仲間がいるのかしら」


 その言葉に、エルドも静かに視線を巡らせる。


 十数名まで絞られた試験場。


 その中に。


 ただ一人、静かに立ち続ける者がいた。


 黒装束。


 半面の仮面。


 風に揺れる異国めいた衣。


 先ほどから、一度も揺らがない女だった。

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