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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第85話 第一回試技、ふるい落とされる者たち

 メルディナへ到着する頃には、陽もだいぶ傾き始めていた。


 巨大な城壁。


 人で溢れる大通り。


 聞き慣れた喧騒。


 ルシアは肩の力を抜く。


「……相変わらずの活気だな」


「それ、余裕があるから言える台詞よね」


 ロゼリアが苦笑した。


 確かに初めて来た時は違った。


 人の多さに圧倒され。


 巨大な闘技場を見上げ。


 ただ呆然としていた。


 だが今は違う。


 少しだけ馴染んだ場所。


 そんな感覚があった。


「今日はいつもより人が多いわね。まあ当然か」


 ストーリアが周囲を見回す。


 エルドも頷いた。


「なにせ、これ以上の催しは中々ありませんでしょう」


「むしろ少ないくらいですぞ」


「遠方から観に来る人も大勢いるのね」


 リフルが感心したように呟く。


 その横で。


「あっ、見て!」


 ストーリアが振り返った。


「ほら、あそこのパン屋!」


「あれ、この前話してた店か?」


「そう!」


 ぱっと表情が明るくなる。


「確かにいい匂いだな」


 ルシアが思わず笑った。


 すると今度はリールーまで身を乗り出す。


「向こうの通りにある古書店も、とても素敵なんです」


「店主の方が少し変わっていまして……」


「始まったわね」


 リフルが肩をすくめる。


「地元案内ですわ」


「今日は一段と賑やかね」


 ロゼリアが微笑む。


 ストーリアもリールーも、どこか誇らしげだった。


 故郷へ帰ってきたのだ。


 無理もない。


 そんな二人を見ながら、ルシアはふとロゼリアへ視線を向ける。


(……ロゼリア、今日は少し静かだな)


 普段ならもう少し言葉が多い。


 やはりキラーのことが気になっているのだろう。


 そう考えているうちに――


 街並みの向こうに巨大な影が見えた。


 石造りの円形建築。


 空へ向かって積み上がる観客席。


 メルディナ中央闘技場。


 遠くからでも分かる圧倒的な存在感だった。


 そして。


 その周囲だけ、人の流れが違う。


 武器を背負う者。


 鎧を着た者。


 明らかに腕に覚えのある者たちが次々と集まっている。


「始まるのね」


 ロゼリアが静かに呟く。


 ルシアは無言で闘技場を見上げた。


 その手の中で。


 スレイヤーが微かに脈打つ。


 ドクン。


 まるで。


 あの場所へ来いと呼ぶように。



 メルディナ中央闘技場。


 円形に切り取られた巨大な石の盆地は、まるで古い戦場の跡をそのまま囲ったような造りをしていた。


 観客席は何層にも積み上がり、上から見下ろす形で闘技場を囲んでいる。


 ルシアたちは、すでに多くの観客で埋め尽くされた席の一角にいた。


 砂地の中央には、既に人が溢れている。


 鉄と革の擦れる音。


 乾いた咳。


 無駄に大きな笑い声。


 熱気と、焦げたような緊張が混じり合っていた。


「……多いな」


 ルシアが、柵越しに見下ろしながら呟く。


 下にいる参加者は、ざっと百を超えている。


 統一感はない。


 剣、槍、斧、素手。


 装備も、姿勢も、全部バラバラだ。


「半分は“その辺の腕自慢”ね」


 リフルが頬杖をつきながら言う。


「残り半分は……もっとひどいわ」


 視線の先。


 場違いなほど軽装な男が、隣の大男に絡んでいる。


「おいおい、そんなデカい武器振り回せんのかよ!」


 笑い声。


 だが、そのすぐ後ろで別の男が、無言で距離を詰めている。


「……一攫千金と、勘違い」


 エルドが静かに言う。


「どちらも同じ末路ですな」


「それだけじゃないわ」


 ロゼリアが目を細める。


 風が、下から吹き上がってくる。


 砂と汗の匂い。


 その奥に――


「……引き寄せられてる」


 ルシアの手の中で、スレイヤーが微かに重くなる。


(……またか)


 その時だった。


 闘技場北側の高台。


 重い扉が開く音が響いた。


 視線が、一斉にそこへ集まる。


 現れたのは、ジークレッド。


 無駄のない歩き方で中央へと進む。


 その足音だけで、ざわめきが静まっていく。


 ゴツ。


 ゴツ。


 ゴツ。


 重厚な足音が闘技場へ刻まれる。


 やがて中央で立ち止まり、一呼吸。


 豊かなバリトンボイスが、場を静寂へ変えた。


「皆、よく聞け」


 声が響く。


「これより、ドラゴンキラー所有者選定大会、第一回試技を開始する」


 参加者たちの空気が変わる。


 緊張。


 興奮。


 野心。


 それらが一斉に膨れ上がった。


「ルールは単純だ」


 一瞬、風が止まる。


「――残れ」


 短い。


 だが、その一言で空気が変わった。


「時間内に立っている者のみ、次へ進む」


 誰かが笑う。


「はっ、楽勝じゃねえか」


「なお」


 ジークレッドがわずかに視線を動かした。


「武器の使用は自由」


 一拍。


 そして。


「――始めろ」


 その瞬間。


 砂が爆ぜた。


 一斉に踏み込む音。


 乾いた衝突音。


 怒号。


「どけぇぇぇ!!」


 大剣が横薙ぎに振られる。


 風圧で砂が舞い、周囲の数人が体勢を崩した。


 そこへ背後から短剣が突き出される。


「もらった!」


 だが、突いた腕ごと別の男に蹴り飛ばされる。


「……ひどいわね」


 リフルが呟く。


 戦いではない。


 ただの――削り合い。


 視界の端で一人が転ぶ。


 起き上がる前に別の足が踏みつけた。


「ぐっ……!」


 そのまま動かなくなる。


「順番なんてない」


 ロゼリアが言う。


「強い者から残るわけでもない」


「じゃあ何で決まるんだよ」


 ルシアが低く返す。


 ロゼリアは答えない。


 ただ、見ていた。


 その時だった。


「……あ?」


 一人の男が、剣を構えたまま止まる。


 攻撃も受けていない。


 だが。


「なんだ……息が……」


 肩が上下する。


 手が震える。


 次の瞬間。


 膝から崩れ落ちた。


「お、おい!?」


 近くの男が振り向く。


 だが――


 別の場所でも同じことが起きていた。


 立っているだけの者が突然座り込む。


 呼吸が荒い。


 視線が定まらない。


「……始まっていますね」


 リールーの声が、すぐ後ろで落ちる。


「何がだよ」


「“選別”です」


 リールーの視線は闘技場ではない。


 もっと深いところ。


「キラーが、“見てる”といいますか」


 ドクン。


 ルシアの手の中で、スレイヤーが脈打つ。


(……やめろよ)


 一瞬だけ。


 視界がぶれた。


 砂の上に立つ人影が。


 “違うもの”に見えた気がした。


 だが、すぐに戻る。


「……気のせい、か」


 気づけば。


 立っている人数が半分を切っていた。


 戦って倒れた者もいる。


 だが、それ以上に――


 立っていられなかった者が多い。


 その中で。


 ほとんど動かず、ただ立っている者がいた。


 砂の流れを読むように。


 最小限の動きで位置をずらす。


 無駄な攻撃はしない。


 呼吸も乱れない。


「……いるわね」


 リフルが笑う。


「“ちゃんとしたの”が」


 ロゼリアも、その一人を見つめる。


(……あそこ)


 次の段階へ進む者たち。


 そして、自分もそこに立つ。


 ロゼリアは静かに息を吐いた。

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