第84話 重なる連携 続
「え――」
リフルが目を見開く。
踏み込みが、異常だった。
爆ぜるような加速。
ルシアの姿が、リザードドラゴンの横を駆け抜ける。
そして――
遅れて、斬撃が走った。
ズドン。
巨体が、ずれる。
脇腹から胸部にかけて、大きく抉れていた。
「グギャアアアアア!!」
悲鳴が響く。
ロゼリアが即座に叫んだ。
「そこよ!! 集中して!!」
ストーリアが追撃の矢を放つ。
「シューティング・レイ!」
光条が一直線に傷口へ突き刺さった。
リフルが跳ぶ。
「叩き込む!」
連撃。
蹴撃。
暴風のような乱打が、傷口へ集中する。
さらに。
「グランド・ランス!」
エルドの土槍が地面を突き破った。
鋭い岩槍が、内側から巨体を抉る。
そして――
「来たわね!」
最後に、ロゼリアの剣閃が走った。
銀光一閃。
ズガァァァァァン!!
リザードドラゴンが、ついに崩れ落ちる。
土煙が舞った。
静寂。
誰もしばらく動かなかった。
やがて。
「……倒した?」
リフルが呟く。
だが、ルシアは違った。
身体の違和感よりも。
今は、“ドラゴンを倒した”という事実の方が大きかった。
「……倒した」
小さく漏れる。
ずっと届かなかった相手。
ワイバーンとは違う。
今度は、自分の力で。
自分の剣で。
確かに斬った。
「ルシア、身体は大丈夫なの?」
ロゼリアが静かに近づく。
「何か、動きが速くなってたわよ」
「え?」
ルシアが顔を上げる。
「最後、消えるみたいな速さだったわ」
「そうね」
リフルも腕を組みながら頷いた。
「私より速かったんじゃないかしら?」
にやりと笑う。
「ずるいわね。ルシアのくせに」
「なんだよそれ……」
ストーリアも感心したように口を開く。
「後ろから見てたけど、本当に凄かったわ」
「どうやってそんなに鍛えたの?」
「初めて会った時から、そこまで時間経ってないわよね?」
「いや……俺にもよく……」
言いながら、ルシアは右手を見る。
まだ熱が残っていた。
エルドは黙っていた。
何かを考えるように。
スレイヤーと、ルシアを交互に見つめている。
その時だった。
「み、皆さん!」
岩陰から、リールーが慌てて駆け戻ってくる。
「お怪我はありませんか!?」
「大丈夫よ」
ロゼリアが答えた。
「もう終わったわ」
リールーは、倒れたリザードドラゴンを見つめる。
そして、小さく息を呑んだ。
「……本当に、倒してしまったのですね」
その声には、驚きだけではない。
どこか、“確信”に近い響きがあった。
そして――
誰も気づかないまま。
ルシアが、無意識に右肘へ触れる。
ロゼリアだけが、その違和感に気づいていた。
(……あれ?)
(傷痕が……消えてる?)
(それに、あの踏み込み……)
だが、その疑問は。
次に流れた空気の中へ、自然と溶けていった。
「それにしても、今の戦い……すごく連携が取れていましたね!」
リールーが興奮気味に言う。
「隠れながら見てたんですけど、皆さん本当に凄かったです!」
「そうね」
ロゼリアが笑う。
「私とリフルが動きやすかったの、ストーリアの援護のおかげよ」
「そうですわ!」
リフルも勢いよく頷いた。
「ストーリアさんの攻撃、すっごく正確でしたもの!」
「そんなに褒められると照れちゃうわ」
ストーリアが少し笑う。
「でも、私も凄くやりやすかった。色々試せたし」
「そうですな」
エルドも頷いた。
「ストーリア殿の援護があることで、私が防御に集中できるのは大きい」
「俺はなんか……勢いで斬ってただけだから、あんまり実感ないけどな」
「そこが一番怖いのよ、ルシアは」
ロゼリアが呆れたように言う。
「でも、最後の一撃は見事だったわ」
ルシアは、少し照れくさそうに頭を掻いた。
そんな空気の中。
リフルが、勢いよくストーリアへ近づく。
「もう私、ストーリアさんとロゼリアお姉さまがいるこのパーティ、大好きですわ!」
「距離が近いわね!?」
ストーリアが苦笑する。
そして、ふと思い出したように言った。
「そうだ、みんな」
「私のこと、“さん”なしで呼んでくれない?」
「距離ある感じ、ちょっと寂しいし」
「それは良いことですな」
エルドが頷く。
「連携において、呼称は意外と重要です。“さん”や“くん”が減るだけでも、反応速度は変わります」
「それ本当?」
ロゼリアが笑いながら聞く。
「まあ、気持ちの問題も含めてですな」
エルドは穏やかに答えた。
「じゃあ、ストーリア。よろしくな」
最初にそう言ったのは、ルシアだった。
ストーリアは少し嬉しそうに笑う。
「ええ、よろしく。ルシア、ロゼリア、リフル、エルド……それから、リールーも」
「えっ、わ、私もですか!?」
リールーが慌てて両手を振る。
「私、何もできませんよ……?」
「そんなことないわ」
ストーリアが優しく言った。
「リールーは、私たちが知らないことを教えてくれるでしょ?」
「それって、すごく大事なことよ」
「そうそう!」
リフルも大きく頷く。
「ブレーン担当ってやつですわ!」
「サポート役、ね」
ロゼリアも微笑む。
「戦わなくても、一緒にいてくれるだけで助かるのよ」
リールーは少し戸惑ったあと。
嬉しそうに、小さく笑った。
「……ありがとうございます」
「期待に応えられるよう、頑張ります」
「決まりですな」
エルドが静かにまとめる。
「では、改めて参りましょうか」
その後。
六人は、和気あいあいとした空気のまま、メルディナへ向かって歩き出した。
新しい連携と。
少しずつ重なり始めた、“仲間”という形を連れて。




