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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第81話 決意と穏やかな夜か

 静かな夜だった。


 宿の窓辺に、ロゼリアは一人で座っている。


 机の上には、王都から届いた召集書。


 蝋燭の火が、ゆらゆらと揺れていた。


(……キラー)


 あの瞬間を思い出す。


 ドラゴンの爪。


 死の気配。


 絶望。


 そして――


 “あの剣を握った感触”。


 ぞくり、と。


 指先が小さく震えた。


 嫌な感覚だった。


 なのに。


 あの時、自分は確かに“斬れた”。


 まるで、何かに触れてしまったような感覚。


「……っ」


 ロゼリアは静かに目を閉じる。


 もし。


 あれを扱える者が必要なら。


 もし。


 またドラゴンが現れるなら。


 自分は立ち向かえるのか。


 逃げていいのか。


 まだ答えは出ない。


「……少し飲んで考えようかしら」


 小さく呟き、ロゼリアは部屋を後にした。


 ラウンジには、もうほとんど人が残っていなかった。


 蝋燭の火だけが静かに揺れ、窓の外では夜風が鳴っている。


 ルシアはテーブルに肘をつきながら、ぼんやりと酒杯を眺めていた。


 その時。


 カツ、カツ、と靴音が近づく。


「ここ、いいかしら?」


「あ、はい。どうぞ」


 反射的に答えて顔を上げた瞬間、ルシアは目を丸くした。


「……ロゼリアさん!?」


「そんな驚く?」


「いや……席空いてるのに、何か因縁でもつけられるのかと」


「何言ってるのよ」


 ロゼリアはくすっと笑い、向かいの席へ腰を下ろした。


 柔らかな空気が流れる。


「……そういえば」


 ロゼリアがグラスを傾けながら言った。


「こうやって二人で話すの、初めてじゃない? ルシア」


 言われて、ルシアは少し意外そうな顔をする。


「……そういや、そうですね」


 確かにそうだった。


 いつもリフルが騒ぎ、エルドがまとめ、気づけば皆で話している。


 二人だけというのは、ほとんどなかった。


「スレイヤーを手にする前も、手にしてからも……」


 ルシアが苦笑する。


「何が何だか、よく分かってないですから」


 視線が、壁に立てかけた黒い剣へ向いた。


「やっと装備できたものの、まともにすら戦えない」


 ロゼリアは、その言葉に少し目を細める。


「いいんじゃない?」


「え?」


「かなりサマになってきたわよ」


 ルシアは思わず笑ってしまった。


「ロゼリアさんみたくなるには、相当鍛えないと無理ですよ」


「土台、俺には――」


「そんなことないわ」


 ロゼリアは即座に否定した。


「あなた、前より迷いが減ってる」


「剣を振る時、“踏み込める”ようになってきてるわ」


 ルシアは少し黙る。


 今日の戦闘を思い出していた。


 あの異常な加速。


 あの感覚。


 “踏み込めた”というより――身体が勝手に前へ出た。


「……そうなら、いいんですけどね」


 少しだけ沈黙が流れる。


 やがて、ルシアが静かに尋ねた。


「ところで……行くんですか?」


 ロゼリアはすぐ意味を理解した。


 キラー選定。


 王都召集。


「ええ」


 小さく頷く。


「キラーを手にした時、もちろん欲しかったわけじゃない」


 あの時は、ただ必死だった。


 仲間を守るため。


 生き残るため。


「でも」


 ロゼリアは静かに続ける。


「触れた瞬間、身体中を駆け巡った“殺意”……」


「アレは、何と表現したらいいのか分からない」


「剣を振るってきた者にしか分からない、“特別な何か”があったわ」


 ルシアは黙って聞いていた。


「それと……懐かしさみたいなものも、あったわね」


「懐かしさ、ですか?」


「ええ」


 ロゼリアは少し困ったように笑う。


「自分でも、何を言ってるのか分からないんだけどね」


 懐かしい。


 なのに恐ろしい。


 拒絶したいのに、どこか惹かれる。


 あの感覚を、うまく言葉にできない。


 その時。


 ロゼリアがふと視線を上げた。


「ルシアこそ」


「ドラゴンと戦った時、少し妙だったけれど……何か心当たりはあるの?」


 ルシアの表情が、わずかに止まる。


「……ない、と言えば嘘になります」


 視線がスレイヤーへ向いた。


「あれ、何かを吸収してる感じがするんです」


「キラーみたいな露骨な殺意はない」


「でも、事あるごとに心臓が跳ねる」


 胸元へ手を当てる。


「戦ってる時も、妙に身体が軽くなる時があるんです」


「そんな感じです」


 ロゼリアは静かに聞いていた。


(やっぱり……)


 戦闘中に感じた違和感。


 異常な踏み込み。


 そして、一瞬だけ変わったように見えた目。


 だが、それを今ここで口にすることはしなかった。


「……そうなのね」


 静かな空気が流れる。


 やがてロゼリアが、ふと思い出したように口を開いた。


「ところで、リフルとはどうかしら?」


「え?」


「そばで見てると、うまく連携は取れてるように見えるけど」


「何か困ってない?」


 ルシアは少し考え、苦笑する。


「うーん……」


「何言っても、リフルは俺の言うこと聞かないですからね」


「なんていうか……」


「全部、ロゼリアさんのために戦ってる感じですし」


 ロゼリアは、その言葉に小さく微笑んだ。


「リフルは、ルシアのこともちゃんと見てるわよ」


「そうですかね」


 ルシアは肩をすくめる。


「現に俺より強いから、何も言えないんですけど」


「そうね」


 ロゼリアが頷く。


「でも、ルシアがその剣を“自分のもの”にできたなら、リフルだって変わるわ」


 ルシアは小さく息を吐いた。


「……それが難しいんですよね」


「キラーと、何が違うんだろうって」


「フェリオスのアレは、流石に普通じゃなかった」


「見た瞬間、キラーのせいだって分かった」


「だけど……」


「スレイヤー、ね?」


 ロゼリアが静かに言う。


「エルドに聞いても、“今は鑑定できる要素がない”って言われましたし」


「うーん……」


 ロゼリアは少し考え込む。


「スレイヤーとキラー」


「ここに二本が揃ったことに、何か意味があるのかもしれないわね」


 その時だった。


 ロゼリアの視線が、ふとルシアの右肘で止まる。


「……あら」


「その肘、怪我でもした?」


「え?」


「何か、硬くなってるように見えるわ」


 ルシアは自分の肘を見た。


「あぁ、これですね」


 軽く擦る。


「ドラゴン戦でぶつけたのかもです。無我夢中だったんで」


「そう」


 ロゼリアは静かに頷いた。


「あの時は、みんな余裕なかったものね」


 そう言いながらも。


 彼女の視線は、ほんの少しだけ止まっていた。


(……気のせい?)


 ただの傷跡にしては、妙に硬い。


 だが違和感は小さい。


 ルシア自身も気づいていない。


 なら、今はまだ――。


 その後も、二人の会話は静かに続いた。


 いつもとは少し違う空気。


 騒がしくない時間。


 気づけば、思った以上に長く話し込んでいた。


「……じゃあ、そろそろ部屋へ戻るわ」


「はい。俺も寝ます」


 ロゼリアは立ち上がり、小さく笑う。


「付き合ってくれてありがとう。おかげで決心ついたわ」


「いえ、こちらこそ。楽しかったです」


 ルシアも立ち上がる。


 先に歩いていくその背中を、ロゼリアは静かに見つめていた。


(……大丈夫よね)


 小さな不安。


 だが、まだ確信にはならない。


 一方、ルシアはそんな視線に気づかないまま、廊下を歩いていた。


(……なんか、今日のロゼリアさん)


 少しだけ雰囲気が違った。


 キラーのことを考えていたからだろうか。


 いつもより柔らかくて。


 どこか妙に綺麗だった。


 そんなことを思ってしまった夜だった。

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