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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第6章:襲来

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第74話 判断の空白、退くという選択

 書物庫の静けさは、思考を無理やり現実へ引き戻す。

 戦場の熱も、恐怖も、ここではすべてが遠い。だがその分だけ、誤魔化しが効かない。


「……とにかく、俺たちはまだ動ける」


 ルシアが口を開いた。

 声は低いが、押し出すような力がある。


「このままここで止まってるわけにはいかないだろ」


 一瞬、空気が揺れる。


「外がどうなってるかも分からない。あのドラゴンがまだいるなら――」


 言葉が、そこでわずかに詰まる。

 脳裏に焼き付いている、あの圧倒的な存在。


 そして。

 フェリオスだけが、あれに“触れていた”という事実。


 ルシアの奥歯が、きしむ。


「……スレイヤーは、竜を倒す剣なんだろ」


 ぽつりと漏れる。


「なのに、俺は……何一つできてない」


 握る手に、力が入る。


「当てることすらできない。届きもしない」


 自嘲に近い声。


「結局、あいつだけだ。あの場で、“まともに戦えてた”のは」


 フェリオスの姿が、脳裏に蘇る。

 狂っていた。だが確かに――あのドラゴンに対して“通じていた”。


「……くそ」


 小さく吐き捨てる。


 その言葉を、ロゼリアが静かに受け止める。


「無理よ」


 遮るように言う。


「今の私たちじゃ、あれには届かない」


 即答だった。


 ルシアが顔を上げる。


「やってみなきゃ分からないだろ」


「いいえ、分かるわ」


 ロゼリアの視線は逸れない。


「あれは、“戦える相手”じゃない」


 言い切る。

 それは否定ではない。現実だった。


 エルドが一歩前に出る。


「私も同意見ですな」


「戦力差が明確すぎる。現状で再接敵した場合、生存確率は極めて低い」


「……はっきり言うわね」


 リフルが苦く笑う。


「でも、その通りよ」


 腕を組み、息を吐く。


「悔しいけど、今のまま突っ込んでも“やられるだけ”」


 ユシャーンが、ゆっくりと口を開く。


「フェリオスがこの状態だ」


 視線を落とす。


「……俺たちは、戦えない」


 それは、事実だった。


 沈黙。

 ルシアは、何も言わない。言い返せない。


(……分かってる)


 それでも。


(それでも……!)


 胸の奥で、何かが燻る。

 だが、その火は言葉にならない。


 ストーリアが静かに口を開く。


「……一旦、退きましょう」


「ここで無理をしても、状況は悪くなるだけ」


「今は、生き残ることを優先するべきよ」


 反論は、出なかった。


 ルシアも、ゆっくりと息を吐く。


「……ああ」


 それで決まった。

 “退く”という選択が。


(……情けねぇな)


 心の中でだけ、呟く。

 だが同時に。


(……次は、外さねぇ)


 根拠のない確信が、どこかにあった。


 その時。


 ドクン。


 手の中のスレイヤーが、わずかに脈打つ。


(……またか)


 さっきよりも、はっきりと。

 何かが“動いている”。


「……どうしたの?」


 リフルの声。


「……いや、なんでもない」


 即座に返す。


 言えない。


(これ……俺だけかよ)


 剣の奥で、何かが増えている。

 熱でもない。重さでもない。


 もっと曖昧で。

 それでいて、確実に“変化”している。


 視線が、無意識に流れる。


 フェリオス。

 動かない。その傍らのキラー。


 そして、自分の剣。


(……似てきてる?)


 一瞬よぎる考えを、振り払う。


(バカかよ)


 だが。

 完全には否定できなかった。


 書物庫の静けさは変わらない。

 だが確実に、何かが進んでいる。


 ルシアは、無言で剣を握り直した。


 その手の中で。


 “何か”が、確かに応えた気がした。

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