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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第6章:襲来

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第72話 転移の白、断絶された戦場

それは、本来なら――すべてを焼き払うはずの光だった。


ドラゴンの喉奥で膨れ上がった灼熱が、限界まで収束する。空気が軋み、世界そのものが押し潰されるように歪んでいく。


次の瞬間、放たれる。


すべてを塗り潰す、終焉の閃光が。


「来るわ!! お願い、届いて――!!」


ストーリアの叫びが、戦場を引き裂いた。


逃げ場はない。防ぎきれる規模でもない。


ロゼリアは歯を食いしばり、崩れた体勢のまま無理やり地を踏みしめる。盾を構えようとするが、間に合わないと分かっている。それでも、前に出る。


リフルは奥歯を噛み、拳を握り込む。エルドは詠唱を続けながらも、その声がかすかに揺れていた。ユシャーンたちも、それぞれに“最後”の構えを取る。


ルシアは、ただ剣を握った。


(……くそ……)


何もできない。


何も届かない。


このまま終わるのか――そう思った、その瞬間だった。


光が、白に変わる。


熱が消えた。


音が消えた。


衝撃も、重さも、すべてが――“切り離される”。


まるで世界から弾き出されたような感覚。


視界が真っ白に塗り潰され、意識が一瞬だけ浮遊する。


そして――


静寂。


 


「……え」


最初に声を漏らしたのは、ルシアだった。


背中に伝わる、硬い感触。石の床。


焦げた匂いはない。代わりに、乾いた紙と埃の匂いが鼻をかすめる。


ゆっくりと体を起こす。


そこは、先ほどまでの戦場とはまるで違う場所だった。


高い天井。規則正しく並ぶ書架。古びた装丁の本が、壁のように積み上がっている。音はほとんどなく、空気は異様なほど静まり返っていた。


そのすぐ傍で――


キラーが、かすかに赤く脈打っている。


「……っ」


ロゼリアが、それを見て一瞬だけ顔を歪めた。


だが、何も言わない。言えない。


あの剣が、何をしたのか――全員が、うすうす理解していた。


「……ここ、どこだ」


ルシアがようやく口を開く。


戦いの記憶が、現実感を失って遠のいている。だが、体の奥に残るざわつきだけは消えない。


スレイヤーが、まだ“何か”を求めている。


「みんな!」


声が響いた。


振り向くと、ストーリアがすぐ近くに立っていた。顔にははっきりと疲労が浮かんでいるが、意識ははっきりしている。


その周囲で、仲間たちも次々と起き上がっていく。


「……っ、ここ……」


リフルが周囲を見回し、顔をしかめた。


「静かすぎる……さっきまでとは別の場所みたい……!」


エルドもゆっくりと立ち上がり、壁や床に触れて確かめる。


「建造物の内部……書庫、のようですな」


「ロゼリア!」


ストーリアが駆け寄る。


ロゼリアはゆっくりと体を起こし、短く息を吐いた。


「……生きてる、わね」


その一言に、張り詰めていた空気が、ほんのわずかに緩む。


だが――


すぐに、別の現実が目に入る。


「……フェリオス」


ユシャーンの声が低く落ちた。


視線の先。


床に倒れたままの青年がいる。ぴくりとも動かない。


「おい!」


駆け寄り、肩を揺する。


反応はない。


「……呼吸はある」


エルドが膝をつき、脈を確かめる。


「浅いですが……生きています」


「……そうか。よかった……」


ユシャーンが、わずかに息を吐いた。


だが、その表情はまったく緩んでいない。


 


コツ、コツ、コツ――


静寂の中に、硬い足音が響いた。


「皆さん……平気ですか?」


落ち着いた声が、書架の奥から届く。


「ここは――中央書物庫です」


全員が振り向く。


影の中から現れたのは、一人の女性だった。


「リールー!」


ストーリアが安堵の声を上げる。


リールーは軽く頷いた。


「お守りが発動したんですね。ということは、かなり危機的状況だったんですね。」


「……ギリギリ、助かったってこと」


ロゼリアが低く呟く。


「一呼吸でも遅れていれば、全員灰になっていたわ」


ストーリアが重く答える


その言葉に、誰も返せなかった。


さっきまで、自分たちは確実に“死ぬ側”にいた。


その実感だけが、遅れて重くのしかかる。


「……ドラゴンは」


誰かがぽつりと漏らす。


だが、外の音は何も届かない。


風も、爆音も、咆哮も――何ひとつ。


ただ、不気味なほどの静寂だけがある。


「大丈夫です」


リールーが静かに言った。


「少なくとも、この空間は安全です。ドラゴンは干渉できません」


「……そういう問題じゃなくて、一体……」


ルシアが低く返す。


まだ状況を飲み込めていない。


ストーリアが、息を整えながら説明する。


「ドラゴンが現れた時、リールーがこれを渡してくれたの。強制転移のお守り」


「ええ」


リールーが続ける。


「一度だけ、その場の存在を“なかったことにする”強引な転移です。成功して何よりです」


エルドが感心したように顎に手を当てた。


「……見事ですな。その精度で強制転移のお守りをつくることができるとは」


「すごいじゃない! 本当に助かったわ!」


リフルが素直に礼を言う。


リールーは静かに首を振った。


「いえ。これは使用者の判断と精神力に大きく依存します。ストーリアさんがいたからこそ、成立しました」


「……そうだったのね」


ロゼリアが二人に向かって深く頭を下げる。


「ありがとう」


 


その時だった。


空気が、わずかに変わる。


リールーの視線が、ゆっくりとルシアへ向いた。


じっと。


確かめるように。


「……やっぱり」


小さく呟く。


その目が、ルシアの手元へ落ちる。


スレイヤー。


黒い刀身の奥で、わずかに赤が揺れている。


「その剣……」


一歩、近づく。


迷いなく。


「あなたが――ルシアさん、ですか?」


「ああ……そうだけど」


反射的に答える。


その手の中にある剣は、変わらずそこにある。


だが――


(……重い)


ほんのわずかに。


だが確かに、さっきよりも。


何かが“増えている”。


ルシアは無意識に、柄を握り直した。


(……終わってない)


理由は分からない。


だが、確信だけがある。


これは終わりじゃない。


むしろ――


ここから始まる。


(……なんだよ、これ)


その時。


手の中の剣が、かすかに脈打った気がした。


それに気づいたのは――


ルシア、一人だけだった。

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