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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第6章:襲来

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第69話 跳躍の代償、あるいは勇者の絆

 グレースランド近郊、深い緑に包まれた森。


 だが、その平穏は完全に引き裂かれていた。


 ルシアの背負う『ドラゴンスレイヤー』が発する紅蓮の光は、もはや武器の輝きを超え、ルシアの生命力を削り取る毒のように脈動している。


 森の鳥たちは恐怖に鳴きやみ、木々は異常な熱気に晒されて、青々とした葉を瞬く間に枯らしていった。


「……っ、もう限界だ……! 呼ばれてる……メルディナで、とんでもないことが起きてやがる!」


 ルシアは焼けるような熱を帯びた剣の柄を、血が滲むほど強く握りしめた。


 その瞳には、遠く離れた王都で「何か」と対峙するキラーの残響が、呪いのように映り込んでいる。


「エルド! 俺一人でいい、今すぐ転移魔法で飛ばしてくれ!」


 叫びには、仲間を巻き込みたくないという焦燥が滲んでいた。


「これ以上は待てない。このままだと、俺ごとこの場所が吹き飛ぶ……。俺一人なら、最悪どうなっても構わないんだ!」


【司祭の正論、パーティの定義】


 だが、エルドは動かない。


 眼鏡の奥の穏やかな瞳で、ただ静かにルシアを見つめている。


「ルシア。……あなたにしては、随分と愚かな提案ですね」


「なんだと……!?」


「一人で行く? それで、その剣の暴走を抑え、見えない敵と戦い、生き残って戻ってくると? ……傲慢にも程があります」


 静かに、だが確実に言い切る。


 エルドは杖を掲げた。


 地面に刻まれた幾何学模様が、血のように赤く発光し始める。


「いいですか。誰かが一人で背負うために集まったのではありません。困難を分かち合い、死線を共に超える……それが『パーティ』というものでしょう?」


「エルドの言う通りよ。ルシア」


 ロゼリアが隣に立つ。


 重厚な鎧が、かすかに鳴る。


 肩に置かれた手には、確かな温もりと揺るぎない意志があった。


「あなたが一人で格好つけるのを許すほど、私たちは暇じゃないわ。……地獄の果てまで付き合ってあげるって、前に言ったはずよ」


「そうよ! ルシアだけ特等席で暴れるなんて、不公平じゃない」


 リフルも笑いながら、魔法陣へ足を踏み入れる。


「……みんな」


 ルシアの喉が詰まる。


 己の無力さと、仲間の強さが胸に刺さる。


「準備はいいですね。王都の座標は乱れています……かなり手荒な着地になりますよ!」


 エルドの声が響く。


 魔法陣が脈打つように輝きを増す。


 蒼白の光が広がり、スレイヤーの紅とぶつかり合う。


 白と赤が混じり合い、空間そのものが軋んだ。


「我らを彼の地へと導きたまえ!」


「――空間跳躍テレポート!!」


 瞬間。


 引き剥がされる。


 身体ではない。存在そのものが、どこかへ引き裂かれるような感覚。


「――ッ!!」


 視界が弾ける。


 音が消え、重さが消え、上下の感覚すら曖昧になる。


 世界が歪み、白いノイズがすべてを塗りつぶした。


 そして――


 叩きつけられる。


 重力が戻り、空気が肺に流れ込む。


「……ッ、ぐ……!」


 膝が軋む。


 視界が、一気に開けた。


【再会、あるいは絶望の渦中】


 瞬間。


 熱と臭いが、全身を殴りつけた。


 焦げた石。焼けた空気。

 何かが壊れたまま放置されたような、濁った匂い。


「……ここが……メルディナ……?」


 リフルの声が震える。


 答える者はいない。


 砕けた石畳。抉れた地面。

 半ば消えた建物の残骸。


 そして――空。


 見えない何かが、そこに“ある”。


 圧が、かかっている。


「……っ、まだ終わってない……!」


 ルシアが低く吐き出す。


 その時だった。


 ――ズンッ!!


 大気が叩きつけられたような衝撃。


 遅れて、轟音が来る。


 咆哮に似た振動。


 同時に――


 黒紫の閃光が、前方を切り裂いた。


 何もないはずの空間に、“確かな手応え”だけが残る。


「……何だ、あれ……」


 ロゼリアが呟く。


 視線の先。


 空中に、魔剣が浮かんでいた。


 禍々しく、脈打つように。


 まるで歓喜しているかのように。


 そして、その下。


 一人の青年が、立っている。


 黒紫の魔剣を手に。


 だが――


「……おい」


 ルシアの声が低くなる。


「あいつ……様子が変だ」


 青年の瞳は、何も映していなかった。


 焦点が合っていない。


 ただ、虚空を見つめている。


 まるで“何かに使われている”ような、異様な気配。


 空が、軋む。


 見えない“何か”が、確かにそこにいる。


 戦いは、まだ終わっていない。


 むしろ――ここから始まる。


 ルシアの背で、スレイヤーが強く脈打った。


 応じるように。


 呼び合うように。


 王都の喧騒と破壊の残響が、遅れて一斉に押し寄せる。


 そして、ルシアは理解する。


 ここが戦場の中心であることを。


 自分たちは――


 そのど真ん中に、叩き込まれたのだと。


 物語が、二つの剣を中心に大きく動き出そうとしていた。

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