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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第5章:新たなる火種

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第62話 影の分娩と深淵の滴り

 ギルド酒場。


仲間たちの必死の呼びかけに応じ、椅子に座らされたフェリオスは、ようやく青年らしい落ち着きを取り戻したかに見えた。


ストーリアが安堵の息を漏らそうとした、その瞬間だった。


「……っ、うあ、ああっ!」


突然、フェリオスが短く絶叫し、椅子から崩れ落ちた。


床に仰向けに転がり、全身を激しく痙攣させる。

大きく見開かれた瞳は、天井の一点を見つめたまま、微動だにしない。


そしてその口から、先ほど福引を回していた時と同じ、あの人間のものではない呪詛が、異様な音の連鎖となって垂れ流され始めた。


「‡§¶Δ……θλ……Σ……‡§¶Δ……」


それは世界のバグが軋む音。

地下六層の扉の向こうから響いていた、人の殺戮の思念そのもの。


異言に呼応するように、フェリオスの足元の「影」が、物理法則を無視して壁を這い上がり、天井へと移動する。


それは中央で急速に膨れ上がり、凝縮され、光を一切反射しない「真っ黒な塊」を形成した。


酒場のランタンの灯火が、その影に吸い込まれるように掻き消えていく。


誰もが、声を失った。


ユシャーンが剣を抜く。

ルミナスがティアを背中に隠す。

ストーリアが防御魔法を展開しようとする。


だが、全員の手が止まる。


その圧倒的な「存在」の前に、凍りついていた。


誰も言葉を発せない。

ただ、固燥した喉で、固唾を飲み、天井を見上げるしかなかった。


ドクン。

ドクン……。


酒場全体が脈動している。


天井の暗黒から、重苦しい「音」が響き始める。


そして、その中心から――何かが染み出す。


ゆっくりと。

確かに。

滴り落ちてくる。


床に横たわるフェリオスの、すぐ傍らへと。


それはドス黒く、粘り気を帯びた液体だった。


だが滴りは、落ちるにつれて変質する。


鋭く。

細く。

“形”を持ち始める。


伸びる。


床へ届こうとする。


ドス黒い液体は互いに引き合い、結晶化しながら、みるみるうちに一本の「剣」へと変貌していく。


そこに龍の意匠はない。


ただ、人を、命を、徹底的に効率よく断ち切るためだけに研ぎ澄まされた、無慈悲なまでの鋭利さ。


黒紫の刀身は脈動し、数千、数万の殺意が這い回るようにして、その細長い形状を完成させていく。


それは――異界から産み落とされた「殺戮の意思」。


地下神殿に祀られていたはずの


『DRAGON KILLER』


それが今、天井の暗黒から滴り、青年の傍らに、文字通り“産み落とされた”。


具現化したキラーは、持ち主を求めるように禍々しい輝きを放つ。


床に突き刺さることなく、空中に浮かび、静かに脈動を続けていた。


フェリオスの荒い呼吸。

魔剣の脈動。


それだけが、酒場に響く。


ストーリアは、呼吸することさえ忘れていた。


「……これが、キラーなの⁈」


絞り出すような声。


誰も応じない。


フェリオスは異言を止め、浅い呼吸を繰り返している。

だが瞳は虚空を彷徨い、傍らの“殺戮の意思”を認識している様子はなかった。


沈黙を破ったのは、皮肉にも――


店主が鳴らし続けていた「チリン、チリン」という当選の鐘の余韻だった。


軽やかな音が、魔剣の脈動と干渉する。


キィィィン……。


耳の奥を削るような高音。


「っ……耳が!」


ティアが耳を塞ぎ、うずくまる。


「ストーリア、離れろ! そいつに触るな!」


ユシャーンが叫び、一歩踏み出す。


彼の使い古された鋼鉄の剣が、魔剣の重圧に晒され、目に見えてひび割れ始めていた。


「ダメよ、ユシャーン!

それは武器じゃない……形を持った“呪い”よ!」


ストーリアの警告。


その時――


魔剣が、震えた。


発せられる音は、フェリオスではない。


周囲でもない。


もっと遠くへ。


壁を抜け、街を越え、何かを探すように。


「……共鳴?なのかしら」


ストーリアが呟く。


脳裏に蘇る言葉。


『位置情報の不一致』


フェリオスは持ち主ではない?


ただの“通りパス”。


この世界と深淵を繋ぐ通路にされた?


その瞬間、魔剣が赤黒く発光した。




――同時に。


遠くグレースランドの地。


ルシアの持つスレイヤーが、共鳴の限界を超えた叫びを上げる。


「うわっ……こいつ、熱いぞ!」


森の中で、ルシアが悲鳴を上げる。


スレイヤーは、紅蓮の光を放ち、彼の手を焼こうとしていた。


「ルシア、離しなさい! 制御できていないわ!」


ロゼリアが駆け寄る。


だがその光は鎧を透過し、彼女の魂を直接揺さぶる。


「いや……離れない!

剣が、俺の手を離してくれないんだ!」


二つの場所。


二つの剣。


王都に現れた「殺戮の思念」が、

グレースランドの「理の剣」を見つけ出す。


数百年。


決して交わることのなかった二つの極点が――


今、フェリオスという無垢な青年を媒介にして、


一本の「線」で結ばれようとしていた。

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