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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第5章:新たなる火種

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第59話 帰還の余熱と、剣に残るもの

 一行は、町の外縁まで戻ってきていた。


 焼けた森の匂いも、ここまで来るとほとんど残っていない。

 見慣れた石壁と門が視界に入る。


「……戻ってきたな」


 ルシアが小さく息を吐く。


 その横で、エルドが視線を落とした。


「ルシア殿。その剣……」


 わずかに間を置く。


「裸のままで、よろしいのですかな?」


 言われて、ルシアは自分の手元を見る。


 黒い刀身。隠すものは何もない。


 少しだけ考えて、肩をすくめた。


「どうせ隠したって、顔は見られてるだろ。さっきの連中も分かってて襲ってきたしな」


 軽く剣を持ち直す。


「だったらこのままでいい。……ただまあ、鞘がないのはさすがに不便だな」


 門の向こうを見ながら続ける。


「道具屋のグドーにでも聞いてみるか」


「そうよね!」


 リフルが即座に乗る。


「奪えるもんなら奪ってみなさいってくらいの潔さ、必要よね!」


「いやその理屈はどうなんだよ……」


「いいじゃない、分かりやすくて」


 楽しそうに笑う。


 ロゼリアが静かに口を挟む。


「用心は必要よ。さっきのように、突然仕掛けてくる者もいる」


 視線は剣に向けられている。


「できれば、むき出しのままは避けたいわね」


「……分かってるよ」


 短く返す。


 だが、その声にはわずかな迷いが混じっていた。


「その前に」


 エルドが穏やかに言う。


「報告を済ませておきましょう。あの規模の魔物、証明なしでは惜しいですからな」


「あ、そうだった」


 ルシアは腰の袋を軽く叩く。


 中には、切り落としたワイバーンの角。


 リフルがニヤリと笑う。


「ほらね? 私が言ったでしょ、持って帰るべきだって」


「首持って帰ろうとしてたやつが言うな」


「大は小を兼ねるのよ!」


「限度があるだろ」


 軽口を叩きながら、一行はギルド酒場へ向かった。


 ギルド酒場は、いつも通りの喧騒に満ちていた。


 酒の匂い。笑い声。怒号。


 その中を抜け、カウンターへ向かう。


「えっと、討伐報告はここで?」


 ルシアが角を取り出して置く。


 受付の男が、それを見て眉を上げた。


「……ほう」


 手に取り、重さを確かめる。


 角の根元の焼け跡、切断面。

 じっと観察し、奥へと持っていく。


 短い間。


 戻ってきた男は、明らかに態度を変えていた。


「ワイバーン……間違いないな」


 リフルが胸を張る。


「でしょ?」


「しかも、このサイズ……単独じゃないな。何体いた?」


「一体よ。でも十分でしょ?」


「……ああ、十分すぎる」


 男は苦笑する。


「よく生きて戻ったな」


 ルシアは肩をすくめた。


「まあ、なんというか」


「正式に討伐認定だ。報酬、出るぞ」


 袋がカウンターに置かれる。


 ずしり、と重い音。


 ルシアはそれを持ち上げ、中を覗いた。


「……おい、これ」


「文句あるか?」


「いや……思ったより多い」


「当たり前だ。あのクラスだぞ」


 男が鼻を鳴らす。


「しばらくは困らねえはずだ」


 ルシアは小さく息を吐いた。


「助かる! これで美味いもんも、薬草も、宿にも泊まれる!」


 正直な言葉だった。


 リフルが横から覗き込む。


「いいじゃない! 今日はちょっといいもの食べられるわね!」


「お前の分は出さねえぞ」


「えー!?」


「冗談だ」


「もう!」


 周囲の冒険者がちらりと視線を向ける。


 その中に、ほんの一瞬。


 ルシアの剣に目を留める者がいた。


 だが、すぐに興味を失ったように視線は外れる。


 ギルドを出る。


 日が傾き始めていた。


 そのとき。


 ――黒い刀身の奥が、鈍く脈打った。


「……?」


 ルシアは足を止める。


 だが、何も起きない。


 すぐに静まる。


「どうしたの?」


 ロゼリアが気にする。


「……いや、なんでもない」


 そう答えるしかなかった。


 見慣れた店の前で足を止める。


「お、帰ってきたか」


 道具屋の扉を開けると、声が飛んできた。


「グドー、ちょっといいか?」


「なんだなんだ……って、おい」


 グドーがルシアの手元を見て目を細める。


「……ずいぶん物騒なもん持ってるじゃねえか」


「鞘がなくてな。なんか合うのないかな?」


 グドーはしばらく考え、棚の奥から革製の器具を取り出した。


「鞘は無理だな。形が合わねえ」


 カウンターに置く。


「代わりにこれだ。ホルダーだな」


 ルシアはそれを手に取り、確かめる。


「……悪くないな」


「だろ。特殊なもんほど、こういうので誤魔化すのが一番だ」


「いくら?」


「100でいい。おまけだ」


「助かる!」


 そのまま何気なく続ける。


「そういや聞いたか? メルディナで“キラー”が正式に特賞として出たらしいぞ」


 一瞬。


 ルシアの手が止まる。


「……知ってる。で、帰ってきた」


「で? どうかしたか?」


「別に」


 短く返す。


 グドーは肩をすくめる。


「まあロクな話じゃねえな」


 ちらりと剣を見る。


「……そいつ、変わりねえか?」


 軽い口調。


 だが目は笑っていない。


 ルシアは一瞬だけ間を置く。


「普通の重い剣だよ」


「ならいい」


 それ以上は踏み込まない。


「気をつけろよ。妙なもんは妙なもん呼ぶ」


「……ああ」


 店を出ると、日が傾いていた。


「じゃ、今日はここまでね」


 リフルが伸びをする。


「私はロゼリアお姉さまと帰るわ」


「ええ。ゆっくり休みましょう」


 ロゼリアが頷く。


 エルドも頭を下げる。


「私は教会へ戻ります」


 それぞれが自然に別れていく。


「じゃあな、ルシア!」


「ああ」


 久々に一人になる。


 少しの違和感。


 ルシアは食堂で軽く腹を満たし、そのまま宿へ向かった。


 部屋に入るなり、剣を外して壁に立てかける。


 静かだ。


 ベッドに腰を下ろし、息を吐く。


(……なんだかな)


 疲れとは別の“引っかかり”。


 やがて、眠りに落ちる。


 ふと、目が覚めた。


「……?」


 理由は分からない。


 ただ、体の奥がわずかに熱い。


 視線が、自然と剣へ向く。


 暗闇の中。


 黒かった刀身に――


 わずかに、赤が混じっている。


「……なんだよ、それ」


 答えはない。


 ただ、そこにある。


 まるで――


 何かを終えたかのように。

 あるいは――


 何かを“受け入れた”かのように。


(……気のせい、か)


 そう思うしかない。


 だが。


 その夜。


 違和感は、確かに“形”を持ち始めていた。


 ルシアは、答えのないまま目を閉じる。


 何も知らないまま。


 だが確実に、何かが動き出していた。

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