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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第5章:新たなる火種

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第54話 叡智の迷宮、不一致の座標

 王都の心臓部、膨大な知識が眠る「中央所蔵庫」。


 その最奥にある薄暗い書物庫へ、一行は足を踏み入れた。


 埃の舞う高い天井まで届く書棚が、まるで迷路のように彼らを取り囲む。


 ストーリアは、あらかじめここで待ち構えていたリールーに、すれ違いざま、極めて小さな声で囁いた。


「……フェリオスを連れてきたわ。任せたわよ」


 リールーは短く頷き、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせる。


「さあ、始めましょうか!

 この山積みの古い台帳から、特賞や制度の由来に繋がる記述を探して。

 皆、手伝って!」


 ストーリアの指示で、ルミナスとティアが手近な棚へと散っていく。


「フェリオス君、貴方はそこの高い棚にある、黒い背表紙の束をお願い。

 一冊ずつ、中身を確認してみて」


「了解、ストーリアさん!」


 フェリオスは疑うことなく、指示された場所へ移動した。


 踏み台に登り、高い位置にある書物へと手を伸ばす。


 


【静止したターゲット】


 背を向け、腕を伸ばし――完全に動きを止めたフェリオス。


「(今よ……!)」


 ストーリアが、視線で合図を送る。


 リールーは静かに息を整え、自身の魔力を鑑定眼へと集中させた。


 彼女の特製スコープは、肉眼では捉えられない「世界のバグ」を、わずかにだが視覚化する。


 視界の中で、フェリオスの背中が、青白く透け始めた。


(……おかしい)


 リールーの眉が、わずかに寄る。


(ステータスが……読み取れない?)


 通常なら、「名前」「状態」「属性」――最低限の情報は必ず浮かび上がる。


 だが、そこにあったのは。


 砂嵐のように揺らぐ、無数のノイズだけだった。


 


 ――[ Status Error : Invalid Location ]


 


 リールーの背中に、冷たい汗が伝う。


 それだけではない。


 彼女はスコープから目を離し、今度は肉眼でフェリオスの足元を注視した。


 所蔵庫の窓から差し込む、朝の斜光。


 フェリオスが腕を動かし、本を取り出す。


 その瞬間。


 リールーは、息を呑んだ。


 


 フェリオス本人の腕は、すでに本を掴み、手元へ引き寄せている。


 ――だが。


 床に落ちた彼の「影」だけが。


 数瞬、遅れて。


 まるで粘り気のある泥のように、ゆっくりと。


 一歩遅れて、同じ動作をなぞった。


 


【観測される不一致】


「……リールー?」


 ストーリアが、不安げに小声で呼びかける。


 リールーの鑑定鏡が、小さくパチパチと火花を散らした。


「……ダメですね。読み取れません」


 苦渋に満ちた表情でスコープを下げ、ストーリアの耳元で囁く。


「(フェリオス君が消えているわけではなさそうです。……ですが)」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「(彼の魂の周囲に、あの地下で見た『KILL ERROR』の残滓が、分厚い膜のようにへばりついています)」


「(……膜?)」


「(はい。まるで、古い鎧が持ち主の体を無理やり動かしているような状態です)」


 リールーの声は低く、慎重だった。


「(鑑定の光が、その“バグの塊”に反射してしまって、彼自身の情報に届かないんです)」


 一拍。


「(今の彼は……世界から切り離された“空白の領域”に閉じ込められているように見えます)」


 


 ストーリアは、フェリオスの背中を見つめた。


 高い棚に手を伸ばす、その何気ない動作。


 影は確かに、彼の足元に繋がっている。


 ――だが。


 本を引き抜く、その瞬間。


 ほんのわずかに。


 見えた。


 


 “粘りつくような抵抗”。


 


 筋肉の動きと、それをなぞる影の動きが。


 ほんの一瞬だけ、剥離する。


 噛み合わない歯車のように。


 微かな、不協和音を奏でていた。


 


「(……あの影が、あの子を包んでいるのね)」


 ストーリアが、静かに呟く。


「(ドラゴンキラーという“呪い”の予兆として)」


「(……ええ)」


 リールーは、視線を逸らさずに答える。


「(影が本体を追い越そうとしています)」


 一拍。


「(あるいは……本体が、影に食われ始めている)」


 


 空気が、わずかに冷える。


 


「(このままでは)」


 リールーの声が、かすかに強張る。


「(彼の“自我”が、その残滓に塗り潰されるのも……時間の問題です)」


 


 その時だった。


 


「――あったよ!」


 


 場違いなほど明るい声。


 フェリオスが、満面の笑みで振り返る。


 その手には、一冊の古びた記録。


 『建国初期の恩賞記録』。


 


 だが。


 


 彼がその表紙に触れた、その瞬間。


 


 指先が、ほんの一瞬だけ。


 青黒い結晶のような光を帯び――


 


 バチリ、と。


 


 静電気にも似た、小さな音が弾けた。


 


 誰にも聞こえなかったはずのその音を。


 ストーリアとリールーだけは、確かに「聞いて」しまった。

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