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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第5章:新たなる火種

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第53話 誘いの残響

 朝の光が差し込む宿屋の食堂。

 焼きたてのパンの香りと、少しだけ焦げたベーコンの匂い。

 いつも通りの、ありふれた朝。


 ルミナスとティアが、地下での徒労についてフェリオスと軽口を叩き合っていた。


「結局さー、ほとんど空振りだったじゃない」

「いやいや! あれはあれで、すごかったよ!? 雰囲気とか!」

「雰囲気でお腹は膨れないのよ」

「ティアは現実主義すぎるんだよ……!」


 軽い笑い。

 何も変わっていないように見える、日常の延長。


 ――だが。


 そこへ、リールーとの密談を終えたストーリアとユシャーンが戻ってくる。


 二人はアイコンタクト一つで、心に潜む「ERROR」を完璧に隠し、いつものパーティの顔を作った。

 ほんの一瞬だけ交わされた視線。

 それだけで、互いの理解は十分だった。


 何も言うな。

 何も悟らせるな。


 特に――フェリオスには。


「みんな、ちょうどよかったわ」


 ストーリアが、買い出しから戻ったかのような気軽さで声をかける。


「今からちょっと調べ物したいんだけど……。リールーのところで古い書物をひっくり返すの。量が多くて手伝って欲しいんだけど、ダメかしら?」


 三人は、その声にすぐ振り向いた。


「あ! 来た来た!」

「ストーリアさんの頼みなら、いつだって手伝うよ!」


 フェリオスが、椅子から立ち上がらんばかりの勢いで二つ返事をした。

 まだ何の手柄も、特別な武器も持たない彼は、ただストーリアの役に立ちたいという純粋な想いだけで動いている。


 ――その“空白”が、最も危ういとも知らずに。


 ユシャーンはその横顔を見つめ、ストーリアへ「よくやった」と微かな頷きを送った。

 計画は、問題なく動き出している。


「で、何調べるのさ、急に」


 ルミナスが少し面倒そうに頬杖をつく。

 だがその目は、わずかに興味を帯びていた。


 ティアは逆に身を乗り出す。


「先日、特賞のサムライソードが出た後の事、知ってるわよね?」


「あ、それ……。もしかして、この国の『福引』のこと?」


「そうなの」


 ストーリアは、自然に会話へと滑り込む。


「特賞が選ばれる『基準』を知りたくてね。いつからそんな制度ができたのか……そして、なぜ『今』、伝説の剣であるドラゴンキラーが景品として出されているのか。その歴史的な背景に興味があるのよ」


 一見すれば、ただの知的好奇心。

 だがその実態は――地下六層で見た「選定」の検証。


 日常の仮面を被せた、危険な問い。


 ユシャーンも、何事もないように続ける。


「……ドラゴンキラーか。なぜ伝説の武具が、一介の街の福引器の中に収まっているのか」


 一拍。


「俺も勇者として、その『序列の逆転』には以前から不自然さを感じていた。もちろん同行しよう」


 その言葉は自然で、説得力があった。

 だが彼の手は無意識に――


 体温のないフェリオスが触れたかもしれないテーブルの端を、わずかに避けていた。


「へえ! 特賞の基準か……」


 フェリオスが、目を輝かせる。


「僕、一度でいいから何か当ててみたいと思ってたんだ。どうすれば選ばれるのか分かれば、僕にもチャンスがあるかな?」


 無邪気な願い。

 だがその言葉は、「選ばれる側」の発想そのものだった。


「え、なら私も福引で武器みたいなの欲しいなぁ。そろそろこの杖もヒビが入ってきたし」


 ティアも軽く乗る。


「別に杖は強くなくてもさ、自分の魔力でなんとかなるし!」


「それ、強がりでしょ」


 ルミナスが即座に返す。


「どうせなら良いの当てたいじゃん。楽したいし」


 空気が少しだけ明るくなる。

 軽口。笑い。いつものやり取り。


 だがその中心で――


 フェリオスだけが、ほんのわずかに“前のめり”だった。


 何かを掴もうとするように。

 何かに呼ばれているように。


 ストーリアは、それを見逃さなかった。


(……やはり、誘導されている)


 あまりにも自然に。

 あまりにも抗えない形で。


「じゃあそろそろ、行きましょうか」


 ストーリアが立ち上がる。


「色々とこの世界のことがわかるって、楽しみよね」


 その声音は明るい。

 だが、その内側は冷え切っていた。


 ユシャーンだけは、ずっとフェリオスの影を追いかけていた。


 足元に落ちる“それ”は――

 本来の動きと、わずかにズレている。


 ほんの、コンマ数秒。


 ストーリアもまた、自分の影がフェリオスの足元に重ならないよう、細心の注意を払って歩き出した。


 触れてはいけない。

 重ねてはいけない。


 それが、今の彼に対する唯一の防衛だった。


 一行は、朝の活気に満ちた王都の通りを抜けていく。

 人々の声。商人の呼び込み。子どもの笑い声。


 すべてが、あまりにも平和で――


 だからこそ、異質だった。


 フェリオスの背中には、地下六層で刻まれた目に見えない不気味な烙印が押されていることを、彼はまだ知らない。


 そして。


 その烙印は、確かに――


 次の「選定」へと、彼を導き始めていた。

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