第109話 間合い
二本の剣が、再び交差した。
ガキィィン!!
火花が弾ける。
エレノアが押し込む。
リズベルは一歩退いた。
さらに一歩。
だが、三歩目はなかった。
踵が地面を捉える。
身体が沈む。
押し込まれていた剣を僅かに滑らせ、その力を逃がした。
エレノアの身体が前へ流れる。
その瞬間。
リズベルの剣が返った。
鋭い。
エレノアが咄嗟に身を捻る。
剣先が髪を掠めた。
「……!」
エレノアは距離を取る。
頬に触れる。
傷はない。
だが。
今の一撃で理解した。
この人は。
ただキラーを扱えるだけではない。
剣そのものが鋭い。
エレノアの表情から、僅かな笑みが消えた。
代わりに。
剣士の顔になる。
「……なるほど」
リズベルは答えない。
ただ剣を構えている。
先ほどまで残っていたキラーの余韻が、まだ身体の奥にある。
怒りを引き出そうとする感覚。
胸の奥をざわつかせる、不快な熱。
それでも。
今、握っているのはキラーではない。
普通の剣だ。
この剣は何も求めない。
何も囁かない。
ただ、自分の意思に従う。
リズベルは静かに息を吐いた。
その瞬間。
エレノアが踏み込んだ。
速い。
――一撃。
リズベルが受ける。
――二撃。
剣を滑らせ、受け流す。
――三撃。
身体を捻って躱す。
そして。
リズベルの剣が返る。
ガキンッ!
エレノアが受ける。
ガィン!
鋼が再びぶつかる。
足元の砂が舞う。
二人の間に、一瞬たりとも完全な静寂は訪れない。
エレノアが踏み込む。
リズベルが迎え撃つ。
剣が噛み合う。
互いの顔が、ほんの数十センチの距離まで近づいた。
エレノアの瞳が、リズベルを捉える。
素顔。
仮面はもうない。
その青い瞳には、先ほどまでの迷いが僅かに残っていた。
だが。
剣だけは迷っていない。
「……あなた」
エレノアが、剣を押し返しながら呟く。
「本当に不思議な人ね」
「……何がだ」
「キラーをあれほど求めていたのに」
一瞬。
リズベルの動きが止まった。
エレノアは、その一瞬を逃さない。
身体を捻る。
剣を返す。
――斬り込む。
リズベルが咄嗟に受けた。
ガキィン!!
衝撃で二人の身体が離れる。
「今は、キラーを見ていない」
エレノアの言葉が響く。
リズベルは答えない。
ただ。
背後にあるドラゴンキラーへ、ほんの一瞬だけ視線を向けた。
そこには。
黒い剣がある。
自分がここまで追い求めてきた剣。
それなのに。
今、握っている普通の剣の方が。
妙に馴染んでいた。
リズベルは視線を戻す。
「……今は」
短く呟く。
「お前を見ている」
エレノアの瞳が見開かれた。
次の瞬間。
二人が同時に踏み込んだ。
――速い。
ガキィィィン!!
真正面からぶつかる。
剣が震える。
腕が軋む。
互いに一歩も引かない。
エレノアが押す。
リズベルが押し返す。
エレノアがさらに力を込める。
リズベルも負けじと押し返す。
その力は、またしても拮抗していた。
だが。
今度は誰も退かなかった。
どちらも分かっている。
ここから先。
ただの一撃が。
勝敗を決める。
エレノアが僅かに重心を落とす。
リズベルの瞳が細くなる。
互いに。
相手が動く瞬間を待っている。
――静寂。
そして。
エレノアの足が動いた。
同時に。
リズベルも動いた。
踏み込む。
さらに一歩。
二人の身体が、一気に距離を詰める。
二本の剣が。
互いの命運を決めるように。
一直線に交差した。




