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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者
第7章:選定の儀

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第107話 対話

 しばらく、誰も動かなかった。


 地面に深々と突き刺さったドラゴンキラー。


 その前に立つリズベル。


 そして、静かに大剣を下ろしたジークレッド。


 闘技場を包む空気は、先ほどまでとはまるで違っていた。


 戦いは終わった。


 だが。


 誰も、勝敗について口にしようとはしなかった。


 ジークレッドが、ゆっくりと大剣を肩へ戻す。


「……そこまでだ」


 低く、よく通る声が響く。


「試技を終了する」


 リズベルが顔を上げた。


 その視線は、地面に突き刺さったキラーへ向けられる。


 しばらく沈黙したあと。


「……いいのか」


 初めて、リズベルから問いが返った。


 ジークレッドは頷く。


「ああ」


 それ以上、余計なことは言わない。


「今日の試技としては、十分だ」


 リズベルは黙っていた。


 やがて、小さく息を吐く。


「……そうか」


 それだけを残し、視線を伏せた。


 その姿を確認してから、ジークレッドは観客席へ目を向ける。


「では、次の試技へ移る」


 係員が声を張る。


「次――ロゼリア・ウォーハート!」


 その名が闘技場へ響き渡った。


 観客席がざわめく。


 当然だった。


 先ほど、ドラゴンキラーに触れた女。


 その名を知らぬ者は、この場にはほとんどいない。


 ロゼリアは静かに立ち上がった。


 そして。


 闘技場へ続く階段へ、一歩。


 さらに一歩。


 歩みを進める。


 だが。


 中央へ近づくほど、その視線は自然とリズベルへ向いていった。


 黒い仮面。


 その下に隠された表情。


 そして。


 その足元に突き刺さったドラゴンキラー。


 ロゼリアの足が止まった。


 あの剣を握った時の感覚が、蘇る。


 耳元で囁かれた声。


 流れ込んできた記憶。


 そして――。


 自分を求めるような、あの感覚。


 だが。


 今、目の前にいるリズベルは違う。


 キラーと向き合い。


 その力に呑まれかけながらも。


 最後には、自分自身の意思で抗った。


 ロゼリアは静かに目を細める。


(……私が出る必要はない)


 そう思った。


 それは諦めではなかった。


 ましてや、恐れでもない。


 ただ。


 今この場所で、自分がキラーを手にする意味がない。


 ロゼリアは、ゆっくりと踵を返した。


「……?」


 係員が戸惑う。


 観客席にも、ざわめきが広がった。


 ロゼリアはジークレッドへ向き直る。


「申し訳ありません」


 静かな声だった。


「私は……辞退させていただきます」


 一瞬。


 闘技場が静まり返った。


 ルシアも、思わず立ち上がりかける。


「ロゼリアさん……」


 彼女は振り返った。


「いいんですか?」


 ロゼリアは小さく微笑む。


「ええ」


 そして。


 腰へ手を添える。


 そこにある剣。


 オリヴィアの柄を、そっと握った。


「私は、あの剣に触れた」


 視線だけをリズベルへ向ける。


「だからこそ、分かるの」


 ロゼリアは静かに続けた。


「あの剣を、ずっと帯刀することは考えられないわ」


 オリヴィアの柄を握る手に、僅かに力が込もる。


「私には、この剣があるもの」


 その言葉に。


 ルシアはオリヴィアへ目を向けた。


 長い年月。


 ロゼリアと共に歩いてきた剣。


 それは単なる武器ではない。


 ロゼリアが選び続けてきたものなのだ。


「だから……」


 ロゼリアは再びリズベルを見る。


「今は、あの人の邪魔をするべきではないと思うの」


 その言葉に。


 エクレールが僅かに目を細めた。


「……なるほどね」


 闘技場脇から、二人を見つめる。


「リズベルも面白いけれど……」


 そして、ロゼリアへ視線を移す。


「あなたも、なかなか面白いわ」


 勝ち負けではない。


 剣を手にすることだけが、強さでもない。


 二人はそれぞれ、自分自身で選択した。


 少し離れた場所では、ダーレンが腕を組んでいた。


「……だろうな」


 短く呟く。


「賢明だ」


 それ以上は語らない。


 キラーを帯び続ける危うさを、彼は十分に理解している。


 ストーリアは、まだリズベルから目を離していなかった。


「……あの子」


 小さく呟く。


「キラーに……何かしらの因縁があるのかしら」


 先ほど感じた違和感。


 何かと戦っているような動き。


 それが、ただの錯覚には思えなかった。


 リールーは、ほっとしたように胸へ手を添えた。


「ロゼリアさん……」


 小さく息を吐く。


「少し安心しました」


 キラーを握った時の彼女のことを聞いていたからこそ。


 無理に手に取ることを選ばなかったことが、嬉しかった。


 その隣。


 エルドは、しばらく考え込んでいた。


「……今のを見る限り」


 やがて静かに口を開く。


「その判断は、いいかもしれん」


 視線は、ロゼリアの腰にあるオリヴィアへ。


「スレイヤーとキラーが揃うのは……」


 僅かに眉を寄せる。


「少しばかり厄介かもしれん」


 ルシアは、その言葉にほんの僅かに反応した。


 だが。


「さすがお姉様!」


 突然、リフルの声が響いた。


「辞退なんて、カッコよすぎるわ!」


 目を輝かせながらロゼリアを見つめている。


「私もやってみたいわね!」


「……何を?」


 リールーが思わず尋ねる。


「もちろん、お姉様みたいに!」


「……」


 エルドが額を押さえた。


 ロゼリアは苦笑する。


「リフル。あなたはもう少し考えてから話した方がいいわ」


「はい、お姉様!」


 元気よく返事をする。


 重く張り詰めていた空気が、ほんの少しだけ和らいだ。


 その様子を見ながら。


 ルシアは静かにロゼリアを見つめていた。


 彼女はもう、キラーを見ていない。


 その手は。


 オリヴィアの柄を握っている。


(……ロゼリアさんは、決めたんだ)


 キラーを拒絶したわけではない。


 ただ。


 自分には、自分の剣がある。


 それだけなのだ。


 ルシアは、そっと腰へ手を添えた。


 ドラゴンスレイヤー。


 先ほどまで、あれほど激しく震えていた刀身が――。


 今は。


 ほんの僅かに。


 静かになっていた。


「……?」


 ルシアは首を傾ける。


(スレイヤー……少し、静かになった?)


 気のせいかもしれない。


 けれど。


 まるで。


 何かを見届けたかのように。


 ドラゴンスレイヤーは、静かにそこにあった。


 闘技場の中央。


 地面に突き刺さったドラゴンキラー。


 その傍らに立つリズベル。


 そして。


 自らの剣を握るロゼリア。


 二人の剣士を見つめながら。


 ルシアは、しばらく言葉を失っていた。

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