二匹目▶助手の黒歴史
猫谷サイキック調査。
ここは世のありとあらゆる不思議を求めたい所長ネスコ先生が、暇つぶしで作った単なる趣味の調査機関である。
「ねえねえユニくん、黒歴史って世間でよく口にするよね」
梅雨の湿気が気になるのか、何度も手を舐めては顔を洗っているネスコ先生は、頭のデカイ二頭身のシャム猫だ。
助手ユニは黒歴史について秒で考えをまとめた。
「面白そうな話なんて、たいてい大したことないものですよね。本人の恥みたいなもんですし。ところで依頼の街中に出没するケサランパサラン、解決して良かったですね」
なにかおかしな調査を考えついた気配がする。ユニは話題をすり替えた。ケサランパサランの正体は街中でツチノコを探すコイツのしっぽだった。
猫谷サイキック調査局(NSR)は依頼を解決するような場所ではないが、時折舞い込んできてしまう。
都度断ろうとするユニだが、目が金印になっているようなネスコ先生の情熱を止めることができず、必死に解決するのだ。90%ユニが。
もう毎度黒歴史なんじゃないか。しばし目を閉じゆっくりと開いたユニの前で、ネスコ先生は耳の裏を洗っていた。
「そういえばさ、ユニコーンってまだ見付かりそうにない?」
「F県で名物らしいですけど、あれは普通の馬刺しでした」
「そっかぁ」
ユニコーン。
高校生のあの日、ユニは未知への憧れから無茶をした。そして出会ってしまったのだ。
極寒のシベリアで。
***
子供の頃からオカルトが大好きなユニは、高校生の頃、意を決して冬のロシアへ飛んだ。
現地の親切な方々の忠告は耳に入らなかった。ただただ純粋に出会いたかったのだ。
雪の娘と呼ばれる、スネグーラチカ。その正体は妖精とも幽霊とも言われているが、あまりに美しい姿につい追いかけてしまい遭難する人々が多数とか。
「遭難者が出るなら、日本の雪女よりきっと出会える確率が高い」
若気の至りであった。そこそこの防備で臨んだ極寒のシベリア。吹き付ける白い雪が方角を狂わせる。
どんなに歩いたのだろう。ユニはその場で力尽きた。
「大丈夫?」
朦朧とする意識の中、愛らしい少女の声が聞こえた。
気が付くとサクッサクッと雪を踏みしめる音がした。ぼんやりとしながらも、誰かの背に揺られている。
「気をしっかり持ちなよ。ユニコーンはもう少しだよ」
ユニコーン?聞き間違いだろう。
それにしても、このモフっとした感覚。温かい。
(美女って毛深かったんだなぁ)
正常な判断力を失ったユニは、スネグーラチカが助けてくれたのだと思い込んでいた。これから彼女と共に雪の中で暮らすのだろう。自分も遭難者のひとりとして。
「はあ、ここならユニコーンに会えると思ったのに。お腹空いたし休憩でもしよっかな」
その声を最後に、ユニはまどろみながら幸福な眠りについた。
パチンと木が燃え弾けるような音でユニは目を覚ます。雪山とは思えない暖かさにホッとしたが……。
「イエティ?!」
自分を覗き込んでいる白い毛むくじゃらの物体。
飛び起きると、毛むくじゃらに頭がぶつかった。意外と痛い。
「助けたのに酷くない?」
少女の声が毛もじゃから発せられた。
「でもイエティもいいよね。私はユニコーンを探したいんだ。君も手伝うよね。助けてあげたんだし」
額を擦りながらよく見てみると、探していたスネグーラチカとは到底思えない、服を着た二頭身の白猫。なんだこのUMAは。なんの資料でも見たことがない。
ユニは回り始めた頭でガン見した。
「うん、その目から熱意を感じたよ。そんなにユニコーンに会いたかったんだね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。ユニコーンって?あ、助けてくれたのにお礼も……」
「君の名前はユニね。お互いがんばろう!」
結局ユニコーンは見つからなかった。
ネスコ先生と名乗るデカ頭の猫が、何度も雪中で行方不明になりかける内に、出発地の町へ辿り着いたからだ。
「ユニコーンなんていないよ」
町の人の一言が決定的だった。
びゅうびゅうと吹き付ける風が、勝手に名付けられたユニに虚しさを残した。
UMA猫は耳の後ろを丹念に洗う。そういえば猫が耳の後ろを洗うと雨だった。外はブリザードだが。
***
「黒歴史かぁ」
遠くを見る目で出会いに思いを馳せるユニ。
目の前で、ネスコ先生は耳の後ろを丹念に手入れしていた。今日は雨が降るだろう。
「ねえねえ、今日ならユニコーン見つかるよ!」
「根拠のない自信は顔だけにしてください」
「君はいちいち失礼だな。じゃあ行こう!」
「まてよ!バカ猫!」
そして豪雨のネオン街を駆け巡り、ひとりと一匹はずぶ濡れになるのであった。
「ユニコーンだ!」
「はいはい、看板ですね」
~完~




