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覇王の余生は不労所得スローライフ  作者: 井上幸将


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第五話 金髪聖女の極秘治療と、一兆円事業の種銭調達

質屋で拳大の金塊を換金し、まとまった軍資金を手に入れたボス――ジンは、胸元に『他力本願』と書かれた長袖Tシャツのままベッドにひっくり返り、ペットボトルのミルクティーをコクコクと飲んでいた。


「……なぁ、バルト。この金を元手に、将来的に一兆円規模のAIや仮想通貨事業、独自の配信サイト『ネスト・ライブ(Nest Live)』を立ち上げたいんだが、表向きの社会的な資金源(言い訳)が足りないよな」


ジンの言葉に、高級なウイスキーのボトルを磨いていた参謀バルトが、深く頷いた。


「左様にございます、若。いくらアイリスが裏でシステムを一から構築しようとも、表社会の権力者たちを納得させる『生々しい巨額の初期投資金』と、公式な拠点が必要不可欠。……ならば、まずは2人目の最高幹部を呼び出しましょう」


ジンがベッドの上から指先を一振りすると、実家の狭い自室の床に、純白の神聖な魔法陣が展開した。まばゆい光の中から現れたのは、気品あふれる金髪の、息を呑むほどに美しい絶世の美女。異世界でジンに命を救われ、現世まで自力で追いかけてきた元・聖女、エレナである。


「――あぁ、ジン……! やっと、本当にお側に……!」


エレナは感動のあまり潤んだ目で胸元を抑え、そのままベッドの上のジンの元へトトトッと駆け寄ると、躊躇いなく自分の膝をジンの頭の下へと滑り込ませた。完璧な、膝枕のフォーメーションである。


「お、エレナ。相変わらず可愛いな。……早速で悪いが、この地球の『現代医療じゃ手遅れの金持ち』を、お前の回復魔法ヒールで極秘で完治させて、種銭を稼いでほしいんだ」


「ジンの命令なら、ボスのためなら何でもいたします!」


バルトの驚異的な政財界の裏ルートにより、翌日、実家の客間に一人の「日本の超大物資産家の男」が、難病に冒されて余命いくばくもない愛娘の少女を抱きかかえ、極秘裏に連れてこられた。しかし、エレナが魔法を唱える前に、バルトが冷徹なビジネススマイルで一枚の書類を差し出した。


「もし、お嬢様の病が綺麗さっぱり治ったならば、我々がこれから始める海外の最先端IT事業へ、出資金として出せる最大の金額の50%を記入してもらえますかな? それと、今この場で起きた事は誰にも言わないように、その誓約書にサインしていただけますな?」


「あ、あぁ……! 娘が治るなら何でもする! 資産の半分でも何でも書く、約束は絶対に守るから頼む、助けてくれ……!」


男が震える手で金額を書き込み、誓約書にサインしたのを確認し、白衣を着たエレナが少女の前に立ち、そっと手をかざした。


「――神の慈悲を。キュア、あるいはヒール」


エレナの指先から、地球の科学では絶対に不可能な、神聖な黄金の魔力光が放たれ、少女の全身を包み込む。その瞬間、少女の顔に劇的な血色が戻った。蝕んでいた細胞が消滅し、少女は「……お父さん、体が痛くないよ……!」と、自らの足でしっかりと立ち上がった。現代医療を過去のものにする本物の奇跡だった。


「お、本当に治った……! ありがとうございます! 命の恩人だ……!」


男は涙を流して号泣し、誓約書通りに莫大な現金をバルトの海外法人口座へ即座に振り込んだ。治ってから「たまたま治った」などと変な言い訳をさせないための、事前の外堀埋めと口封じは完璧だった。その後も、この条件を飲む約束を守る超大物だけを数件極秘でこなし、ジンの口座には国税庁すら文句の言えない、グレーな【数億円の現金(種銭)】が確実に積み上がった。


「よしアイリス、バルト。この資金を使って、表向きの会社とIT事業の基盤を爆速でなんとかしろ。あまり急に海外に拠点を作ると、目立つからな」


ジンの言葉に、押し入れのアイリスがノートPCを叩きながら、無表情のままドヤ顔で画面をこちらに向けた。


「……了解、マスター。データセンターは、国内外の巨大IT企業が集まる災害に最強の聖地――千葉県『印西市』の大型データセンターを、バルトが引いてきた大手の強力なコネクションを利用して共同レンタル契約。……これにより、当機アイリスの『異世界の隔離空間(魔導サーバー)』をネットの海に合法的に偽装・直結させました」

「印西を共同で借りられたのはデカいな。……バルト、本社のほうはどうなった?」


ジンがのんびりミルクティーを飲むと、バルトが優雅に微笑んだ。


「若、東京の一等地である『東京都港区』にて、売りに出されていた3階建ての小ぶりな建物を、手に入れた資金から3億円という破格の安さで丸ごと一棟、一括で購入いたしました。公式CEOのキャサリンたちを表の役員に据え、ここを我が社の公式な本社ビルといたします。安上がりですが、これで見栄えも法律上も、非の打ち所がない港区の優良ITベンチャー企業にしか見えません」


「ふは、港区の本社ビルに、印西のデータセンターか。安上がりで怪しさゼロ、完璧だな」

「……当然です。マスター、当機への適切な報酬アイスクリームのあーんを要求します」

ジンがアイスをスプーンですくってアイリスの口に放り込むと、彼女は「……んむ」と頬を赤くして頭からプシューと蒸気を出す。その横では、フリフリ衣装のアリスが直立不動で一礼していた。


「よし、じゃあバルト。さっそくその港区のビルへ引っ越す手続きを進めてくれ。2階にエレナの治療院も開くからな」

「畏まりました、若。これより最高の城へ、皆様をご案内いたしましょう」


こうして、かつて世界を統一したボスの、一歩も動かない超効率的ニート生活は、エレナの奇跡の治療によって数億円の資金と、印西・港区という最強のリアル拠点を完全に掌握し、いよいよ自分たちの城である『新拠点(港区の3階建てビル)』への引っ越しを果たすのだった。

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