第三話 元覇王、本物の免許証を持って車で質屋へ行く
「仁ーーーッ!! またお昼近くまでゴロゴロして! 早く起き出してリビングの掃除くらい手伝いなさい!」
ドンドンドン、と乱暴に自室のドアが叩かれ、働く美人OLである姉の葵の怒声が響き渡る。
しかし、ベッドの上のジンは『自宅警備』と書かれた長袖Tシャツのまま寝返りを打ち、パックのコーヒー牛乳をストローでちゅーちゅーと吸った。
「……今日の姉ちゃんは朝から元気だな。だが、前の世界で国のために働き続けてきた俺が、今さらそんな理由で動くわけないだろ」
当然、起き上がる気配はゼロである。
異世界では何百年もトップとして君臨したが、地球での経過時間はまさかのゼロ。
失踪すらしておらず、いつも通りの気だるい朝だった。高校卒業前から、18歳を越えてすぐに取得した本物の自動車運転免許証も、財布の中にしっかりと入っている。
成人した今のジンにとって、たまにベランダで吸うタバコやキンキンに冷えたビール、そして甘いコーヒー牛乳が至高の不労所得ライフの相棒だった。
「いずれはオフクロの車を借りるだけじゃなくて、自分用の車も買いたいしな。まずはまとまった種銭を作るか」
ジンが前世の宝物庫から空間魔法でポイッと取り出したのは、ずっしりとした金属の塊。ジンの拳くらいの大きさがある、純金のインゴットだ。
「ガルウ、ちょっと付き合え。オフクロの車を借りて、街の『質屋』って店に行くぞ」
部屋の影から、スウェット姿のガルウが姿を現した。
「ボス! 地球の『くるま』の運転、このガルウにお任せください!」
今回はガルウの社会見学も兼ねている。ジンは助手席に乗り込み、運転席のガルウにスマホのナビを見せた。人狼の驚異的な空間把握能力により、ガルウは初めての軽自動車を見て驚いていたが、ジンから説明を聞くと初めてとは思えないほど完璧にコントロールして街へと走らせる。
向かったのは、駅裏の路地にある古びた質屋だ。ジンはジーパンにビーチサンダル姿のまま店に入った。カウンターの奥から、白髪混じりの偏屈そうな店主がルーペを片目に挟んだまま、不機嫌そうにジンたちを睨みつけてきた。
「……いらっしゃい。うちは冷やかしはお断りだよ。特に、そんなヨレヨレのTシャツを着たお兄ちゃんが売れるようなもんは、ここには無いと思うがね」
店主はジンの胸元の『自宅警備』という文字を見て、鼻で笑う。ジンは気にした風でもなく、ポケットから拳大の金の塊をカウンターへ無造作に放り投げた。ドスン、と鈍い重低音が響く。
「これ、いくらになる?」
「……あん? なんだいこれは。冗談なら――」
店主が怪訝そうにその塊を手に取った瞬間、その顔から余裕が消えた。独特の、肌に吸い付くような冷たい重量感。それは紛れもない、本物の純金だった。店主は冷や汗を流しながら鑑定を始める。しかし、時間が経つにつれて、店主の手がガタガタと震え始めた。
「な、なんだこれは……!? 刻印はないが、メッキではないし、重さも偽物とは思えないし、これは見たこともない金だ……!! これだけの大きさなら、現在の相場で……き、3000万円にはなるぞ……!!」
店主は顔面を真っ青にしながら、ジンを凝視した。
「お、お兄ちゃん……いや、お客さん、あんた一体何者なんだ……!? うちの店の現金を全部かき集めても足りないよ!」
「あるだけでいいよ。その場で現金でもらえるなら、全部それで」
ジンがのんびりとあくびをしながら言うと、店主は慌てて奥の金庫へ走り、店にある現金を限界までかき集めてきた。
「申し訳ない! 今、店にある現札がちょうど1500万円だ! 残りは明日口座振込か、明日また取りに来てくれれば現金で渡せるが……! あと、この額になると身分証の提示が必要なんだ!」
「あ、じゃあこれで。残りの1500万は明日また取りに来るわ」
ジンはポケットから、本物の『自動車運転免許証』を取り出してカウンターに置いた。店主は厳重にチェックするが、当然100%本物の証明書だ。一切の怪しさなしで取引が成立した。
「確かに。免許証みせてもらったよ! 1500万円、お受け取って気を付けて帰ってくださいね!」
店主がガタガタと震えながら見送る中、ジンはビーチサンダルをペタペタと鳴らし、悠然と店を後にした。
実家の自室に戻り、ベッドの上にひっくり返るジン。机の上には、種銭としては十分すぎる1500万円の生々しい現札が鎮座している。
「よし、これで第一段階クリアだ。……さて、この1500万を元手に、次はアイリスとコタロウとバルトを起こして計画的にコツコツと増やすとするか」
ジンは冷たいコーヒー牛乳を喉に流し込み、ニヤリと笑った。かつて世界を統一した覇王の、一歩も動かない超効率的ニート生活のための軍資金は、こうして完全に合法な形で手に入ったのだった。
書きながら方向転換した所もあるので、ズレてる個所とかあれば教えてください。




