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15:ボーイフレンド

ホロルニスのお姉様達に質問です。

Mを恋人にするのは有りですか、無しですか。


「ナイなー」

「やだね」

「無理」



見目麗しい美女達も今は緩い部屋着姿。

袋を背面から開いて広げられたスナック菓子に、テレビでは流行りのドラマ。

寮のリビングは今日も平和で賑やかなものである。

皆それぞれ好きに過ごしていたものの、鈴(すず)からの質問で心が一つになった。

こうして始まるガールズトーク。


それでは理由も一緒にお答え下さい。


「女王様もM女も結局は職業の一つだし、店の外まで無料でやらせんなって思うわー」

「プライベートまでSMやるのってねぇ、そりゃうまく趣味が噛み合って共依存になれば良いけどさ」

「あたしゃ自分の男にはサービスのSで居てほしい」


なるほど納得、それもそうか。

水商売といえば売り上げや指名の取り合いなどで女の戦いを想像するところ。

ホロルニスでも互いにライバル意識くらいはあるだろうが、一方で客に対しては。


「うちの常連客はエグい趣味持ってる変態だらけだし、どんだけ美形でも金持ちでもあんま羨ましくない。むしろ指名もらってるキャストは大変そうだなって同情する」


ホロルニスは初心者歓迎なので、確かにちょっとした好奇心やライト層の客も多い。

問題は目覚めてしまった客である。

Mから崇拝されるということは時に重苦しく、受け止めるSは広い心が必要。


「そーいや昨日さー"初めてベッドを共にする時、Sって明かしてボンデージで登場したらフラれて帰られちゃった"とか愚痴ってた客が居たねー」

「客だから言えなかったけど"バッカじゃないの?"って頭はたきたかったよ」

「いきなり変態趣味全開で来られたら誰でも怖ぇわ。まず初歩の初歩から適性見ながら開発しろや、それでもSか」


素顔を晒す寮なのでつい口も悪くなりがち。

ただ女王様としては、これらの言い分も鈴には分かる。

言葉を噛み砕いて飲み下して、感慨深く頷く。


「ん、それにMって種類ありますしね」


人それぞれ違う欲望の形、ここからどんな責め方が好きなのか細分化していくので非常に複雑。

これだけ違うのだから単純にSとMの組み合わせだとしてもうまく行くとは限らない。

相性抜群なSMのパートナーと恋人を両立できるかといえば、なかなか難しいもの。

それこそ小指同士が赤い糸で結ばれた運命の人に出逢うかのような確率だろう。


加えて、女王様とはMに選ばれる立場。

春告(はるつぐ)も言っていたが、崇拝者から冷められて関係が終わることもよくある話。



「ところでマリ様はどうすんの、あの……グッドルッキングガイを」

「ああ、ユキちゃんのことですか」


誰のことかはそれだけで明白。

鈴は最近飼い始めたペットの名を口にした。


ちなみに「イケメン」という言葉は九〇年代半ばのゲイ雑誌が発祥。

既に存在はしていたが、まだあまり広がってない。

この頃は某元祖セレブタレント姉妹が人気を博す時代、美形を表す言葉として「グッドルッキングガイ」も含む。

勿論、そう呼んだお姉様の方もおふざけではあるが。


鈴から愛を求め、独占欲が強い雪雉(ゆきじ)はペットとして飼われることで安定したタイプ。

昔からの幼馴染や兄妹のような関係を反転させて、倒錯的な興奮も。


犬を飼う前から主に必要な心構えとは幾つもある。

トイレや避妊や下半身の問題、名前を覚えさせること、噛み癖と無駄吠えなど。

そう、何より命の責任を持つのは犬ならばの話。


「ペットなら死ぬまで飼うものだけど、男ならどうなんかね。開発するだけしといて捨てんなよ?一度飼われたMが野良になるのは辛いんだから」


お姉様の忠告は先輩としての重みを伴っていた。

人間の場合いつまで飼うかは、さてどうなるやら。

そこを突かれると鈴も苦い溜息。


いつまで女王様でいられるか、或いは雪雉の方から飽きて冷めてしまうか。

まだ始めたばかりだというのに、もし終わった後のことを考えるのは気が重いもの。

気楽に「ケセラセラ」の一言では流せない。



「というか、こないだ客にプロポーズされたなんてマリ様が言ってたから……あたし、てっきり"コウさん"のことかと」


日頃あまり物事に動じない鈴が珍しく重く唸った。

不意に飛び出た名前で、瞬間的に腹へ一撃喰らった錯覚。

流石ホロルニスのお姉様、容赦が無いサディストぶりだこと。


「あー、確かにあの人は"ビンタで起こして下さい"とか言いそー」

「ていうかさ、もうそろそろバーに来る頃じゃない?白雪さんと鉢合わせしたらマズいかもねぇ」


他人事なら心配半分、面白半分。

いずれ嵐になり得る不穏の種。


「いえ……私、コウさんは飼ってないですよ……」


とりあえず、それだけ返してから鈴は悩むことにした。

気まぐれな問題児の来訪はただ待つしかできず。



奴隷になるとは、女王様に所有してもらうこと。

しかし女王様の方は独占できない。

崇拝者が数多く居るとしても、他の奴隷達を持っているとしても、嫉妬で胸を痛めるしかできず。

若しくは、それ自体が遊戯の一つになり得ることもある。


とはいえ鈴も多頭飼いするつもりは無いが。

常連客と奴隷の間は深く、女王様なら堂々と構えているべきか。


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