第六十六話「引きつけて、突いて、引き継いでって話」
「アトラクト!」
グリーヴァが、目の前のゴーレムのヘイトをスキルで自分に向ける。
「良し! そのまま引きつけてろ!」
俺とブライトは、デスサイズを携えゴーレムの後ろに回り込む。
「グリーヴァさん! リンク圏内だ、3マス引いて欲しいぜぇ!」
標的のゴーレムの後ろ、つまり俺たち側の近くにもう一体のゴーレムがいる。
このままだとリンクするので、距離の調整をブライトが申請したのだ。
「了解!」
詳しく説明しなくても、即座に対応するグリーヴァ。
今日、すでに何度も戦っているだけあって、連携がうまく行っている。
「ほら突け!」
「くぅ。地味に腕が疲れるぜぇ」
今俺達デスサイズで突いているのは、スチールゴーレム。
石、銅、鉄の更に上、鋼鉄のゴーレムだ。
それを、つついている。
つつくが我らの基本戦術よ。
「よし、即死が効いたな」
二人で合計何回つついたかは知らんが、割と早くスチールゴーレムは光となって消える。
……残念。
通常ドロップの鋼鉄だ。
レアドロップの玉鋼だったら、刀が作れたのに。
まぁ、そんなに簡単に出ないからレアドロップなんだけどね。
「……おい。普通に攻撃した方が早いんじゃねぇか?」
鋼鉄を拾ってると、後ろからグリーヴァの不満の声が上がる。
「言ったろ? 今の俺たちじゃ、一桁くらいのダメージしか与えられないって」
グリーヴァは防御力は比類ないが、攻撃力はレベル相応だ。
ブライトとロトンドも言わずもがな、俺に至っては多分レベル99でもダメージが通らない気がする。
「だけど、時間がかかりすぎだろうが」
「しょうがないだろ、本当は魔法で倒す敵なんだから」
だから、デスサイズの即死攻撃で防御無視で倒しているのだ。
「チッ」
防御してるだけのグリーヴァ君は、攻撃できずにご不満の様子。
でも、攻撃するくらいなら、その分をスキルに回して欲しいからね。
仕方ないね。
「まぁ、まぁ。地道にやっていこうぜぇ。千里の道も一歩からって言うからよぉ」
仲裁にブライトが入ってくれるが、千里の道って万里の長城のことじゃなかったっけ?
恐るべしブライト、異世界の知識にも通じているとは。
開発陣が日本人じゃなきゃ、そう思っちゃったところだね。
「ブロック積めたんでさぁ」
「ああ、ありがとう」
ロトンドには今まで来た道に、人が二人通れる隙間の空いたブロックの壁を立ててもらっていた。
所謂湧き潰し、後方の封鎖だ。
左右は崖になっていて一方通行になっている。
後ろから挟み撃ちにされたら、みんなはともかく俺が即死してしまう。
故に慎重にご安全に進行中です。
「でさぁ」
「よし次だ」
ブロックが積めたなら、次のゴーレムを狩るのみよ。
マップ的にあと七体くらいで目的地かな?
上を通れればいいんだけど、こいつ上の索敵が広く取られてて、目的地までにトレインになっちゃって結果、一体ずつ倒した方が安全なのです。
「アトラクト!」
グリーヴァの掛け声とともに、俺たちはまた後ろに回り込む。
「支店を板に吊るしてギリギリ太るカレーセットあ“ーーーー!」
俺の九回連続の神速の突きが、カツン、カツンとゆっくりと鳴り響く。
「兄貴。何語だい?」
ブライトが俺よりも素早くデスサイズを動かしながら聞いてくる。
「キワミ語」
「異世界から来たことを話してから、よくわからないこと言うようになったんだぜぇ」
だって、ネットがないから発散できないんだもの。
「ミームは一生ネットの宝物って名台詞を知らないのかよ?」
「知らねぇぜぇ」
早くもこの会話は終了ですね。
「おい! 人が殴られ続けてんのに、お気楽にくっちゃべってんじゃねぇぞ!」
「こりゃ、すまねぇ。グリーヴァさんの言う通りだ。申し訳ねぇ」
怒られちった。
確かに、戦闘中に無駄話してたら、メイン盾に怒られるのは当たり前だ。
本来なら、結婚指輪のネックレスでぶん殴られるところだ。
「ごめんなさ___範囲攻撃!」
謝ろうとしたところで、ゴーレムの膝が沈み両腕を上げ始めた。
範囲攻撃の開始モーション。
体を、コマのように回転させて周囲を薙ぎ払う、無機物だからできる荒技だ。
「ガードフォーカス!」
グリーヴァが攻撃を止めるべく、スキルを発動する。
だが、こいつはジャイアントオークのように、盾に当たっても回転を止めない。
盾に弾かれるだけで、また戻ってくる。
本当にコマのような挙動をするのだ。
だが、一度弾かれれば二度目はない。
「ブライト! 下がりすぎだ! ひっかかる!」
だが、ブライトが安全を確保するために距離を取りすぎている。
そして___
後ろにいたゴーレムのリンクを踏む。
「すまねぇ!」
「走れ! グリーヴァ頼むぞ!」
こちらに向かってくる二体目のゴーレム。
急いでグリーヴァの方に駆け出す。
「早く逃げろや!」
ゴーレムの向こうから聞こえる絶叫。
だが、ゴーレムの膝が沈みこむのが見えた。
二連続___範囲攻撃!
「兄貴!」
ブライトは俺より足がはやい。
だから、ゴーレムの攻撃より早くグリーヴァの後ろ、ブロックの隙間に逃げられた。
グリーヴァの後ろなら死ぬこともない。
よかった。
だが___
俺はもう……間に合わない。
前のゴーレムの範囲攻撃内に入れば即死。
後ろのゴーレムに殴られれば即死。
左右は崖。
登ってる最中に攻撃されても即死。
そう思ったら自然と声が出ていた。
「グリーヴァ! クリスを森に近づけるな! それとお前の友達を奪ってすまなかった!」
俺はデスサイズをいつものように構えて後ろを振り向く。
「うぉおお!」
殴られなきゃ即死じゃない。
だから、少しでも可能性がある、このデカブツと確率の勝負としゃれ込む。
「シヤァ!!」
グリーヴァかな?
名前……呼んでくれたな。
「兄貴ぃ!」
「大兄貴ぃ!」
見えないがこっちに来ようとしてるだろう。
「来るなよ! 俺を人殺しにしないでくれ!」
だから二人に叫ぶ。
死を与えた俺の前で死んで欲しくない。
俺はぶつかるようにまずは一撃。
舐めんなよ。
舐めんじゃねぇぞ!
「俺はビルダーズブレイブの廃プレイヤーだ! テメェなんぞには負けねぇんだよ!」
ゴーレムの腕が持ち上がっていく。
振り下ろし攻撃のモーション。
この間に俺をターゲッティング。
腕を上げきるのに3秒。
「すぅっ!」
息を短く吸い込んで、俺はゴーレムの周りを走り出す。
ゴーレムは腰から上だけを回転させて、俺を狙い続ける。
腕が上がりきる。
そこから0.9秒の溜め。
落ちてくる巨大な塊。
35フレームの攻撃とかあくびが出るぜ!
俺の後ろ髪をかすって、地面に重く鈍い音が響く。
「死ね! 死ね! 死んでくれ!」
攻撃の硬直に俺はデスサイズを当て続ける。
即死は発動しない!
「どけっ! どけよぉおお!」
グリーヴァの叫び声が聞こえる。
それと共にゴーレムを盾で叩きつける音も。
「うあああああ!」
二回目の振り上げ攻撃!
運は俺の味方だ!
通常攻撃なら回避はできても隙がなくて攻撃できない。
二度目の重い音。
「ぬぅううううあああ!」
二度、三度、四度___
ゴーレムの膝が沈む。
みんなの方を見る。
あちらの攻撃も終わってない。
もう、終わりか。
もっと、ビルダーズブレイブ、楽しみたかったな。
いや、違うな。
俺は皆の方を向いて叫ぶ。
「みんな! 楽しかった! ありがとう!」
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