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第六十七話「矜持と、現実性と、本命とって話」

 

 うん。楽しかった。


 あとはグリーヴァがなんとかしてくれるだろう。


 ブライトとロトンドがグリッチを上手く使ってサポートするだろうし。


「届かねぇ! 届かねぇえええ!」


 当のグリーヴァは叫んでるけど。


 絶叫……してるけど。


 諦めてないんか。


 じゃあ、俺も最後にゲーマーの矜持を持って、挑みますか。


 デスサイズの柄を短く握り、刃の部分を眼前に持ってくる。


 鎌で平突きの構えをするのは俺だろ。


「ガトチュゼロスタイルってか?」


 既にゴーレムは準備を完了して回転を始めている。


 最後にあの腕をデスサイズで突っついて終わりだ。


 ブルブルとシェイクするかのように揺れる刃先。


 ___こえーなぁ


 瞬間ゴーレムの手がデスサイズの刃にぶつかる。


 俺は命を刈り取る衝撃に備えて目を瞑る。


 だが、いくら待っても衝撃は来ない。


 目を開けると目の前にゴーレムはいない。


「え?」


 地面を見ると鋼鉄が三つ落ちている。


「助かった?」


 自分の体を触ってみる。


 特に何もなっていない。


「即死を……引いた?」


 最後の最後で?


 そう思ったら、腹の底からスカッと爽やかな笑いが湧き上がってくる。


「ふへへへ」


 もう、デスサイズも持っていられず、尻もちをつく。


「あははははははははは」


 だけどやってやった。


 乱数を引いてやった!


 この俺が!


「ゲームの乱数に勝った!」


 両手を何度も叩きつけて勝鬨をあげる。


「おい! 大丈夫か!」


「兄貴!」


「大兄貴ぃ!」


 どうやら、あちらも終わったようだ。


 皆が駆けつけてくれた。


「くっくっく。見ての通り。死んでない。死んでないぞぉ」


 やっぱりゲーマーは諦めちゃダメだよ。


 最後に逆転があるから、さ。


 最近はリセット案件ばっかりですっかり忘れてたよ。


「くそっ! 心配させやがって! 笑ってんじゃねぇよ!」


 ふふふ。


 心配してくれたんだね。


 いい子で嬉しいよ。


「兄貴、無茶しないでくれよ……」


「大兄貴に何かあったら、俺は……っ」


 普段あまり感情を表に出さないロトンドの突然の涙。


「おいおい。泣くなよ。俺まで……泣けてくるじゃないか」


 年取ると涙もろくなっていけねぇや。


 俺のために泣いてくれる人がいるって、幸せなことだよな。


「二人とも泣いてられないぜぇ。このままじゃお次が来ちまう。一旦ブロックの方に避難しようぜぇ」


 おっと、ブライトの言う通り、二度目の乱数調整は御免だ。


「あと、テメェはクセェからズボンをかえろよな」


 グリーヴァに言われて、ズボンを見るとビチャビチャだ。


「あら、恥ずかしい。粗相しちゃったわん」


 恥ずかしいは恥ずかしいけど、大人になったら、これくらいではそんなでもない。


「チッ。大丈夫そうじゃねぇかよ……」


 グリーヴァが仏頂面に戻った。


 だけども……


「大丈夫じゃないので、引きずって行ってください」


 腰が抜けて立てません。


「はぁ?! テメェで這っていけ! 俺はしんがりを守る!」


 俺に触るのが嫌なのか、それとももう俺たちが襲われないようにするためか。


 でも、すごく嫌そうな顔が印象的だった。


「じゃあ、俺らで運ぶぜぇ。そっちの手を持ちなよロトンド」


「グスッ。了解でさぁぁ」


 俺の腕を二人が持って、湧き潰し用のブロックの間に連れて行ってくれる。


 腰が抜けてるからお着替えは、もうちょっと後で。


 ひとまず、アイテムボックスから着替えを出していると、ブライトが目の前で土下座してきた。


 なんとも美しい作法にならった土下座である。


「兄貴。大変な落とし前を背負わせてしまい、申し訳ねぇことでごぜぇやす。全ては俺のしくじりにごぜぇます。どのようなご処分なりとお命じくだせぇ。大人しく首を差し出しやす」


「お前は、本当にこの世界の人間か?」


 ブライトの大真面目モード。


 別名博徒モード。


 義理人情で首をもらうにゃ、重すぎる。


「気にすんな。モンスターとやり合ってたら、あり得ることさ」


 リンクなんて日常茶飯事、ちょっと俺が弱かっただけで、本当はこんなに大ごとになるわけじゃない。


「では、お許しいただけるんで?」


「ああ、許す許す」


 だから、頭をおあげなすって?


「では不躾ながら、一つ言上(ごんじょう)仕(つかまつり)やす。以前も申し上げた通り、あっしが命を張るのは、あくまであっし自身の性根と意思によるもの。兄貴にゃ何の咎もごぜぇやせん。どうかそれだけは……どうか今一度、お腹に収めておいてくだせぇ」


 ……俺がこの二人の死について勝手に背負うなって話だな。


 だけどね___


「性根を持ち出すなら、お前らの命に責任を感じるのが、俺の性根なんだけどな」


「ご納得いただけねぇとおっしゃるなら……あっしはここで肚(はら)を括るしかございやせん」


 死ぬな死ぬな。


 意味がないでしょ。


 ん? 腹を切ると、腹を括るは違うのか?


 まぁ、いいや。


「わかったよ。納得はしないけど、理解はする。そういう性質なんだよ俺は」


「承知致しました。腹におさめていただき、感謝申し上げます」


 玉虫色が日本人のお好みです。


 でも本当のところ、ブライトたちが自分たちで選ぶのと、俺が責任を持つのは相反する事じゃない。


 どっちも、あってもいい。


「わかったわかった。もうお立ちなさい。それと普通にお喋りしやしんす」


「わかったぜぇ」


 そう言って、やっとブライトが頭を上げる。


 モヒカンの先っちょに土がついてるので叩いて取ってやる。


「なぁ、ブライトさん。あんたこいつに弱みでも握られてんのか? 俺がやってやろうか?」


 突然の熱い風評被害。


「ふざけんな。誰がそんなことする……しなくはないか」


 俺は反論しようとして、手段を選ばない時はやるなぁと思っちゃった。


「よし。覚悟しやがれ」


 盾を構えるグリーヴァは無表情。


 あれ、結局俺死んじゃうの?


「いやいや、待ってくれよグリーヴァさん。兄貴は俺らの大恩人で、そんなことは一切ないぜぇ」


「でさぁ」


 流石の二人が助けてくれた。


 うむうむ。


 良きかな。


「言わされてんじゃないのか? 大丈夫か?」


 ある意味の熱い信頼。


「大丈夫だぜぇ」


「ならいいけどよ」


 グリーヴァは離れたゴーレムを警戒するように、ブロックの入り口に立つ。


「……あんたも、いつかわかる日が来るんだよ」


 その背中にブライトが呟く。


「あん? なんだいブライトさん」


 しかし、その声はグリーヴァには届かなかったようだ。


 ブライトがお節介するとは珍しい。


 でも、いつその時が来てもいいように……ってのもあるのかもな。


「何でもねぇぜぇ。今は時分が悪いやって話だぜぇ。兄貴のズボンがびしょ濡れだからな」


「そうだった! ちょっと男子! あっち向いててよね!」


 そうだった、股間ビチャビチャだった。


 急いでズボンとパンツを脱ぐ。


 抜けた腰も治った。


「誰が見るかボケが!」


 照れちゃってもう。


 俺はアイテムボックスから水の入った樽を出して、桶で下半身を洗う。


 ついでに脇汗ぐっしょりの、上半身もキレイキレイしちゃいましょう。


「おい」


 ビチャビチャからバシャバシャになった俺に声がかかる。


「んー俺か?」


「テメェだ」


 結局俺の方を見てる。


 しかし、最近グリーヴァから話しかけてくる回数が増えてる気がする。


「なーに?」


「チッ」


 なるべく印象良く聞き返したのに。


「なんだよ」


「さっきは何がいけなかったんだ」


 やっぱり、戦闘の話か。


 それなら、さっきブライトに言った通り。


「なんも? リンクが引っかかったってだけ。普通は二枚目の盾役が引きつけるか、最大火力で、片方を速攻するのが正解ってだけ」


「俺だけじゃダメだってわけかよ」


「今回のことに関してはね」


 悔しそうにするが、今回ばかりは仕方ない。


 盾一枚、紙一枚、ならず者二枚だ。


 イカれたパーティと言える。


「それじゃダメだ」


「気にすんなって」


 思い詰めるグリーヴァに軽く返す。


 マジで、仕方がないからね。


「テメェ、死ぬ気だったじゃねぇか!」


 だが、グリーヴァは叫ぶ。


「俺は守るって決めたんだ! テメェがそうさせたんじゃねぇか!」


 それは心からの絶叫に聞こえた。


 彼が決めた道に早速立ちはだかった大きな壁。


 守れなかったと言う事実が、彼を苛んでいるんだろう。


「だから、守る力をよこせよ! みんなを守る力を!」


 なりふり構わぬ彼と俺の間に、ブライトが入る。


「グリーヴァさん。落ち着きなよ。あんたの考えは立派だぜぇ。でも、人に八つ当たりするのは、お門違いだ。あんたもわかるな?」


「……あぁ。そうだな。俺が間違ってた。すまなかった」


 グリーヴァが素直に頭を俺(・)に下げる。


 その衝撃に俺は口を滑らせる。


「なくもない」


「なに?」


 正直、しまったと思った。


 難易度が今回の比ではない。


 パーティがきちんと揃ってからやるべきことだ。


 だからそう告げる。


「お前だけで、どうにかできる方法があることはあるが、現実的じゃない」


「なんだと! あるならやるべきだろうが!」


 藁にもすがると言う言葉を、表情にしたら今の彼の顔だ。


 悲痛なそれで俺に訴えかけてくる。


 だが、すまん。


「……内容が超言いにくい」


「はぁ? 俺が強くなれば村も守れるかもしれねぇだろ! 言え!」


 わかってる、真面目な話なのもわかってる。


 でも……。


「怒るから嫌だ」


「怒らねえから、言えよボケ!」


 怒らないって言ったのに怒り出したので、大事な事は言わずに説明を開始する。


「じゃあ、結論から言うね? あるモンスターが、ものすごく、本当にものすごく低い確率で落とす、STRポーションをまたたくさん飲めば、さっきのゴーレムも突破できた」


「うっ。ポーション……」


 トラウマにでもなったのか、腹を押さえるグリーヴァ。


「増殖できるんだから、一本だけ何とか手に入らないのかい?」


 増殖バグがある俺たちならと、ブライトの疑問も、もっともだ。


「強いんだよそいつ。俺たちだけだと、まず無理。ヒーラーが一人いてギリ。それを何百回もやらなきゃならないから、リスクが高すぎる」


「じゃあ、無理じゃねぇかよ……」


 グリーヴァが肩を落とし、消沈する。


「大兄貴ぃ。結論からって言ったんでさぁ」


「ああ、兄貴。間に何か隠してんだぜぇ」


 鋭い二人が余計なことを言いやがる!


「そこを言いたくないの! グリーヴァに絶対怒られるし、そのためになんかアレするのも、アレだし」


 攻略のためだと思われたくないんだよ。


 これはマジの感情だから。


「わかった。今回は絶対に怒らないって約束する。だから言え」


「うぅ」


 人の気も知らないで簡単に言いやがる。


「村の要塞化が先だからな?」


 優先順位は流石に守ってもらわなければならないから念を押す。


「分かったから言え」


 腕を組みながら怒った顔して言う。


 なんでお前が怒るんだよ。


 俺が怒りたいよ。


 うぅ。


 仕方ないから言うぞ?


 言うぞ?


「俺とマルールをくっつけてくれ。そうすればレアアイテムが必ず落ちるようになる」


「死ね」


「あぶなーい!」


 グリーヴァがドラゴンシールドを投げてきたので、収納で回収する。


 流石にスキルは使ってこなかったし、物凄く手加減されてたけど、俺はぶつかっただけでも怪我をしかねない。


「やっぱり怒った! だから言いたくなかったのに! その為にマルールと懇ろになるみたいになるから嫌だったのに!」


 もう、俺だって怒るよ!


 グリーヴァ相手だって怒るんだから!


「兄貴ぃ。それはマジな話なのかい?」


「マジだよ! グリリのバカ! もう知らない!」


 言いたくないのに言ったのに!


「マジなのかよ……」


「グリーヴァさん。ちょいとこの話は慎重にした方が良さそうだぜぇ?」


「そうだな。ブライトさんの言う通りだ。マルールさんに何があるかわからない」


「ナニかはする。覚えておけ」


 なんのために、R18MODを入れていると思っているのか。


「やっぱり、退治しておいた方がいいんじゃねぇか?」


「いや、これは照れてるだけだぜぇ」


 ブライトがすぐバラす。


「ブララのバカ! もう知らない! もう、出発! 先に進むぞ!」


 裸な事に気づいた俺は、洋服を着た。


 そして今まで以上に慎重に、残り六体ほどのゴーレムを狩り、問題のモンスターがいる場所まで辿り着く。


 爆裂魔法(・・・・)を使う、『エクスローパー』触手ウネウネの卑猥な形をした危険生物だ。


 ここからが本番だ。

お読みいただきまして誠にありがとうございます!


今回のシヤ生還のために、即死発動率をめちゃめちゃ計算しました。

結果ピックアップで、狙ったURを引くより、数%低いに設定しました。


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>結果ピックアップで、狙ったURを引くより、数%低いに設定しました。  自分のやってるソシャゲだとレアリティ表記が違うからアレだけど、最高レアリティでシングルピックだと2%で、ダブルピックアップだと…
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