第六十四話「連続性と、継続性と、即効性って話」
「よし! 255個達成!」
俺は最後の青く光るポーションを掲げ叫ぶ。
「つ、疲れた……」
昨晩、ろくに眠れなかったであろうグリーヴァは、目から光を失い、作業に没頭していた。
やはり、手を動かして仕事をしている方が、考え悩まずに済むと言うことだな。
あり得たかもしれない未来は、考えてもしょうがないので、自分で折り合いをつけてもらうしかない。
冷たい様だが、こればかりは手助けできることはない。
「グリーヴァさん。こんなの序の口でさぁ。増殖の道はまだまだ果てしないんでさぁ」
笑顔が怖いロトンドのおかげで、今回の増殖はうまく行った。
やはりロトンドにグリーヴァの手を押してもらうことで、増殖のタイミングを合わせられたのだ。
もはやプロの所業!
グッジョブロトンド!
「ロトンドさん。あんた、コイツに毒されちまってるよ」
「適応と言って欲しいんでさぁ」
そうそう。
この世界の住民も、苦だけど苦のまま単純作業はできる。
日本人と同じ、適応能力だな!
「なぁに、たったの三時間弱の作業だ、俺の前世ならまだ半分くらいの仕事量だぞ?」
「兄貴見たいな奴が、いっぱいいるのか……他人事ながら頭が下がる思いだぜぇ」
ブライトが畏敬の念を抱くので、俺はまた知識をアップデートする。
「ふむ。異世界人は短時間労働が普通。学んだぜ。じゃぁ、特別に一時間休憩な」
長時間がダメなら休憩でリセットだ。
「まだ何かやる事があるんだぜぇ?」
ブライトが疲れた表情を見せる。
まぁ、確かにこの場所にずっといるのは気が滅入るのはわかる。
だが、安心して欲しい。
「ブライトとロトンドはないけど、グリーヴァにはある」
「俺か?! まだ何かさせようってのか!」
俺の言葉にグリーヴァが、グッタリとしていたところから跳ね上がるように叫ぶ。
「まぁまぁ、休憩した後だから。それに運動量は少ないし、楽チン楽チン」
今グッタリしていても、休憩すればリフレッシュ。
何なら三十分ごとの休憩でもリフレッシュ。
「グリーヴァさん。動きがない方が辛いんだぜぇ。油断せずに、じっくり休んだ方がいいぜぇ」
「くっ! ブライトさん、あんたの助言ありがたく頂戴するぜ」
戦慄した顔のグリーヴァと、心底同情するようなブライト。
何かの戦いにでもいくかの様だな。
だが、その前にしたい事がある。
「じゃぁ、休憩。の前にグリーヴァちょっといいか?」
「なんだよ」
ぶっきらぼう答えるグリーヴァだが、あまり面白くない内容だ。
ますます、不機嫌な顔になるだろう。
「今からお前を強くする。そのためには、お前のステータスを確認できるようにしたい」
「ステータス?」
「強さを数字に表したものだ。アイテム画面のように確認する」
本来は勇者がホロンダ村の森の奥で、作業台を触ることで解放される仕様だ。
そこで初めてシステムウィンドウが開ける様になる。
「必要なら。やりゃいいだろ」
「ああ。だがそのステータス画面には『称号』と言う欄がある。その人間の職業の状態が書かれていると思ってくれ」
問題はここだ。
俺の予想が正しければ、そこにはグリーヴァにとって受け入れ難い事実が書かれているだろう。
「……それがどうした?」
「すでにお前には、訪れることのない未来の話をしたな? そこに書かれている『称号』は、その訪れない未来の残滓だ。そこは忘れないでくれ」
だが、それはお前のことではないと、そう説明する。
「テメェは、本当に嫌な野郎だな。人が気にしていることをズケズケと。人の心とかないんじゃないか?」
だが、昨日の今日で、自分の愚かな部分、醜い部分を聞かされたグリーヴァは、やはり不機嫌そうな顔をする。
だが、問題ないと思っている。
何故なら___
「今のお前なら大丈夫だと判断した。毎日毎日、守るためにうりぷーを狩り続けたお前なら。すでに訪れない未来のお前を乗り越えていると、そう判断した」
逃げることより、守る覚悟を決めた今の彼には、それだけの実績がある。
彼自身もそれを分かっているはずだ。
「ちっ。御託はいいから、さっさとステータスとやらを見れる様にしろよ」
そっぽを向いたグリーヴァの前に作業台を出す。
今の彼になら触らせられる。
「これを触るだけか?」
「兄貴。大丈夫なのか?」
ブライトが心配の声をあげる。
人形化のことだろう。
だが、グリーヴァは主要キャラクター。
物作りができて当然の彼に、問題が起こることはない。
もし起こるなら俺やブライトたちにも起こってる。
「大丈夫。どのみちグリーヴァやファムは物作りが、できるように出来てる。フラグが立ってないだけだから、問題ない」
「フラグねぇ。また新しい用語だぜぇ」
思いの外知りたがりなブライトが聞いてくる。
「人生ゲームで言ったら、5ぴったり出さないとゴールできない状態で5を出す事……かな?」
「わかったような、わからんような。難しいぜぇ」
言葉で説明しようとすると、ゲームって難しいな。
俺らって感覚でやってるからなぁ。
「おい! なんかブワッてなって、作るがわかるっていうか、思い出したっていうか、何だこれ!」
そんな話をしていたら、グリーヴァが大はしゃぎで叫ぶ。
「俺らもそんな感じでしたぜぇ。驚きますでしょうや?」
「でさぁ。人生が広がる感覚でさぁ」
「ああ! なんだか霧が晴れたみてぇだ!」
同じ体験をした者同士、興奮を分かち合ってる。
俺なんか体作り替えられたみたいに痛かったんだけど。
爽快感見たいのなかったんだけど。
悔しいので三人に割って入る。
「さて、感動しているところ申し訳ないが、ステータスを開いてもらえるか?」
「チッ! わかったよ、ステータス!」
感動を邪魔されてあからさまな舌打ち。
今回は甘んじて受け入れましょう。
だが、ここからは大事な検証のお時間だ。
「VITはいくつだ?」
「11だ」
「結構上振れてるな」
レベルアップによるステータス上昇は振れ幅があるが、ほぼ上限値を引いた数値だ。
グリーヴァの頑張りが女神様に認められたと言うところか。
幸運の女神様の方だがな。
「そんなことより、『卑屈なる逃亡者』ってのはなんだよ」
やはりそこを見咎めるか。
しかし、そんなのは飾りだ。
「それがさっき言った称号だ」
「俺が逃げ出すって言うのか?」
怒った顔をされるが、それは俺に言われても困る。
だが、迷える青年に導きの手を差し伸べるくらい良いだろう。
「だから、そうはならないって言ってるだろ。例えば今から俺が村長になったとして、お前は逃げ出すか?」
「ふざけんな。テメェが何かしねぇか見張るに決まってんだろ」
おっと、俺が何かしでかすこと前提の、熱い信頼。
涙がでてくらぁ。
「じゃあ、逃亡しないな」
「じゃあ、なんでこんなのがついてんだよ!」
尚も納得がいかないのか、説明を求めてくるグリーヴァ。
俺じゃないと説明できないからねこれ。
「これがゲームの仕様ってやつだよ。お前は最初にその称号がついていると決められてるんだ」
「舐めてんのかよ……」
誰にともなく呟く彼に変わって、世の不条理を俺が叫ぶ。
「おーい、クソ女神聞こえてるか?! 世界の住民も文句言ってるぞ?! どうにかしろよ!」
「……してくれるわけねぇだろうが」
「何でしてくれないんだろうな?ケチくさい」
ケチくさい部門第一位だと思う。
ぱやぱやの桃を毎日何個も(強制)くれる、行く末案ジジイを見習って欲しい。
「女神様に面と向かって言えるのは、兄貴くらいだぜぇ」
「面とは向かってないけどな」
面と向かってたら、小手投げをお見舞いしてるところだぜ。
「それで? ステータス見えたから何だってんだ?」
「何本飲めばいいかわかるだろ」
「それだけか?」
「いや、それも大事だが、検証に不可欠でな。まぁ、先に休憩だ」
数値も大事だが、数値がどう上がるかも大事なんだよねぇ。
俺が女神ならそうするっていう、予感があるから、ちょっとブロックを積ませていただきますよっと。
「兄貴何作ってんだぜぇ?」
「ん〜? 多分とっても大事な施設だよ」
便座を置いて、トイレットペーパーに見える、壁掛けの布を置いて。
「俺にはトイレに見えるんでさぁ」
「うん。そうトイレ。必要にならなければいいんだけど」
まぁ、必要になるだろうなぁと思いながら、壁を土ブロックで作ったのが、気に入らなかったので、白い石に変えた。
「さて、休憩もそろそろ良いだろう。グリーヴァ一本目を飲んでみてくれ」
トイレの作成も終わり十分な休憩をとった後俺は、グリーヴァにそう依頼する。
その言葉に、彼はグビリグビリとポーションを飲み干す。
元気ハツラツになりそうなサイズ感だから、一口でいけるだろう。
「どうだ? 防御力あがったか?」
「1上がった」
画面を見ながらグリーヴァが言う。
「ふむ。と言うことは効能自体は即効性のファンタジー仕様と。二本目行ってくれ」
「どうだ? あがったか?」
「あがった」
超絶ファンタジーの薬効成分配合、速攻すぎて毒物の疑いもある。
まぁ、ポーション自体に毒はないだろうが。
「じゃあ、次に行ってみてくれ」
「ちょっと待て。そんなに連続で飲むのか? 結構腹に溜まるんだが?」
はい来ました。
絶対そうだと思った。
「あぁ〜。女神めやっぱりそこはリアルにしやがったか。女神め〜!」
「どう言うことだい、兄貴」
「ゲームだとな、ポーションを使えばすぐに数値が上がって、連続で一気に上げられるんだ。でもここだと、飲み物だろ? 水分。体内に残るだろうなって」
つまり、たぽんたぽんのジャっポンジャっポンだ。
「おい、……まさかここで全部飲むわけじゃねぇよな?」
グリーヴァが床に置かれたポーションの空き瓶をみて息を飲む。
「飲むよ」
「はぁ?!」
「飲む」
何故飲まないと思うのか。
「何でだよ! 帰ってから少しずつ飲めば良いだろ!」
あぁ、そっちの意味か。
ここで飲まないといけない理由があるんだ。
「多分このダンジョンから出る時に、ポーションはなくなると思う」
「なんで!」
少し……説明しにくい。
でも、なるべく軽く言う。
「ゲームイベントでな。入り口でお前とファムが口論になってポーションを割ってしまうんだよ」
ファムが自分が飲んでみたいといい、グリーヴァが自分専用だからと言っても聞かずに奪い取ろうとして、床に落としてしまうというイベントだ。
このときどちらの味方をするかで好感度が変わる。
「……ファムが?」
やはり少し暗い顔になるグリーヴァ。
「専用のイベントだから、回避もできないと思う」
ダンジョンの外に出たら発生するので、強制に近い。
「ファムはいねぇじゃねぇか」
もっともだ。
だから、ファムがいないことでこのイベントは回避できるのか。
それとも運命力の様なものが働いて結局、ポーションは割れるのか。
何気に、重要な局面なんだよ?
「他の要因で割れる可能性もある。そのポーションはここでしか手に入らないんだ、万が一は避けたい」
俺が説明すると納得したのかしないのか、グリーヴァは宝物部屋を見回す。
「本当はファムと一緒に来るはずの場所だったのか……」
きっと、もしもを描いているんだろう。
「あとは勇者ね。代わりに俺はいないけど」
でもその未来には、勇者がいて、心に深い傷を負ったお前とファムがいるんだよ?
だからね?
その未来はこない方がいいんだ。
「だから……っ! お前は無神経すぎんだよ」
昨晩シヤが死ぬことは伝えた。
俺がシヤを乗っ取ったことに、嫌悪するのはいい。
だが、俺がもし消えたとして、元のシヤに頼ることはできない。
それだけは、認めてもらわないといけない。
「俺にはゲームのことしか分からない。お前は、現実のこともゲームのことも知ってる。俺になんかあったら、お前が判断しなきゃならない」
「チッ。何度も言わせんな。俺がいる限りテメェが死ぬことはねぇ」
吐き捨てる様に言う、グリーヴァ。
「頼むよ」
俺はそれを頼もしく感じた。
だけど、やるべきことが先にあるので、感傷は後!
「じゃあ、続きを飲んでいくんだが、ポーションがリアル飲み物になったことで、一気に全部飲むと体を壊す可能性が、非常に高い!」
「兄貴。一気に飲むこと自体無茶だぜぇ」
ブライトの一般常識!
「そこで先ほど建てたトイレである!」
だが俺には効かない!
「お、おい……まさか」
壁をつけてあげたのは慈悲です!
音は消えません、自分で歌ってください!
「用量用法を守って飲むことで、体への負担を限りなく少なくする!」
なんか、飲み物っていっぺんに飲むと死ぬ事があるらしい。
「具体的には……。えーどれくらいだったかな」
熱中症対策の時に、本部から資料が来てたんだよなぁ。
確か、うろ覚えだけど……
「多分、三分に一本飲んで、二十分に一回トイレに行ってもらいます!」
膀胱炎とか、裂なんとか膀胱になるからです!
「はぁ?! 無茶苦茶すぎんだろ! それにトイレなんて自分の意思でどうにかなるか!」
「大丈夫です。この世界の住人はこの『小さなトイレ』に入れば、排泄できます!」
「新しい『くらしのかたち』かい?」
鋭い指摘のブライト。
洋式トイレと、明かりと壁掛けタオルと、ドアで完成する。
一日一回住民が用を足す場所だ。
「うむ。グリーヴァなら人形化の心配もないだろうから有効に活用させてもらう!」
さりげに便器の素材が粘土なので、現段階ではそこそこ貴重。
そう無限増殖がなければね!
今度、村の全世帯に設置の予定。
「あと、確か1リットル排泄するにつき、塩を何グラムか摂取する必要があった気がするので、栄養棒も一時間ごとに食べてもらいます!」
なんか塩飴舐めろって、テレビでも言ってたし、本部資料にも書いてあった!
栄養棒は完全食。
当然塩化ナトリウムも入っているでしょう。
「腹が裂けるぜぇ?」
「そのためのトイレです」
大は小を兼ねる。
「尻が裂けるんでさあ」
「栄養棒で回復します! 名付けて、永久ポーション&排泄ループ大作戦! 行ってみましょう!」
裂傷なら栄養棒のHP回復で治るはず!
やれるやれる!
ちなみに永久とつけたのは、単純計算で十二時間以上かかるからです。
「ちくしょう! 俺は逃げねぇ! 村のみんな見ててくれ!」
俺たち三人はトイレで呻くグリーヴァをよそに、人生ゲーム2を作成し時間を潰したり、グリーヴァの為に少し豪勢な料理を出して殴られたりした。
ちなみに裂けたっぽい。
歩き方が変だったから。
そんなこんなで、244本ポーションを飲んだグリーヴァは防御力世界最強の座を手にいれ。
俺たちは、ダンジョンの出口でポーションを手に一歩外に踏み出すのであった。
お読みいただきまして誠にありがとうございます!
前書きで書かなきゃいけないこと忘れました。
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