第六十三話「得られぬ成果と、あり得た未来とって話」
「なんか疲れたな……」
俺は宝物部屋の中央で焚き木を前に肩を回す。
あれから何十回と増殖バグを試し、成功率は10%未満。
人とタイミングを合わせるのがこんなに難しいとは思わなかった。
ロトンドがどれだけすごいか、認識させられる。
当のロトンドは今は毛布に包まって睡眠をとっている。
時間がかかりすぎたので、今日はここで野営することにしたのだ。
万が一ボスがリポップした時のことを考えて、俺は見張り中だ。
「しかしこれ面白いな」
俺は宝箱の中に剣を入れたり出したりして、その挙動を楽しんでいる。
宝箱にアイテムを入れると、吸い込まれるように沈み込んでいき、小さくなる。
取り出すと現実の大きさになる。
ビッグライトとスモールライトみたいだ。
多分、宝箱に無理やりアイテムを入れるための仕様なんだろう。
「これが、敵の投擲武器に効くとなったら面白いんだけどなぁ」
今度検証してみよう。
ジャイアントオークの棍棒が小さくなったら、面白かったかもな。
「しかし、255個までどれくらいかかるかなぁ」
手元にあるポーションはまだ5個だ。
三時間かけて5個。
単純計算で六日くらいかかる事になる。
「ロトンドがやれればなぁ」
試しにロトンドとグリーヴァでやらせようとしたが、結果は失敗。
ロトンドのアイテム画面にポーションは表示されなかった。
多分、本来の増殖バグも勇者と他の人が行うバグなので、特別仕様の俺がやらないとダメなんだろう。
適当な推測だが、できんもんは仕方ない。
「練習でもしておくか。1、2、3」
画面との距離も計算に入れて、安定したフレーム数を体に覚えさせる。
ゲーム練習の基本だな。
「1、2、3」
発声も大事だな。
ここにブレがあったら、またタイミングがズレる。
「ストップウォッチがあればなぁ。流石に手作りできるもんでもなし」
ないもんは仕方ない。
有名な格闘プロゲーマーは目を瞑りながら百回昇竜拳の練習を、左右で行うという。
凡人の俺はその三倍は必要だろう。
「1、2、3。1、2、3。1、2___」
「うるせぇな。寝れねぇだろ」
もぞりと毛布を押しのけグリーヴァが起き上がる。
「おっと、それはすまない。静かにやるよ」
俺は心の中でかずを数え、画面にタッチする動きに変える。
だが、しばらくしても、グリーヴァが再び寝ようとすることはなかった。
焚き火を見つめ押し黙っている。
「お前未来がわかるんだろう?」
突然ポツリとグリーヴァが呟く。
一瞬あっけにとられたが、俺は答えを返す。
「未来がわかるわけじゃないよ。ゲームで何が起きるかを知ってるだけだ」
実際、もう既に未来は変わりつつある。
それを聞いてまた黙るグリーヴァ。
今度は随分と長い時間を要した。
「本当のシヤは未来でどうなるんだ?」
俺は驚きに心臓が跳ね上がる。
また拒絶されるのか、弾圧の始まりか?
そう思ったが、質問の内容をよく考え、答える。
「聞かない方がいい」
既に幼なじみを失った彼に、また同じ苦しみを与える必要はない。
だが、グリーヴァは静かに言った。
「それ、答えてるみたいなもんだろう」
俺は言葉に詰まる。
確かに彼のいう通りだ、普段ならしない言葉選びに、自分が動揺したことがよくわかる。
「教えろよ。お前にはその義務があるだろう」
こちらに向けてくる眼差しには、責める感情も怒りの感情もない。
ただ、静かに問いかけてくるだけだ。
「そうだな……確かにお前に対しては義務があるかもしれん」
他のやつにいう義理はないが、グリーヴァには知る権利がある。
俺はそう思ったので、話し始める。
「村がモンスターに襲われて壊滅する時に、最初に気づいたのは門番だった」
俺はゲームの画面を思い出し、語る。
「彼は最初に村長になっていたシヤに報告した。当然だな」
「……やっぱりシヤが村長になるんだな」
グリーヴァは納得したようにいう。
「シヤは村のみんなに避難を呼びかけるように、門番に指示をだし、自ら武器を持って門へと向かった」
俺は傍に置いてあった剣を掲げてみせる。
「だが、お前も知っての通りシヤは弱い。足止めにもならず殺される。それがシヤの未来だ」
もし俺が同じようにしても、同じように殺されるだろう。
その方法を取る限り、シヤの死は確定した未来になる。
グリーヴァは俯き歯を食いしばっている。
ポタリと床に染みができる。
ポタリ、ポタリと染みが広がって、それが乾くまで沈黙が広がる。
「村を守るのは自分が死なないためか?」
俯いたままのグリーヴァが聞いてくる。
「それもあるが、言ったろ壊滅だって。村のみんなも殆ど殺されちゃうんだよ。それを避けたい」
それが俺の第一目標。
最初の大型シーケンスブレイクだからな。
「……うそ、じゃねぇんだな」
「この期に及んで嘘をつく意味なんかないよ」
俺は焚き火に薪を追加する。
パチリと言う音とともに、火の粉が舞う。
「俺は? 俺はなにしてたんだ?」
顔を上げたグリーヴァは、本人にしてみれば当然の疑問を投げかけてくる。
「……生きてるよ」
だが、真実を知らせるのはあまりに酷ではないだろうか?
そう思った俺ははぐらかす。
「みんなが死んで、俺が生き残る? 死ぬなら俺が真っ先に死ななきゃおかしいだろ。俺はタンクなんだぜ!」
今の彼はタンクの仕事を理解している。
倒れるなら彼が最初で、そうなればパーティが壊滅することも分かっている。
その知識が彼に疑問を抱かせた。
「その時のお前はタンクですらない」
「じゃあ、何してたんだよ」
「……言いたくない」
彼が知りたい気持ちも理解できる、だが俺はこれ以上彼に傷を負って欲しくない。
自分が逃げ出したなど、今の彼がきいたら深く傷つくと思うから。
「なんで?!」
「言う必要がない」
「それは俺が決めることだろ!」
グリーヴァは必死に叫ぶ。
嫌悪する、俺に対して。
懸命に。
___俺が決めること……か。
傷ついて止まるのか、先に進むのか。
決めるのはグリーヴァか。
俺は学習するのだ。
選ぶのは俺じゃない、そいつなんだと。
「分かった。ショッキングだから覚悟して聞けよ?」
グリーヴァは表情を引き締め頷く。
「お前は親父さんの死を乗り越えられず、シヤに村長の座を奪われたと思って村を出奔する。お前が戻るのは村が壊滅した後だ」
俺の言葉を聞いたグリーヴァは、口を開けて惚け崩れ落ちそうになるのを手で支える。
「なん……そんな、俺は……守ることすら?」
うわごとのように呟き、そのまま動かなくなる。
俺はその姿を見て断言する。
「安心しろ、もうその未来は来ない。俺が変える。それは確定した未来だ」
もう何度も発した約束。
俺の覚悟を示す。
「だからポーション増やさなきゃならん。明日に響くからもう寝ろ」
俺はわざと軽く言い肩をすくめる。
それに反応したのか、無意識なのかグリーヴァは横になり毛布を頭まで被る。
寝れんかもしれんが、横になるだけでも違うだろうよ。
俺はまた焚き火の世話に戻ると、眠っているブライトの方から声がした。
「成長したんじゃねぇの? 兄貴よぉ」
こちらを見もせず言ってくるブライトに俺は苦笑いと共に返す。
「おかげさまでな」
俺の強がりにロトンドの方からも噛み殺した笑いが聞こえる。
さて、明日もポーションの増殖だ。
本当にロトンドができればなぁ。
……待てよ?
タッチするのはグリーヴァでも、その手をロトンドに押させればどうなる?
「もしかしたら、いけるんじゃね?」
即試したいが、そんな空気でもないので、俺は宝箱に剣を出し入れして時間を潰すのであった。
お読みいただきまして誠にありがとうございます!
ちゃんと読めると思った方は下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★ ☆ ☆ ☆☆こう!
面白いなと思ったら下の☆ ☆ ☆ ☆☆を★★★★★こう!
まだの方はついでにブックマークなどもお願いしたい!
いいねと感想もお待ちしております!




