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第六十二話「感動と、ご褒美と、労働とって話」

 

「兄貴! 宝箱があるぜぇ! これ宝箱だろぉ?」


 ボスを倒した後に現れた、宝物部屋に入ったブライトが、珍しく興奮したように宝箱へ駆け寄る。


 うん。姿格好に似合ったリアクション。


 モヒカンと宝箱、その二つが揃って何も起きないはずはなく。


 いや、起きないんだけど。


「大兄貴ぃ! こっちにもありまさぁ!」


 ロトンドも嬉しそうに別の宝箱を抱きしめている。


 丸いロトンドが抱えていると、動物がじゃれついているように見えて和むな。


「そうだねぇ。宝箱だねぇ。嬉しいねぇ?」


 本当は、宝箱に擬態したモンスターもいるので、不用意に近づいてはダメなんだが、せっかくの感動に水を差すこともあるまい。


 注意するのは、興奮が冷めた後でいいだろう。


 そして、残る一人は入り口付近でソワソワしていた。


 グリーヴァである。


 俺がいる手前、はしゃぐのが憚れるが、初めての宝箱を前に少年の心が押さえつけられないといったところか。


 わかる。


 わかるよ。


 俺だって未だに、隠しダンジョンの宝箱にはワクワクするもの。


 その喜びを俺のせいで奪ってしまうのは、申し訳ない。


「よし! 丁度三つ宝箱があるから、一人ずつ開けてみようか!」


 俺の言葉に宝箱を撫でくりまわしていたブライトと、頬ずりしていたロトンドが目を輝かせる。


「俺はこの宝箱を開けるぜぇ!」


「俺はこいつでさぁ!」


「順番! 順番に開けるからね!」


 俺は二人に待てをかける。


 彼らに尻尾があれば、引きちぎれんばかりにそれを振っていただろう。


「……チッ。なら俺はこっちの宝箱を開けてやるよ」


 いかにも仕方なさそうな雰囲気を出しながら、早足で宝箱に近づくグリーヴァ。


 おじさんには、声が弾んでいることを隠せないからね?


 さて、当然俺は中身を知っているわけだが、盛り上がりというものがあるだろう。


 単純に現金を最後にするか、アイテムのレア度で行くか。


 ふーむ。


「兄貴! どれからだ?! どれから開けるんだぜぇ?!」


「でさぁ! でさぁ!」


「ふん。早く決めろよ」


 三人とも辛抱たまらんご様子。


 よし。見た目のインパクトにしましょう。


「では、ロトンド君の宝箱から開けましょう!」


 ぱぁっと、表情に花を咲かせて宝箱を開けるロトンド。


 手を突っ込んで、中から取り出したるは、鋼の剣。


 エーアストの街売り最強でそれなりのお値段。


「おお! 超強い武器でさぁ!」


 剣を掲げて、はしゃぐロトンドと何故か拍手する二人。


 だが、俺は別のところに意識を持っていかれる。


 ___あの剣、宝箱に入る長さじゃねぇな。


 ゲームでは宝箱を開けると、アイテムのエンティティが飛び出してくるだけだが、今のロトンドは明らかに剣を取り出していた。


 ち、きちんと見とけばよかった。


 後で宝箱を回収して検証だ。


 今はみんなのお楽しみが先だ。


「次はブライト君、いってみよう!」


 一応俺も後ろについて、中身を確認する。


「おお! ゴールドだぜぇ! ざっくざくだぜぇ!」


 ゴールドを掬い上げるように掲げるブライト。


 手から溢れるゴールドと、ぶつかり合うゴールドの金属音を楽しんでいるようだ。


 ……死神の布を売った時の方が大金だったはずだけど、黙っていよう。


 ___ゴールドは通常と同じサイズで入っている、っと。


 頭のメモに書き留める。


「そして、最後は満を持してグリーヴァ君! 開けちゃおう!」


「ちっ。なんだこの茶番は。付き合ってられねぇぜ」


 そう言いながらも、顔は笑ってるし、言葉を終える前に開けているのをおじさんは見逃さないよ?


 グリーヴァが宝箱を開けると、中から柔らかな青い光が溢れ出す。


「おおっ!」


 驚きに身を引くグリーヴァ。


 だが、すぐにハッとなって俺の方を見て睨みつけてくる。


 ……俺が嫌でも感情の発露を抑える必要はないと思うが、彼にとっては、きっとそれが恥に思えるんだろうな。


 不自由をおかけして申し訳ない。


「さて、中に入っている小瓶。それが今回のお目当てだ」


 俺がそういうと、グリーヴァは宝箱の中から、青く光る美しい小瓶を丁重に取り出す。


「それが、お前を世界で最強の防御力をもつタンクにするアイテムだ」


 グリーヴァは小瓶をみてゴクリと唾を飲み込む。


 こいつはグリーヴァ専用の防御力アップアイテム。


 VIT UPポーション【グリーヴァ専用】だ。


 ビルダーズブレイブでは度々この【専用】アイテムが出てくる。


 汎用にしないことで、難易度を調整する開発陣側による仕様だな。


「だが、それ一個で最強になれるわけではない。大量に消費する必要がある」


「……じゃあ、どうするんだよ?」


 上げて落とされた形になったグリーヴァは、不機嫌そうに聞いてくる。


「そいつを増殖バグで増やす」


「増殖バグ?」


 俺は論より証拠と、ロトンドを呼び、わかりやすく今手に入れた鋼の剣を増殖する。


「ふ、増えた」


 呆然とする、グリーヴァ。


 まぁ、俺も現実で目の当たりしたらそうなると思うよ。


「さて、このように二人でタイミングを合わせる必要があるが、ロトンドはもう慣れたものだから、短い時間で増殖は終わるだろう」


 もう、ロトンドはアイテム増殖のプロだからな。


 俺はグリーヴァからポーションを受け取る。


「大兄貴ぃ。ちなみに今回はいくつ増やすんでさぁ?」


「グリーヴァの防御力を正確に確認できないので、確実を期すために255個にする」


 本当は、今の防御力分は不要だが念のためだ。


「じゃあ大体、一時間半から二時間って事でさぁ」


 なれたものだと言わんばかりのロトンド。


 この世界の住民も回数をこなしていけば、単純作業が苦にならなくなる。


 最近、俺はまた学んだのだ。


「大兄貴ぃ。苦にならないんじゃなくて、苦しいけどやってるだけなんでさぁ」


「うお! 何故俺の心の声が?! とうとう読心能力まで開花したのか?!」


「いや、顔に出てましたし、もう、それくらいは考えてることわかりまさぁ」


 恐るべしロトンド。


 だが、そうかこの世界の住民は単純作業は苦になるが、苦なだけで作業はできる。


 アップデート完了だぜ。


「はぁ」


 何故かため息をつくロトンドと横並びになって、収納箱にポーションをしまい一度蓋を閉める。


「あれ? 大兄貴。アイテムが出てこないんでさぁ」


「え?」


 蓋を開けて現れた、俺の方のアイテム画面にはポーションが表示されている。


「なんだ? バグか?」


 バグのバグなんてごめん被りたいが。


「もう一回やってみよう」


 その後何度か蓋を開け閉めしたが、ロトンド側にポーションが表示されることはなく、ブライトに変わってもらっても結果は同じだった。


「まじか。このアイテムだけ、増殖できないのか?」


 だとしたら、最悪だぞ?


 あらゆる計画が狂うどころか、グリーヴァが今後、冒険についてこられるかも変わってくる。


「やべぇな」


 手で顔を覆いながら、今後の計画を練り直そうとするが、思考が千々に分かれまとまらない。


 そんなとき横に誰かが立つ。


 見上げるとグリーヴァだった。


 彼はおもむろに収納箱の蓋を閉め、そして開ける。


「……俺の方にはあるが、テメェの方はどうだ」


 俺はハッとなって画面を確認する。


「ある……あるぞ!」


 何故か知らんが、アイテムが出てきた!


 専用アイテムだからか?


 理由は今はどうでもいい、後は増殖できるかだ。


「よし、グリーヴァ。1、2、3で同時に画面のアイテムを触るぞ」


「……わかった」


 俺は手を擦り合わせて気合いを入れる。


「1、2、3!」


 俺の手にはポーションがある、横を見るとグリーヴァの手にはない。


 まさか、増殖できないのか……?


 俺が絶望しかかっていると、ロトンドが声をかけてくる。


「お二人ともタイミングがずれてたんでさぁ」


 む? そうか。まだ慌てる時間ではないということだな。


「じゃあ、もう一回やってみよう!」


 黙って頷くグリーヴァ。


 俺は収納箱にポーションをしまい、同じように掛け声を上げる。


「1、2、3!」


 横を見る。


 持ってない!


「大兄貴が3の時に触って、グリーヴァさんは3の後に触ってまさぁ」


「そ、そうか。グリーヴァ3で触ろう。3でだぞ」


 いそいそと俺はまた準備する。


「1、2、3!」


 失敗!


 なんでだ!


「大兄貴は3の『さ』で触って、グリーヴァさんは『ん』でさわってまさぁ」


「よしじゃあ、『ん』で触ろう! な? 『ん』だぞ?」


「ちっ。わかったよ」


「1、2、3!」


 失敗!


「なんでだよもう!」


 俺は頭を掻きむしる。


「知るか! テメェが合わせる気がねぇんだろ!」


 グリーヴァも苛立ちながら言ってくる。


「そんなことあるか! こちとら何万回もやってんだぞ?! そっちが合わせられてないんだよ!」


「んだと! 何万回もやって合わせられねぇ、テメェのセンスの問題だろ!」


「俺のセンスの問題だと?! センスの塊だわ! 努力と才能の塊だわ!」


「まぁまぁ、お互いに熱くならず、ゆっくりやればいいんだぜぇ」


 ブライトが間に入ってくるが、言っていいことと悪いことがあると思うんだ。


「俺のビルダーズブレイブへの情熱を舐められて、熱くならずにいられるか!」


「そんな話してねぇだろ! 初心者に合わせろって言ってんだ!」


 まさに取っ組み合いになる寸前、肩に手を置かれる。


「お二人とも。言い合いしている暇があったら、手を動かす。それがアイテム増殖ってもんでさぁ」


 横を見れば光の消えた目で俺たちを見るロトンド。


「増殖は。手を動かす。何度も。何度も。手を動かす。そこに心はいらない。お分かりで?」


 なんの感情も浮かばぬ、ロトンドの声。


「「はい」」


 俺とグリーヴァの返事が重なる。


 それから何度も繰り返し、一個目の増殖ができたのは三十分後のことだった。


「やった! 出来た出来たぞぉ!」


「よっしゃああ!」


 俺たちは思い思いに雄叫びを上げる。


 くぅ。よかった増殖はできるんだ。


 心底安堵した俺の肩に手が置かれる。


「手を。動かす」


「はい」


 俺はロトンドの方を見ないように、作業を繰り返すのであった。

お読みいただきまして誠にありがとうございます!


2段階認証めっちゃ大変なんですけど……


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