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第六十一話「初めてと、いつものと、当然とって話」

 

「では蹂躙に行こうか」


 俺は重そうなボスへと続く扉を開ける。


 ___あぁ。懐かしい。


 俺はボス部屋と、中央にいる巨人を前にそう感じていた。


 お相手はジャイアントオーク。


 巨大な棍棒を携えた、物理特化の大型モンスターだ。


 あの棍棒を食らえば、俺などミンチになって壁にへばりつくことになるだろう。


 だが、残念ながらそうはならない。


「グリーヴァ15マス前進。ブライトは右側から。ロトンドは左。グリーヴァから3マス横に離れて13マス前進」


 俺は予め教えてあった内容を、念のため繰り返す。


 各々の1マスの感覚が間違っていないかの確認も兼ねている。


 二人を2マス分後ろに下がらせているのは、最初のタゲをグリーヴァに取らせるためだ。


 グリーヴァ達が前進を開始すると後ろに扉が閉まる。


 これでボスを倒すまで、この扉が開くことはない。


 俺は気にすることなくボス部屋の壁、その左側へと向かう。


 この部屋は円形になっていて、壁には等間隔で一本ずつ柱が並んでいる。


 ただし円の左右の頂点だけは、柱が二本並んでいる。


 俺はその柱の前に立つ。


「ぐぎゃあああああ!」


 ジャイアントオークの叫び声。


 開戦の合図だ。


 ジャイアントオークは重い足音を響かせ、一番近いグリーヴァへと向かう。


 足音は六回。


 6マス移動。


「アトラクト!」


 グリーヴァがタゲを取る。


 ジャイアントオークは棍棒を振り上げ、それを振り下ろす。


「今のが通常攻撃!」


 グリーヴァの盾が棍棒を受け止める轟音に負けないように叫ぶ。


「うぉ!」


 迫り来る巨大な棍棒と轟音に驚いたのかグリーヴァが唸る。


 その隙にブライトとロトンドが剣で攻撃する。


 回数は三回。


 それ以上はタゲが跳ねて、二人に向かう可能性がある。


 今回はそれも計算に入れ、リーチより取り回しを優先した剣に変えさせた。


 グリーヴァはタゲを気にせず攻撃させている。


 その手順を三回。


「次が範囲攻撃」


 俺の言葉に従うかのように、ジャイアントオークは右上段に両手で棍棒を構える。


 棍棒を右上段に構えたので反時計回りの回転攻撃。


「ロトンドは3マス下がれ。グリーヴァは左を向いてガードフォーカス。ブライトは近づいて六回攻撃」


「ガードフォーカス!」


 俺が早口で指示する前に、既に皆動き出している。


 皆覚えがいい。


 教えた通りの動きができている。


 ジャイアントオークが範囲攻撃を開始する。


 だがロトンドはもう範囲内にいない。


 そして周囲を薙ぎ払うはずの攻撃は、グリーヴァの盾に阻まれ止まる。


 スキルを使ったグリーヴァには全くダメージは無い。


 グリーヴァが回転攻撃を途中で受け止めたおかげで、その先にいるブライトには攻撃が届かない。


 故にブライトは連続で攻撃を繰りだす。


「アトラクト!」


 グリーヴァがブライトにタゲが飛ばぬように、スキルを使う。


 それを見てロトンドが攻撃を再開する。


 しばらくその作業が繰り返されたあと、ジャイアントオークが俺の方を向く。


「突進攻撃。皆所定の位置に退避」


 三人は俺とジャイアントオークの直線上からどく。


 ジャイアントオークは肩を前方に突き出しタックルの構えをとる。


 一番防御力の低い、後衛狙いの攻撃の合図だ。


 俺は依然柱と柱の間の前に立っている。


 ジャイアントオークが構えてから120フレーム。


 約二秒。


 俺は念のため、多めに4マス横にズレる。


 その瞬間、猛スピードで俺が立っていた場所をジャイアントオークが通り過ぎ、壁にぶつかる。


「シールドソーサー!」


「がぁあ!」


 壁にぶつかりスタン状態のところに、グリーヴァのスキルがすかさず炸裂し、たまらずジャイアントオークは叫び声を上げる。


 俺は柱の間にいるジャイアントオークの後ろに、ブロックを二段だけ積み上げる。


 そして落ちているドラゴンシールドを拾い、グリーヴァの元に歩いていく。


 グリーヴァは栄養棒でHPを回復させている。


 本当はそんな必要もないが、念のためHPは常に全快させる作戦にした。


「ほい」


「……おう」


 俺は複雑な表情をみせるグリーヴァに盾を渡して、またジャイアントオークのいる二本の柱を目指す。


 ちょうどジャイアントオークが、邪魔なブロックを棍棒で破壊しているところだ。


 おかげで数秒時間が稼げている。


 ブロックを破壊したジャイアントオークは膝だめに腰を深く落とす。


「グリーヴァは中央。二人はそこから5マス」


 俺は後ろを見ずに、指示を出す。


 皆の足音を聞く限り必要なかったようだが。


「がああぁ!」


 ジャイアントオークの攻撃開始の合図。


 開発者の優しさだな。


「グリーヴァ6マス前進」


 その言葉と同時に、ジャイアントオークは柱の間から、その巨体から想像もできないような、大ジャンプを見せ、先ほどまでグリーヴァがいたところに轟音と共に着地する。


 地面を揺るがすそれは、防御力が一番高いキャラの真上から強襲し、着地の衝撃波で周囲5マスを強制スタン状態にする大技だ。


 だが、当然範囲内には誰もいない。


 着地の硬直に動かないジャイアントオークだったが、三人とも近づかない。


 何故なら___


 ジャイアントオークは、誰もいない空間にやたらめったら棍棒を振り下ろし始めた。


 この攻撃はランダム。


 ヘイトの量に関わらず行われるので事故りやすい。


 だが、くらってやる理由はない。


 その攻撃が終わると、三人はまた間合いを詰めて攻撃を開始。


 もう一度突進がくるので、それを躱した俺は次の準備に取り掛かる。


 アイテムボックスからブロックを取り出すと、後ろで、どすんという足音が一回。


 ___1マスズレたな。


 俺はチラリと戦闘状況を確認。


 俺は位置を修正しながら地面にブロックを置いていく。


 上から見れば、螺旋を描いているはずだ。


 俺が最後のブロックを置いたあたりで、ジャイアントオークの雄叫びが上がる。


「うぎゃぎゃぎゃ! うぎゃぁ!」


 両腕を大きく振りかぶり、ゴリラのように威嚇している。


 ___俺にとっては降参の白旗でしかないがね。


「発狂モード! 予定より壁側1マス後ろに退避!」


 俺の叫びと共にジャイアントオークの体が赤黒く染まっていく。


 体力が半分以下になった証だ。


 ここから攻撃パターンが変わり、厄介になる。


 ジャイアントオークは腕の筋肉を軋ませながら、棍棒を俺の方に向かって振りかぶる。


 俺は横に3マスズレる。


 ごうっ! という音が鼓膜を揺らし、風圧が俺の髪をなびかせる。


 後ろで壁にぶつかる轟音。


「こわっ!」


 絶対に避けられるという確信があったが、リアルに軽自動車ぐらいの物体が高速で迫ってくるのはめっちゃ怖い!


 初見でよかったかもしれん。


 二度目は過剰に避けちゃうかも……。


 俺が二の腕をさすりながら、柱の一本へと向かう。


 ジャイアントオークは、棍棒を投げた後、頭を突き出し闘牛のように走り出す。


 本来なら部屋の中央から外側へ、螺旋を描くように走り回る攻撃だ。


 パワーアップした奴の進路に入れば手痛いダメージを受ける。


 攻撃側も追いかけながら攻撃しなくてはならないし、後衛は進路から逃げなくてはならないし、割と厄介な攻撃だ。


 だが、グリーヴァ達三人は移動した場所から一歩も動かない。


 もうすぐ終わるからだ。


 ジャイアントオークは、俺が置いたブロックに吸い寄せられるように進路をとる。


 走っているジャイアントオークはブロックでは止めることは出来ない。


 前方(・・)にある物を破壊して突き進むのみだ。


 だが、ブロックに接触し破壊するまでには一瞬の間がある。


 その間も前進を続けるジャイアントオークは、ブロックの当たり判定に押し出され、壁側に1マスズレる。


 そしてジャイアントオークは何度もそれを繰り返し、どんどん壁側にズレていき___


 俺の横にある柱にぶつかり止まる。


 俺はジャイアントオークの横(・)にブロックを積み上げ、オークがズレないように固定する。


 ここのボス部屋は全体が非破壊オブジェクト。


 前方の柱は壊れる心配はなく、今のコイツは横のブロックを壊せない。


 本当は途中で止まって棍棒を回収に行くはずなんだが。


 コイツは、特定の座標に到達するまで止まることも別の攻撃をすることも出来ない。


「それがお前のボスとしてのプログラム(役目)だもんな?」


 俺は返ってくることのない問いかけを、走るモーションを続けるジャイアントオークに投げかけ、皆の元へ歩いて行く。


「あとは、煮るなり焼くなりどうぞ?」


 俺は惚ける三人に声をかける。


「これが、テメェのいう……攻略ってやつかよ……」


「兄貴……これが、あんたの本領ってわけかい」


「でさぁ……」


 確かにこれが俺のやり方だ。


 効率的に、安全に、そして確実に。


 それが俺の求める完璧な攻略だ。


「ほれ、まだ終わってないぞ。あのデカブツを一方的に惨殺してこい」


 俺は三人の背中をジャイアントオークの方へと押し出す。


 まぁ、うまく行ってよかったよ。


 自信はあったがね。


 この世界は現実だが、役目は強制され、スキルは物理法則を無視してゲーム通りに動く。


 開発陣が倒せるように(・・・・・・)専用のプログラムを組んだボスなら、必ず役目を強制されゲーム通りに動くと思っていた。


「ぎゃああああああああああ!」


「お、終わったか」


 無防備な背中にグリーヴァのシールドソーサーを連発されていたジャイアントオークの断末魔。


 後ろを振り向けば、新しい扉が出現していた。


 ここを開ければ、お目当てのアイテムが手に入る。


 ___グリーヴァの防御力を1上昇させるアイテムが。


「さて、アイテム増殖。有効に活用させてもらおうかね」


 俺は重厚な扉を押し開けながら、そう呟くのであった。


お読みいただきまして誠にありがとうございます!


長かった……

まともに攻略をしてもらうのに、六十話かかったっ。

これが本来のなろう作品っ!


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