第六十話「学習と、問題と、予習とって話」
「ストーンアロー!」
俺の手から放物線を描き放たれる石ころが、ソードオークの体に当たり、ぺちっという音とともに、地面に転がる。
三体のオーク達は、まさに鬼の形相で俺を睨みつけてくる。
「おっかなす!」
ソードオークが俺に到達するまでに、ソーサラーの魔法が一度放てる状態になるだろう。
故に!
「えー、サンドぉ目潰し!」
またまた、俺の手から放たれた砂の目潰しがソーサラーにヒットし、行動をキャンセルさせる。
「よし! グリーヴァ、スイッチ!」
「アトラクト!」
俺の代わりに前へ躍り出たグリーヴァは、すかさずソードオークのヘイトを自分に向ける。
ガツンという金属音と同時に、ソードオークの剣とグリーヴァのドラゴンシールドが火花を散らす。
俺は上を見て二人に指示する。
「よし! 二人は槍で目を狙え! 目だ!」
「あいさー」
「でさぁ」
ブライトとロトンドの上空からの波状攻撃。
「ぎぃいい!!」
三方向から攻撃されたソードオークの苛立った唸り声。
そして俺は手に持ったストーンバレットを投げるタイミングを見計らう。
ただの石ころだけど。
……グリーヴァに当たってしまうから、投げられないな。
仕方ない。ストーンボールを補充しよう。
俺は戦闘音が後ろで響く中、地面に転がっている石ころを拾い集める。
この石ころは誰にでも扱えて、必ず1ダメージを敵に与えるというチートアイテムだ。
ゲームでは射程距離が短く使い所が限られていたが、ここでは俺の強肩次第で長距離砲と化す!
投げる時の叫びはお好きにどうぞ!
「ぎゃぁ!」
む、ソードオークが倒されたようだな。
次は後ろに控えていたランサーオークだ。
先程は煮え湯を飲まされたが、このシヤ。
もう油断はないと思っていただこう。
その証拠に既に!
洞窟を天井まで塞ぎ、一人分の通路だけを残してある。
しかも通路の両脇には高さ2マスの足場を設置済み。
敵を一体ずつ迎え撃ちながら、ブライト達が上から攻撃できる仕組み!
安全に攻撃できるように、ブライト達には鉄の槍を装備させた!
リーチの長い攻撃は、段差を超えてくる。
ランサーお前には学ばしてもらったよ。
「兄貴! そろそろだぜぇ!」
ブライトの声に俺は、アイテムボックスから砂の目潰しを取り出し、両手にもつ。
「ぐげぇ」
俺の到着と同時にランサーの断末魔。
「グリーヴァ! ガードフォーカス!」
「わかってるよ!」
グリーヴァは盾の影に身を沈め防御態勢に入る。
「ガードフォーカス!」
一瞬円形の光がグリーヴァを包む。
物理、魔法両方への防御力を向上させるスキルだ。
光が消えた瞬間に、火の玉がグリーヴァの盾に当たり霧散する。
「よし、きた!」
俺は身を屈めるグリーヴァの肩を踏み台に飛び越え、砂の目潰しをソーサラーオークに投げつける。
「ぎゅるぁ」
よしヒット!
「皆の者タコ殴りじゃあ!」
「あいよー」
「でさぁ」
「ふん」
三者三様の返事とともに、三人がソーサラーに殺到しボコす。
うむ。ブライトとロトンドは、ちゃんと剣に持ち替えておるな。
ゲームではフレンドリーファイアはないが、ここは現実。
長物を使えば味方に当たる危険がある。
本当にランサーには教えられたよ。
「ぎゃぁ〜」
ソーサラーが光となって消える。
「よし、完全に安全な狩りだったな」
俺は結果に満足し何度も頷く。
「おい」
「なんだ?」
「ちょっと、仕掛けが過剰だろ」
俺に話しかけることのないグリーヴァが、珍しく話しかけてきたと思ったら、作戦への進言だった。
「何事にも過剰ということはない。目標はノーダメージ、ノーフユーチャー(相手が)だ」
「普通にやっても、ダメージ受けねぇだろうが」
ふむ。確かにグリーヴァはダメージを受けないだろう。
レベルが適正以上な上に、破格のドラゴンシールドを装備し、オークソーサラーの火の魔法も火属性半減の効果でほぼ無効化。
鉄壁である。
「しかし、ブライト達に火の魔法が飛んできたら、ダメージを受けてしまう」
ブライト達のレベルはおそらく15に到達していない。
装備も街売りで特殊効果はないため、物理も魔法もノーダメージとはいかない。
「魔法はテメェが潰してんだろ。安全マージンを取るなって言ってんじゃねぇ。いちいち大袈裟にしすぎだって言ってんだよ」
「しかし、危険が危ないからなぁ」
現実では何があるかわからないとわかった今、石橋を叩いて壊す勢いで進んでいきたい。
「チッ。悠長にしてられる時間があんのかよ」
グリーヴァは苛立って言ってくるが、言い分はもっともだ。
万が一収納箱グリッチが通用しなかった場合のことを考えると、時間は惜しい。
だが、危険がなぁ……
俺がうんうんと唸っていると、ブライトが手を上げる。
「兄貴よぉ。これからもモンスターとの戦闘はあるんだろぉ?」
「そりゃあ、ある。むしろモンスターと戦闘しに行くのが目的まである」
「だったらよぉ、常に安全で緊張感のない戦闘と、臨機応変に考えながらやる戦闘だったら、兄貴はどっちがいいと思うんだぜぇ?」
むぅ。戦闘経験ということか。
しかし、生憎俺は実戦経験皆無の一般人。
どちらが正しいのかなんてわからん。
俺の理論ではナイフで攻撃より、安全圏からスナイパーライフルで撃つ方がいいと思うんだが。
「ていうか、テメェ以外、敵の攻撃で死んだりしねぇだろうが。テメェが後ろに引っ込んでりゃ済む話だろ」
グリーヴァがウンザリしたように言う。
なんてことを言うんでしょうこの子は。
「アタクシにも砂の目潰しを投げるという大事な仕事がございましてよ!」
「大兄貴ぃ。それ俺じゃダメなんで?」
ロトンドがおずおずと言ってくる。
……確かにロトンドだったら、モンスターの攻撃モーションに合わせることなど造作もないだろう。
「俺っていらない子……?」
「いや、ほら、兄貴にはブロックを積んでもらう仕事があるぜぇ?」
ブライトの優しさが染みる。
でも、君もグリーヴァの案に賛成なんだね?
「よし、わかった次の敵次第でどうするか決めよう」
確かに即死はないなら(俺以外)検証してみてもいいかもしれない。
最悪グリーヴァの防御力でゴリ押せる。
「チッ。答えは出てると思うがな」
吐き捨てながら、さっさと歩き出すグリーヴァ。
その後にブライトが続き、俺の後ろにはロトンドがつく。
一応バックアタックを気にした陣形だ。
ロトンドならすぐに異変を察知するであろうとのブライトの意見を取り入れた。
しばらくすると、また三体のオーク達が現れる。
グリーヴァは足元の石を拾い上げると、オークに投げつける。
「ぎゃぁ!」
グリーヴァは迫ってくるソードオークを盾で思い切り殴りつける。
吹き飛んでいくソードオークの代わりにランサーが突っ込んでくるが、盾で槍を捌き、また殴りつける。
その間にロトンドは砂の目潰しをソーサラーへ投げている。
その後グリーヴァはソードとランサーを交互に殴り飛ばし、合間にブライトは槍で突いている。
何度か繰り返し消えていくソードとランサー。
「シールドソーサー!」
グリーヴァの放った盾がソーサラーを光に変える。
この間数十秒。
一分経っていない。
「ふん」
こちらをみて勝ち誇るグリーヴァ。
揚々と盾を取りに行っている。
「ブロックを置くお仕事もなかったんだが?」
俺はブライトを振り向く。
「あぁ、現場監督って大事だぜぇ?」
まぁ、しかしグリーヴァの戦闘能力が高い事が証明されたのだから、良しとしよう。
先を行くグリーヴァに追いつきながら、そう思うことにした。
「グリーヴァ、いつの間にか戦闘が強くなったんだな」
俺の問いにしばらくの間を置いてグリーヴァが答える。
「毎日、モンスターと戦ってりゃ嫌でも身につく」
……そうか、ただレベル上げの為にやらせていたうりぷー狩りは、確かに彼の血肉となって結実していたのか。
きっと、俺と違って作業で狩るのではなく、強くなるためにやってたんだろうな。
「そうか」
俺は自分の判断が、意図とは違っても彼の役に立ったことを嬉しく思った。
その後は特に会話もなく、敵に会うこともなく道を進んでいき、少し開けた場所にでる。
「さて、一旦ここで休憩だ」
「だから、過剰すぎるって___」
反論しようとするグリーヴァを手で制止する。
「いいか、よく聞け。この先にボス……強いモンスターがいる」
俺の言葉に三人とも真剣な眼差しを向けてくる。
「今から攻略方法を教えるから完璧に覚えてくれ。悪いがここは俺の流儀で蹂躙させてもらう」
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