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第五十九話「戦闘と、指示と、信念とって話」

 

「アトラクト!(引き付ける)」


 グリーヴァのスキル発動と共に、敵のうちの一体の注意がグリーヴァへ向く。


「グリーヴァはそのまま、そいつを引きつけてろ! ブライト! 右の敵をこっちに引っ張って来い! ロトンドは俺と一緒に高所から攻撃!」


 俺はすでに積み上げていたブロックの上から、仲間たちに指示を出す。


「うるせぇ! 指図すんな!」


「あいよぉ!」


「了解でさぁ!」


 三者三様の返事がダンジョン内にこだまする。


「グリーヴァ左に2マス! ソードオークの体で、ソーサラーの射線を切れ!」


 俺はブライトを標的にしているオークソーサラーに砂の目潰しを投げつける。


「2マスってどれくらいだよ!」


「2メートルくらいだ!」


「じゃあ、最初から言え!」


 グリーヴァが文句を言いながら、ソードオークを上手く誘導していく。


「兄貴ぃ、連れてきたぜぇ!」


「ぐがぁ!」


「槍の射程にグリーヴァを入れるな! 壁に押し付けろ! ソーサラーは俺が対応する!」


 そう言っている間に、ソーサラーの杖が赤く光り出したので、砂の目潰しで行動をキャンセルさせる。


「ぎぃ!」


 ソーサラーが目を抑えて動きを止めている。


「兄貴ぃ! ちぃと、俺だけだと難物だぜぇ?!」


 オークランサーの攻撃を凌ぎながら対応していたブライトからの応援要請。


「OKだ! グリーヴァ! ソーサラーの射線は絶対切っとけよ!」


「偉そうに言うな!」


 俺はブロックから飛び降りると、ランサーのヘイトがブライトに行っている間に、ランサーの左右をブロックで囲う。


「ブライト! 一回スタン入れろ!」


 ガツンという音と共に剣の腹で敵の頭をぶっ叩くブライト。


「ぐおぉ!」


「効いてねぇ!」


 ブライトが叫ぶ。


「連続で行け! 三回に一回成功する!」


「よいしょぉ!」


 もう一度ドタマをかち割る勢いでスタンを打つブライト。


「あ、がっ」


 それを食らってランサーが怯んだモーションを出す。


「ブライト下がれ!」


 ブライトが飛び退くとともに、俺はブロックでランサーの前にブロックを積み上げ閉じ込める。


「ロトンド降りてきてブライトと一緒にソードに攻撃!」


 ランサーは、もう後回しでいい。


 ロトンドは体型に似合わぬ素早さでひらりと降りてくると、グリーヴァの邪魔にならない位置から攻撃を繰り出す。


 ブライトは敵の足を狙い機動力を奪っている。


「おい! ストレス溜まるぜ、コイツぶん殴らせろよ!」


 グリーヴァが痺れを切らしたように叫ぶ。


「そうしたら、ソーサラーが魔法打ち放題になって俺が死ぬ!」


「じゃあ、かまわねぇだろ!」


「流石に良くないよ?! そういうこと言うのは?!」


 砂の目潰しをソーサラーに投げながら俺が叫ぶ。


 ソーサラーがブラインド状態の間に俺はブロックを素早く積み上げる。


「あいよ! 射線切ったから、おもくそ殴れ!」


「おっしゃあ! シールドバッシュ!」


 重い衝突音と共にソードオークが吹き飛びながら転がる。


「ぶふぉお!」


「油断するなよ! オーク系はHPが高いからな!」


「いちいち小言がうるせぇんだよ!」


 そう言いながらも、グリーヴァは油断なく敵と間を詰める。


 その間にソードオークは素早く立ち上がり、腰だめに剣を構え腕に力を入れる。


 あのモーションは範囲攻撃の薙ぎ払いだ。


 グリーヴァなら大したダメージにならないが、座して見ている必要もない。


 俺は砂の目潰しを投げつけて、行動キャンセルをかける。


「ぐぉお!」


「グリーヴァ、シールドソーサー!」


「おらぁ!」


 グリーヴァが俺の声に反応して装備していた、盾を飛び道具として放つ。


「ぎやぁ……」


 見事に盾が当たり、ソードオークは光となって消える。


 今のグリーヴァが装備している盾でシールドソーサーを使えば、雑魚敵などひとたまりもない。


 なんてったって、超高性能のドラゴンシールドだ。


 レシピ、ドロップしてたんだよぉ!


 守備力50の現状最強も最強の盾だ。


 弱点は盾が飛んでいってしまうので、連射できない事と万が一無くしたら、超絶痛手なことだ。


「次、はソーサラー行くぞ。ブロックどかすから、その隙間からいきなりシールドソーサー叩き込め」


「……倒せなかったら、マズいんじゃねぇか?」


 俺と話すのが嫌なのに、きちんと大事なことは聞くグリーヴァは偉いね。


「その盾が当たったら、ソーサラーは即死だよ。その盾が何でできてると思ってんの」


 グリーヴァは盾をじっと見つめて、ポツリという。


「本当にドラゴンの鱗なのかよ……」


「他に何に見えんの?」


「……チッ。早くブロックどけろよ」


 不機嫌そうに舌打ちするグリーヴァ。


 空気は悪いが、仕事はきちんとこなす。


 まぁ、悪くないんじゃないの?


 今はね。


 俺はブロックを上二回、下二回叩いて、三回目を連続で叩く事で一気にブロックを崩す。


「シールドソーサー!」


 グリーヴァが叫ぶと共に、壁の向こうから断末魔が上がる。


 ふぅ。


 うまく行った。


 適正レベル15のダンジョンで安全マージンが取れてるとはいえ、初の実戦だからな。


 イレギュラーがあることも考えて慎重に指示したが問題ないようだ。


 これなら、最奥にあるグリーヴァ専用の強化アイテムもGETできるだろう。


「よし、じゃあ残りはランサーを上から突っつこう」


 グリーヴァが盾を取りにいっている間に、俺はブロックで階段を作り四方から攻撃できるように準備をする。


「高所狩りは基本ですからねぇ」


 俺はサクサクっと並べたブロックに足をかける。


「おい、油断すんなって言ったのはテメェだろ」


 グリーヴァに窘められる。


 彼はモンスターに隙を見せない。


「む。確かにな、お前の言うとおりだ」


 大人たるもの、年少の模範となるべきだ。


 今のは良くなかった、戦闘は継続中だ。


「では、慎重に全員で上がっていこう」


 とは言っても、ブロックに囲まれたモンスターはこっちに攻撃できない。


 デスサイズアバターでも通用した実績のある狩り方だからね。


 俺はどっちみちダメージが1しか通らないので、スコップを手にしてブロックの中を覗き込んだ。


 ___槍


 鈍く光る槍先がこちらに向かってくる。


 視えるが動けない。



『死』



「バカがっ!」


 まさに俺の眼球にそれが突き立つ寸前、横から何かが通り過ぎて槍が逸れる。


 すぐに俺は後ろに飛び退く。


 ブロックから落ちて尻を打ちつける。


 上を見上げれば、槍の攻撃をグリーヴァが捌き、ブライトとロトンドが攻撃を加えている。


「おらぁ!」


「ぴぎゃぁ!」


 ブライトの掛け声と共にランサーの断末魔が聞こえる。


「ふぅ。兄貴、やばかったが無事でよかったぜぇ」


 ブライトが降りてきて俺に手を伸ばしてくる。


 俺はそれを掴み立ち上がる。


「ふん。無様だな」


 グリーヴァがブロックの上から見下しながら言ってくる。


「まぁまぁ、誰にでも失敗はありますさぁ。そう責めるもんじゃありませんぜ」


「ふん」


 ブライトが俺を庇うと、グリーヴァは不機嫌そうにそっぽを向く。


「ふぅ。グリーヴァ助かったよ。ありがとう」


 俺は砂を払って礼を言う。


「お前のためじゃねぇ。モンスターに誰かが傷つけられるのが嫌なだけだ。勘違いすんな」


 顰めっ面で突き放すように言うグリーヴァ。


「それでも、ありがとう」


 もう一度礼を言うと、グリーヴァはまたそっぽを向く。


 どんな相手であっても守る。


 それが今の彼の信念なのだろう。


 それが例え俺だったとしても。


 立派だ。


「さて、少しスキルでスタミナを使いすぎた、ここらで一回休憩しよう」


 ちょうどブロックで囲っているので、ここが簡易的な安全地帯となった為、俺は提案する。


「念のため、栄養棒でHPを回復させるのを忘れないでくれよ」


 俺は皆に回復を促し、壁に寄りかかる。


 すると、先ほどの死の恐怖が思い出される。


 うりぷーのときよりも、より死に近かった。


 見れば膝が笑って、手も震えている。


 俺はその手をぎゅっと握り、歯を食いしばる。


 そうすると湧いてきたのは怒りだ。


 ___また、やった。


 ゲームとは違うと分かっているのに、どうしてもゲーム知識を過信する。


 槍を持ってたら、上にも攻撃が届くだろう事とは予測できた事だ。


 だと言うのに、ゲームでは高所狩りは安全という思いから死にかけた。


 腹が立ってしょうがない。


 ムカついてしょうがない。


 ビルダーズブレイブだぞ。


 俺の人生と言っていいゲームだぞ。


 なのに、こんな序盤のダンジョンで死にかけるだと?


 屈辱だ。


 耐え難い汚辱(おじょく)だ。


 俺は思い切り地面に拳を叩きつける。


 三人がこちらを見る気配がするが、何も言わない。


 奥歯がギシギシと軋みをあげる。


「もう、油断はしない。必ずこの世界でも完璧に攻略してみせる」


 俺は自分にそう言い聞かせる。


 完璧だ。


 それ以外は許されない。


 グリーヴァが守るように。


 俺は攻略をする。


 それが俺の矜持だ。


 まずはこのダンジョンを完璧に攻略してみせよう。


 最奥にあるグリーヴァ専用アイテムを手に入れるために。

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